偽曲

流川縷瑠

第1話空振り、またブルー。

Character

キコ 透明少女

イチ 野球少年

ニーナ 恋する少女

トーコ 子どもっぽい系

ウルシ 帰りたい系

メイメイ 流される系

神崎仁志 自称エリート


Story

♯1透明

♯2夏の残り香

♯3ピンクと水色の間

♯4野球少年と宇宙人

♯5瞬き一秒、一瞬風。

♯6さよならグレー、ささくれと君。

♯7優しさに水

♯8愛しき日々よ

♯9透明人間




【前説】

本公演にお越しいただき誠にありがとうございます。

上演を始める前に、私から皆様に少しだけお伝えしたいことがあります。

これは、戯曲である。

役者は最低七人で演じることが好ましいです。(できれば15人ほど)

セリフを少し変えたり、要らないシーンを削るなどアレンジを加えても構いません。

舞台装置は特にない小さな劇場で行うことをお勧めいたします。

これは、フィクションである。

実在する人物とは全く関係がありません。

ですが、フィクションとはノンフィクションから生まれるものであります。

それはさておき。

観客の皆様がこの“小説”の世界観に浸っていただけることを心からお願い申し上げます。



では、お楽しみください。




♯1透明

幕が上がる。

舞台には少女一人。

切り揃えられた前髪を風が優しく撫でる。

少女は、白い大きな布の上に立っている。

それは白いキャンバスであり、浜辺であり布。

少女は、客の視線を一身に浴びる。


5秒ほど、短く長い沈黙。


深呼吸。

ゆっくり、言葉を吐く。


「空気を吸う、体に冷たい空気が入る、わたしは一瞬透明になる。」

少女の言葉は、ゆっくりと舞台に溶けてゆく。

少女の名は、キコ。


瞬間、声。


「「いっせーのーで!!」」

声と共に少年と少女が現れる。

少女はニーナ、少年はイチ。

二人は、舞台上をくるくるとかけまわる。

照明が、二人を妖精のようにうつす。

白服達、

同時に床に敷かれていた布がキコを覆う。

白服達はける。



二人の動きが止まる。


イチ「1、頑張らないこと!」


ニーナ「ニ、未来を見ないこと!」


イチ「3、何も望まないこと!」


ばっと前を向く。

「「空振り三振、チェンジ!!」」


キーン(ホームランの音)


