第2話

 先ほど通った廊下の途中にある階段を上っていく。

ポツポツと廊下に設置された燭台の火が揺れ、それに時折混ざるようにリンドウの持つ燭台の火も揺れる。


 踏むたびに音を鳴らす階段を上りきると、左右に二つずつ部屋があった。


「ここがお前の部屋だ」


 そう言うとリンドウは左手前の部屋の戸を開いた。

部屋は月明りすらなく一面暗闇だった。

リンドウが手に持っていた燭台の灯で照らし、ようやく部屋の全貌を見ることができた。


 ベッドだけでなく、チェストやクローゼット、机に本棚まで揃っていた。

埃をかぶっている様子もなく、誰かが使っているようにも見えるが、布団がきれいに整えられているところや、本棚に一冊も本がないことから本当に空き部屋だったのがうかがえる。


「この燭台を渡すから、これをもって早くベッドまで行きな」


 少年はリンドウから燭台を受け取ると一歩部屋に踏み込んだ。

小柄な少年には十分どころか広すぎる程の部屋に、少しばかり居心地の悪さを覚える。


「なんだ、疲れているだろう。早く休みな」


「うん」


「まさか、一人で寝るのが怖いなんてことはないだろうな」


 少年は首を横に振った。


「この部屋、僕が居ていいの?」


「当たり前だろう。ここはお前の部屋だ。今はまだ物も少ないが、必要なものがあればこれから増やしていけばいい」


 一人で寝ることが怖いなんて少年にはない。

村長が見ていてくれた頃はいいが、村長がなくなってからはずっと一人だった。

誰かといるのも、自分だけのものを与えられることも初めてだった。


「ありがとう」


 少年の心からの言葉にフンっとそっぽを向いた。


「そんなこと言ってないでさっさと部屋に入りな」


 少年が部屋に片足を踏み入れた時、何かを思い出したかのように振り向いた。


「リンドウさん、おやすみなさい」


 少年からの言葉に一瞬キョトンとした顔を見せたが、すぐにフッと笑い、


「おやすみ。よい夢を」


 そう言って部屋の扉を閉めた。

足は誘われるようにベッドへと向かい、サイドテーブルに燭台を置くとそのままベッドに身を投げた。

少し体が弾んだ後、体の重みに合わせて身が沈む。

少年は初めての心地にすぐにでも夢の中に落ちてしまいそうな感覚になった。


 何とか身を起こしてろうそくの火を吹き消した。

すると部屋は一種運で暗闇と化した。

今日一日の疲労感とベッドの寝心地もあって少年はすぐに眠りに落ちた。

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シオンに祈る 秋澄 @aksm_013900

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