第13話 それは──騎士と言うにはあまりに不審すぎた

 ツバサの直感に従い、セオドアを担いで移動し始めてから早数日。

 道中何事も無かったかと言えばそうでも無いのだが、せいぜいが魔物に襲われた程度で特筆すべき出来事は特になかった。


(やっぱ効果を限定すると威力が上昇する感じあるな。制約を設ける事で効率とかも上がると思うわ)

(昼限定とか晴れの日限定とか、制限をかければかけるほど効率も上がるか⋯⋯。どういう原理かは分からないけど、まあよくある感じだよね)

「Zzz⋯⋯」


 なお、会話に参加できない──そもそも会話していることすら認識していない──蚊帳の外なセオドアは夢の中。気絶させたとか魔法で眠らせたとかではなく、疲労と慣れで眠っているだけだ。

 人は慣れる生き物とは言うが、随分と適応力が高いらしい。全力疾走の騎馬──時速約70km──ほどでは無いにせよ、そこそこの風圧がある中を幸せそうな顔で眠っている。

 もしかしたら、夢の中では妻子と幸せな宮廷生活を送っているのかもしれない。


(──むっ! 近い。近いぞ⋯⋯11時の方角だ)

(あとどのくらいの距離?)

(それはわからん。だがすぐ見えてくると俺の直感が言っている⋯⋯見えた!!)

(⋯⋯見えんが?)

(ほう⋯⋯ほほう。むほほ⋯⋯)

(君には何が見えてるんだ!?)


 気色の悪い笑い方を始めたツバサに、トオルは嫌な予感を覚えた。聞いてしまったら後悔するような雰囲気を、この鳥ケモナーの興奮具合から察したのだ。

 そんなトオルの様子から、ケンマもどこか辟易した雰囲気になる。


(まったく──この世界は最高だな)

(何が見えてんだよ本当に⋯⋯)

(ツバサの性癖は鳥ケモメインでそれに付随する産卵とかだから⋯⋯いや、まさかね)

(羽繕いとかも好きだっけ)

(フッ。確かにそれも好きだが、今回は違う。前世ならば規制モザイクがかかっていただろうが、今は生で見れるからな!!)


 その言葉に、二人はあっ⋯⋯と察した。

 規制が入るような事が起きていて、ツバサが興奮するような状況。鳥の獣人も人である以上、きっと生理周期のようなものがあるのでは無いか──そう思考を巡らせていく。

 性的な方向で、人と鳥で共通するものとは何か? 排卵である。

 では鳥の排卵とは何か? 産卵である。そして言葉の定義的に、産卵と排卵は類語として扱われている。


 じゃあ、つまり?


(今──産卵中ってコト⋯⋯?)

Yes,Exactlyああ、全くその通りだ!)

(⋯⋯あんまり負担掛けないように、ゆっくり行こうか)

(⋯⋯そうだな)

(実況は任せろ。今は2つ目の卵を──)


 産卵シーンに興味が無いかと言われれば否であるが、彼らは配慮のできる変態であった。


\/\/\/\/\/\/


 ツバサの無駄に詳細な実況を聞き終え、直接覗いた訳でも無いのに申し訳ないような気まずさをまといつつ目的地へと近づいて行く。

 幸いにもこちらは強い魔物に襲われたりはしなかったようで、馬車を囲むように、護衛らしき全身鎧の騎士数名が周囲を警戒しているのが見えた。


(王様起こすか)

(それがいいだろうね)


 都合良く生えていた岩の裏にセオドアを横たえ、肩を叩いて目覚めを促す。


「ん、んぅ⋯⋯。どうした?」

(着いたぞ⋯⋯って言ってもわかんねえか。あっち見てあっち)

「なんだ? あっちか? ⋯⋯あれは」


 寝起きでふらつくセオドアを支え、ゆっくりと馬車の一団に近づいて行く。

 常に気を張っていた弊害だろうか、護衛の一人が盾を構えながら声を荒らげる。


「何者だ! ⋯⋯って陛下!? も、申し訳ございません!」

「良い。どうせ国は既に滅んだのだ。今は互いに平民である故な」

「い、いえ。そういう訳には⋯⋯」

「良いと言っている。それよりも、カルラとフェニーは無事か?」

「⋯⋯は、今は車内で休んでおります。おりますが、少々お待ちください」

(まあ、せやろな⋯⋯)

(産卵直後だしね)

(無精卵と言えど、その負担はさほど変わらぬだろうしな)


 少し距離をとって佇むトオル達をチラチラと見つつ、騎士──声から判別するに女性──はセオドアと会話を交わす。

 何があったのか、何故ここにいるのか、逆にそっちは何も無かったかなど、主にセオドアが聞いて女騎士が答える形式だ。

 それを聞いていると、トオル達の事へと話は移っていく。


「陛下、あちらの方は?」

「余をここまで連れてきてくれた者だ。身分は分からんが、余に仇なす者では無い」

「それは⋯⋯状況的にそうなのでしょうが」

(安心して欲しい。俺ら無性だから)

(うむ)

(聞こえてないって)

「クリス。セオドアの声が聞こえましたが、セオドアが居るのですか?」


 本当に大丈夫なのかと女騎士が訝しんでいると、馬車の中から鈴の鳴るような声が聞こえてくる。

 落ち着いた雰囲気を感じる声や単語から、おそらく母親の方だろうと当たりをつける。


「は、陛下がいらしております」

「そう。わかったわ」


 カチャリと小さな金属音がし、箱馬車の扉がゆっくりと開く。まず目に付いたのは、眩く感じるほどの白い翼だ。手入れの行き届いた翼は、羽の先まであてやかで汚れひとつない。本当に逃亡生活を送っていたのか、と疑いたくなる程である。

 続いて目に入るのはその頭部。つぶらな瞳は非常に愛らしく、それでいて翼と声に負けない美しさを持った──真っ白なサヨナキドリだった。


(凄く⋯⋯鳥です)

(わぁ、もっと人っぽいと思ってたよ。エジプトの神様かな?)

(──)

(ツバサ? おーい? ⋯⋯死んでる)

(感動の許容限界を超えたんだ。おかしい奴を亡くした⋯⋯)


 ちなみに肉体は人と鳥の中間というか、翼の途中から羽の生えた手が生えており、その羽毛が天然のドレスのようになっていた。

 全体のシルエットも人より鳥に近く、遠目で見たら大きな鳥にしか見えなかったかもしれない。


(あのさ、薄々そうなんじゃないかって思ってたんだけど⋯⋯)

(言わなくともわかるよ。きっと同じことを考えているからね)


((⋯⋯セオドア王、ツバサの同類じゃない?))


 セオドアの名誉のために言っておこう。ツバサほど酷くない。

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うぃーあー“りびんぐあーまー”! 〜生まれ変わっても3バカの絆は永遠に〜 新菜 椎葉 @RakeScarlet

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