ニーナはその場で座り込み、イチはバットを構えるようなモーションをする。

かまえて、打つ。


またかまえて、打つ。


これを繰り返す。

イチ「……あのさ、最近思うんだけど、青春ってどうして青いんだろうって」

ニーナ「………」

イチ「青春っていえば桜とかピンクも青春、のイメージはあるじゃんね」

ニーナ「……わたしは」

イチ「うん」

ニーナ「透明だと思う」

イチ「色ないじゃん」

ニーナ「かもね」


バットを振り続けるイチ。


イチ「俺さ、今天才的な発見をした」

ニーナ「…………」

イチ「青春って、青リンゴと同じ構成だ、青い春と、青いリンゴ」

ニーナ「……なにそれ」

イチ「構成」

ニーナ「じゃなくて」


イチ、静かにバットを振り続ける(ふり)。

ニーナボーっと空を見上げる。


イチ「……青春じゃなくて、青い夏で青夏ってどうかな、てか季節やめてもういっそ青りんごにしたらよくね」

ニーナ「…………」

イチ「……聞いてる?」

ニーナ「私、青リンゴきらーい」

イチ「ガキだな」

ニーナ「青リンゴはガキなの?」

イチ「諸説あり」

ニーナ「じゃあうそだ」


ニーナ「わたしは、触れたら壊れそうででも触れたくなるくらい綺麗な“透明”が、青春の色だと思う」

イチ「ふーん」

ニーナ「興味ないじゃん」

イチ「お互い様」




ニーナ、立ち上がる。

イチはバットを置く。


言葉が舞台上を飛び交う。

光の速さで言葉がめぐる。


ニーナ 青春

イチ   春

ニーナ    夏

イチ         別れ

ニーナ 出会い

イチ     挫折

ニーナ       夢

イチ        挫折


イチ「俺たちの青春は、いつだって青春と言えるほど明るいものでは決してなくて」

ニーナ「それでも青春だって信じて青春を生きた」

イチ「しかし終わりは見えている」

ニーナ「それならば」

「「諦めてしまおう」」


ニーナ「一、頑張らないこと!」



イチ「2、未来を見ないこと!」


ニーナ「三、何も望まないこと!」


二人はけていく。



♯2夏の残り香


舞台には布に覆われたキコだけが残る。

恐る恐るキコ布から顔を覗かせる。

足音。

トーコ「トーコの登場!」

ウルシ「うるさ」

メイメイ「手下その1」

ウルシ「乗るんかい」

トーコ「……ウルシは?」

ウルシ「わたしはやらないよ」

トーコ「えーなんでなんでやろうよ!」

ウルシ「それはさー、二人でやってればいいじゃん」

メイメイ「じゃ1抜けたー」

トーコ「メイメイ!」

ウルシ「トーコ」

トーコ「……はい」

ウルシ「放課後あたしたちを部室まで呼んだ理由、聞かせて欲しいんだけど」

メイメイ「そーだそーだ」

ウルシ「こちとら模試の勉強で忙しいんだ」

メイメイ「そーだそーだ」

トーコ「あー、えっとね、」

トーコ言い出しにくそうに、ウロウロ動き回る。


ふと布に手をかける。

トーコ「わぁっ⁉︎」

キコ「………」

トーコ「………」

ウルシ「キコじゃん」

トーコ「もーいるなら言ってよ!!びっくりしたじゃん!!透明人間かっ⁈」

メイメイ「わたしは気づいてたよ(ドヤ)」

トーコ「だから言ってよ!心臓バクバクなんだけど!」

キコ「ごめん」

ウルシ「で、トーコ用件早く」

トーコ「……うきわ」

ウルシ「え?」

トーコ「うきわ、探したくて」

ウルシ「……帰っていい?」

トーコ「だめだめだめ行かないでやめて泣いちゃう」

ウルシ(氷のように冷たい目線)

メイメイ「なんでうきわなの?もう冬ですが」

トーコ「夏の大会のあとに、みんなで海行ったじゃん?そん時めんどくさくて部室に浮き輪置いて行ってそのまま忘れてたことを忘れてて」

ウルシ「一人でよかったじゃん」

トーコ「だって一人で部室行きにくいじゃんもう引退したんだし」

メイメイ「今日オフだったけどね」

ウルシ「帰る」

トーコ「だからやめてよー」

キコ「あのさ、」

三人がトーコの方を向く。

キコ「浮き輪ってこれ?」

キコ、金色の浮き輪をみせる。

トーコ「……わたしのそんなにダサくない」

キコ「え、じゃあ誰の、」

神崎「俺のだー!!」

神崎登場。


トーコ「お、お前は!!」

ウルシ「神崎じゃん」

トーコ「なんで言うの!」

メイメイ「私は、わかってたよ(ドヤ)」

神崎はキコから浮き輪を奪い取る。


神崎「そう、エリートな俺にふさわしいエリートな輝きを持つこの浮き輪は、俺のだー!! 」

メイメイ「じゃバイバーイ」

神崎「帰らせようとすんなぁ!!」

トーコ「わたしのはどこー⁈」

絶望するトーコ。

神崎「だから話聞いて⁈」

ウルシ「トーコ」

ウルシ、空気が入っていない虹色の浮き輪をみせる。

トーコ「わたしの!やっぱり持つべきものは、ウルシちゃん!」

ウルシ「ちゃんはやめて」

メイメイ「どこにあったの」

ウルシ「机の下」


トーコ「……じゃあ、帰るか!」

神崎「待て待て待て!」

待たずに帰る三人。

神崎「ちょ、ほんとに帰んの?マジか、おーい⁈」

神崎、キコをみる。

キコ気まずさのあまり視線を外す。


廊下、キコ、廊下、キコ

迷った末、

神崎金色の浮き輪を持って走り去る。



♯3ピンクと水色の間


部室に一人、キコ。

軽く深呼吸をする。

少女、足を踏み出す、円を描くように布のまわりを歩く。

キコ「高校生活の終わり、大会の終わりがそれを感じさせた、

演劇、に身を委ねた高校生活、

結果は残酷、誕生日だってもう過ぎて、

私は18、大人、に私はなったらしい、

18時50分、雲がピンクと水色になる瞬間、

部活帰りの空に浮かんでたあの雲、空は世界の終わりを感じさせて、私はそれがなんだかファンタジーみたいにみえて、思わず写真を撮った、日常、あの空の色を私はまだ、覚えている」


キコ、足を止める。

キコ「今日も、そんな雲が見えるかと思ったけど、空は雲が覆っていて、灰色で、わずかな雲の隙間から僅かに光る透明な光が私の目にうつる」


しばらく空をみた後、キコはける。


♯4野球少年と宇宙人


「「いっせーのーで!!」」

白服達と共にイチ現れる。

ばっと布を広げる。


イチがその上に立ち、バットを構える。

構えて、打つ。


構えて、打つ。


構えて、打つ。


イチ、バットを置く。


そのまま座り込む。

ニーナ、現れる。

イチと少し離れた位置に座り、本を読む。



イチ「……何」

ニーナ「……」

イチ「……」

ニーナ「……嘘ついたの?」

イチ「え」

ニーナ「イチくん、もう野球はしないんじゃなかったの」

イチ「あー、さっきまで一年に教えててさ、断るのも変だから」

ニーナ「ふーん」


イチ「……怒ってる?」

ニーナ「別に」

イチ「怒ってるじゃん」

ニーナ「……イチくん」

イチ「…はい。」

ニーナ「私、実は宇宙人なんだけど」

イチ「……………………………うん」

ニーナ「宇宙人は記憶力が人間の2000倍なんだ」

イチ「2000」

ニーナ「だからイチくんがなんて言ったか、瞬きの回数さえ私は覚えてるの」

イチ「えキモ」

ニーナ「…………」

イチ「あ、ごめん反射的に」

ニーナ「……そんなキモい私はちゃんと覚えてるの、あの日あの時、イチくんと約束したことを。」

イチ「時間に身を任せて、期待もせずただゆっくり卒業を迎えるってやつ?」

ニーナ「……違う、それは私が作った青春逃避三原則」

イチ「あーね」

ニーナ「でもそれじゃなくて、私がいいたいのは、今日、」


神崎、ニーナの声を遮るように登場。

神崎「呼ばれてないけど勝手に登場しました、神崎です!!」


イチ「……何してんの」

神崎「登場、した!」

イチ「ほんとに何してんの 」

神崎「実は探し物をしてて」

イチ「グラウンドで?」

神崎「風に俺の写真が飛ばされたんだ」

イチ「大事なやつなん?」

神崎「履歴書に貼る用の写真」

イチ「……めっちゃ大事じゃん」

神崎「そうなんだよ、写真飛んでこなかった?」

イチ「いや、みてない」

神崎頭を抱える。

神崎「うーもう遠くまで飛ばされたかな」

ニーナ「探そうか?」

二人、ニーナを見る。

神崎「マジ?」

ニーナ「………マジ。」

イチ「……本気?」

ニーナ「マジ」

神崎「じゃ、次ここを探そうと思ってるんだけど、いい?」

ニーナ「了解」

神崎とニーナ走り去る。


イチはそんな二人の後ろ姿をみて少し立ち尽くす。


イチ「…やっぱり怒ってるじゃん!」


遅れて追いかける。


♯5瞬き一秒、一瞬風。


キコ、布の上に立つ。

一瞬、神崎とニーナ、後ろにイチが通り過ぎる。


キコ「瞬き一秒、一瞬風。

冷たい空気が私を包む、そして私は透明になる

私の目には青い空が映っていて、手や体も空色になるそうやって私は透明になっていく、ゆっくり私が瞬きしている間に風は一瞬で通り去っていく、残っているのは風の冷たい感覚だけでそれもすぐに消えてしまう

あっという間に太陽も東から西へ冬が終わり春になる、歳をとる、そんな無慈悲な時の流れが、まだ大人じゃない私にはあっという間には感じられなくて、長い長い時間があっという間に感じられる日が早く来てほしいと、願っている」


神崎「あ、俺の写真!!」

イチ「ほんとだ!」

ニーナ「すみません、道開けてくださーい!」

神崎「俺のエリーートなしゃっしーーん!!」

神崎たち飛んでいく写真を追いかける。


キコ「透明人間にさせてよーー!!!」


キコの叫びが舞台に響く。

そして空気に溶け込んでしまう前に、

ゆっくりとはける。


♯6さよならグレー、ささくれと君。


トーコ「痛っ」

メイメイ「どしたん」

トーコ「ささくれめくっちゃった」

メイメイ「やめて言わないで痛い聞くだけでも痛い」

トーコ「いー痛いよー」

メイメイ「子どもか」

トーコ「ところでさ、ウルシどこ」

メイメイ「ウルシ、ね」

メイメイ言いにくそうな雰囲気を出す。


トーコ「な、何?」

メイメイ「実はね」

トーコ「うん」

メイメイ「ウルシは海外に行こうとしているの」

トーコ「海、外⁈」

メイメイ「そう、海の向こうに旅立とうとしているの」

トーコ「そ、そんな!私、そんなビッグな夢があったなんて知らなかった、つまりは…」

メイメイ「つまりは?」

トーコ「私は、そんなビッグな奴の友達だったってこと?」

メイメイ「うん?」

トーコ「そしてそして、いつか一緒にレッドカーペットを歩く日が来るということ?」

メイメイ「……かもねー」

トーコ「だよねー」


二人笑い合う。


一瞬沈黙。


トーコ「……でもこんな時のツッコミがいなくなるってこと?」

メイメイ「だねー」

トーコ「今生の別れってこと⁉︎」

メイメイ「そうかもねー」

トーコ「ウルシーー!!」

泣き崩れるトーコ、悟った顔で背中をさするメイメイ。


そのままはける。

いれかわりで、ニーナ登場。

布の上に立つ。

バットを構えるふりをする。


かまえて、打つ。


かまえて、打つ。


これを繰り返す。


ニーナ「苦しい、苦しい苦しい、苦しい。

彼の顔は灰色で、楽しそうになんて見えなかった、はじめはあんなに青空みたいな顔をしていたのに、だんだん雲がかかっていった。

夏が終わった、私たちはもう卒業、それでも彼の顔が晴れることはなくて、私が、晴らせることは無理でもそれでも、灰色のまま、終わってほしくなくて、私は、彼と透明を目指した!」


バットを大きく振りかぶる。

ゆっくりバットを下ろす。


イチ、登場。

イチ「あ、ニーナ」

ニーナ「………」

イチ「何してんの?」

ニーナ「……イチくん、約束破っていいよ」

イチ「え?」

ニーナ「透明人間になる約束」

ニーナ「もうやめよう、逃げるの。」

イチ「急に何、あ、もしかしてこの前のことまだ怒ってるとか?」

ニーナ「頑張って、未来をみて、イチくんの好きなことしたらいい!」

ニーナはける。

残されるイチ。


♯7優しさに水


神崎登場。

神崎「イチ!この前はありがとうな、あの時写真見つかってマジ助かったよ、ニーナにもお礼言っておいてよ」

イチ「………」

神崎「……イチ、お前もしかして、ふられた?」

イチ「ちげぇよ」

神崎「反応早」

神崎イチの肩を叩く。

神崎「ほら、俺の写真をみて元気出せ」


イチ「……え、それ履歴書の写真じゃなかったっけ」

神崎「そう、履歴書の写真」

イチ「え、貼ってねぇの?」

神崎「あまりにもこれめっちゃ盛れてるから大事に取っておいてんだよ!

あ、大丈夫もう一回撮りに行ってちゃんと貼ったから!」

イチ「……」

イチ、無言で写真を取り上げる。

神崎「え、何すんの」

イチ「あきれたーー!」


イチ写真を持って出ていく、それを追いかける神崎。


トーコ「神崎!!」

神崎立ち止まる。

トーコ「ちょっと聞いてよーウルシがさービッグになって帰ってこなくなっちゃうんだよ!!」

神崎「帰ってこない⁉︎家出⁈」

メイメイ「家出ではない」

トーコ「だから、“ウルシさよならまた会える日を願って輪廻転生会”を開こうと思います!」

神崎「つまり?」

メイメイ「ウルシお別れ会」

神崎「でも俺忙しい……」

トーコ、神崎の道を阻む。


神崎が右に行こうとすると、前にはトーコ。

左、メイメイ。


右、トーコ。

左、メイメイ。

右、トーコ。

左、メイメイ。

右、フェイント、左メイメイ。


神崎「く、なんて完璧なディフェンスなんだ!」

トーコ「さぁ」

メイメイ「さぁさぁ」

トーコ&メイメイ、神崎にジリジリと寄る。

神崎あとずさる。


布の上に神崎が立つ。

トーコ「いまだ!!」

布で神崎を包む。

神崎「うわーー!!」


♯8愛しき日々よ


ウルシ登場。


ウルシ「何急に、あたし忙しいんだけど」

トーコ「ウルシ、私ねウルシと会えてよかった。」

ウルシ「え、何急に」

トーコが涙を浮かべながらウルシの前に立つ。

トーコ「ウルシ、海外に行っちゃうんでしょ、もう会えなくなるんだよね。」

ウルシ「海外?なんの話……」

メイメイ、布を取る。

神崎登場。

トーコ「これが、私たちからのプレゼント!私たちが過ごした日々は、絶対に消えない、未来永劫最強無敵だからね!」

ウルシ「え、これはいらないけど……」

神崎「説明求む」

トーコ「ウルシのために、ウルシの推しに鼻が少し似てる神崎連れてきたよ!」

ウルシ「いやだからいらないし」

神崎「悲しい!」

トーコ「そ、そうだよねこんなのいらないよね!」

トーコは気を取り直し神崎をまた布に包もうとする。

神崎抵抗する。


ウルシ「……あ、もしかして、海外いくって、ライブのこと?」


トーコ「え?」

ウルシ「あたしの好きなバンドがツアーやるからみにいく予定なの」

トーコ「え、え、てことはお別れは、なし?」

ウルシ「なし」

トーコ「えーー⁈⁉︎」


トーコ達はける。

いれかわりで、ニーナ登場。


ニーナを追いかけて、イチ登場。


逃げるようにニーナ、舞台を歩き回る。

次第に円を描くように、布のまわりをあるきはじめる。


イチ「なんで逃げんの!」

ニーナ「追いかけてくるから!」

イチ「なんで避けるの!」

ニーナ「関わりたくないから!」

イチ「話ちゃんとしてよ」

ニーナ「何の」

イチ「逃げることをやめること」

ニーナ「それは、」

イチ「それは?」

ニーナ「……貴方がまだ諦めていないから!」


ニーナが加速する。

ニーナ「日々が宝物で捨てられないものだって知っているから、離れても離れようとしても貴方は逃げられない、逃げない!」

イチ「じゃあ、なんで俺に逃げようって言ったんだよ透明人間になろうって!」


ニーナ立ち止まる。


ニーナ「……私が、逃げたくなかったから」

ニーナ、座り込む。

つられてイチも座る。

ニーナ「……イチくん、野球しなよ。」

イチ「え?」

ニーナ「どんなに辛くても、やっぱりイチくんにとって特別で大好きなんだよ、野球は。」

イチ「そう、かな」

ニーナ「そうだよ」

イチ「………」

ニーナ「あのね、宇宙人っていうの嘘なんだ。」

イチ「………うん」

ニーナ「イチくんよりも弱虫な、人間なんだ」


イチ写真を取り出す。

ニーナ「……それ、神崎の」

イチ「あいつの青春」

ニーナ「いーね」

神崎「あー!!俺の写真!!」

すごい形相で走ってくる神崎。

イチ「こわ!はや!」

神崎ものすごい勢いで写真を奪い取る。

トーコ達も登場。

トーコ「やーやーやー」

ウルシ「ねーキコ知らない?」

ニーナ「キコちゃん?見てない」

トーコ「あの子隠れるの上手いからなぁ、絶対前世は透明人間だね」

メイメイ「前世透明人間って何」

神崎「今から演劇部で集まろうってなってんだけどキコが見つからなくてさ」

イチ「へー」

ニーナ「……きっと、部室にいると思う」 

トーコ「じゃ、みんなで探しにいこー!」


トーコに連れられ、全員はける。

静かになった舞台を、キコ一人歩く。

音が小さくなる。


♯9 透明人間


キコ、布の上を歩く。

砂浜を歩くように、大事なものを探すように。

キコ「何をしても、後悔が先にあって、何をやっても黒歴史で、思い出なんて真っ黒に塗りつぶして、透明になって消えたいと思うけど、私はまだ、透明になりきれずに何かを、探している。


風が頬を伝う。

やっぱり私は透明じゃなくて、でも透明になりたくて思い出としてもうしまっておきたくて、私は、ノート、そう、ノートを捨てる、私はノートを捨てに来た、でも、

やっぱり、捨てられなくて、この思い出のノートを捨てるのをやっぱりやめる」


キコノートを開いてみる。

めくる。


めくる。


めくる。


次第にキコは前を向く。

照明がキコを照らす。


キコ「探していたのは、本当は理由で、あの時の自分を許してあげる、愛してあげる理由が欲しくて、私は、ずっとずっと理由を探していた、

あの時、あの日私は一生懸命生きていて、精一杯で最高でがむしゃらにそれでも生きていた、

あの日あの時、今もこれからもずっと空ぶって失敗してばかりかもしれないけど、それでもわたしは、

あの時あの日わたしたちは青々しく燃えていた、空よりも深くて綺麗な、透明なほどきらきら輝いていた。

私は、そう、言ってあげたい。」


キコ布の上で円を描いた後、布からおりる。

トーコ、ミーナ、ウルシメイメイ神崎イチ。

キコをみつけ、集まる。

透明の終わり、青春の始まり。


幕が降りる。




観客席からは拍手。


そしてあなたは、ページを閉じる。

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