第12話 闇でなんやかんやする魔法
目的が決まったはいいものの、地球のような人工衛星による詳細な地図がある訳でもないこの世界。
判明しているのは大雑把な現在の位置と、順当に逃げられていればという仮定の下逆算した、大まかな方向のみ。
(どうするよ。すれ違い覚悟で探し行く?)
(一応合流場所は決めてるようだし、そっちに向かう方が堅実じゃないかな?)
(⋯⋯感じるぞ)
(は?)
(距離まではわからんが、直感がこっちだと叫んでいる⋯⋯)
変態は時にとてつもない能力を発揮する。己の癖の、あるいは愛のために通常以上のパフォーマンスを発揮することもある。
いや、そんな簡単に片付けていい話ではない。
視認できる距離を大幅に超え、知覚できないはずの距離のモノを知覚する。まるで魔法のような知覚能力。
なお、現状正確性を確認できないので話半分に聞くのが吉である。
(ウッソだろお前。⋯⋯嘘だよな?)
(本気だが)
(スキル的なサムシングでも生えたのかい)
(わからん⋯⋯)
(俺も魔法使える気がした時はそんな感じだったし多分大丈夫)
(ほなそれでええか⋯⋯)
異世界は全然分からない。彼らはフィーリングで生きている。
異世界では常識でも、転生してから1年未満のバブちゃんなのだから仕方がない。
「妻と娘を頼む。名も知らぬ黒き騎士よ」
(なーに言ってんですかね、この亡国の王様は)
頭を下げたセオドアに、トオルが苛立ったようにごちる。純愛厨の彼はハピエン厨でもあった。
彼はこう言いたいのだ。父親の欠けた親子がハッピーエンドなものかよ、と。
(もし寝盗られでもしてたら大事だからな)
(寝盗られは悪。それは僕らの共通認識だ)
(獣の交尾ならばともかく、強姦は犯罪だからな。この世界の法律は知らないが)
(野盗の類は?)
((人でなし))
(強姦魔には?)
((死の鉄槌を))
(よし、じゃあ王様担いでいくか)
(さんせー)
(置いていくのも気になるしな)
──と、いうわけで。
半ば拉致のような形で連れて行くことになった。
「待て待て! 最期まで私の身を案じてくれた忠臣の身を、この場に捨て置くのは忍びない」
(じゃあどうすんのよ)
「しばし待て。獣が寄ってこないよう、火葬してやりたいのだ」
そう言うので、トオルはセオドア王を解放した。
「【
(なんて?)
セオドア王が死体に手を向け、詠唱らしき言葉を唱える。すると手から炎が放たれ、死体にまとわりついて燃やしていく。それは不自然に死体のみを燃やし尽くし、金属類のみを残して煙も出さずに消えていった。
あまりにも物理法則に反した現象に、彼らは思わず声──出てないが──を失う。
(何今の魔法じゃん。物理法則を無視して、火葬という結果だけを残してる! すげぇ!)
(この世界の魔法is何!? 1分もかからずに死体を焼き尽くす火力で、綺麗に金属類が残るわけなくない!?)
(なんと面妖な⋯⋯)
──面妖:不思議なこと。奇妙。(出典:Oxford Language)
1番面妖な輩はお前らだよ。魔法に興奮している彼らに変わって、地の文がツッコませてもらう。
(俺が使ってたのは魔法だけど魔法じゃなかった!)
(魔法ってこんな自由でいいんだ。⋯⋯何でもアリすぎじゃない?)
(もしや、どエロい異世界バードを探す魔法も作れるのではないか!?)
(甘酸っぱいけど激苦なコーヒーが欲しくなる青春ラブストーリーを探す魔法もか!?)
(気に入らない相手を意のままにできる催眠魔法も!?)
((いや、お前のそれは自力で出来るだろ))
(そうだけどそうじゃないんだよぉ⋯⋯!)
彼らに魔法という力を与えていいのだろうか。いや、もう既に時間の問題な気もするが。
「どうか、天で安らかに過ごしてくれ⋯⋯。すまない、待たせたな。行こう」
(なんか本当の魔法を見た今ならできる気がする)
(何が?)
(異世界モノの定番、アイテムボックス)
(な、なんだってー!?)
(大切なのはイメージ、そしてそれが出来ると疑わないこと)
(大秘宝でも探すのか?)
(これでどうだ、
(今勇者パーティーの魔法使いの後日談意識した?)
妙にうるさい思念を無視し、トオルが馬車を闇で覆い尽くす。すると風船がしぼむように闇が小さくなって行き、潰されて折れた草が残った。
取り出せるのかはともかく、第一段階は成功である。
(すっげー! 魔法って便利! 今ならなんでも出来る気がする。もう何も恐くない!)
(いるかどうかは知らないけど、魔王が相手でも?)
(勝つさ)
(首と胴体をチョンパされて死にそうだな⋯⋯。コメントでト/オ/ルってネタにされるぞ)
「今のは闇の収納魔法か⋯⋯? 珍しい属性を持っているな。見た目通りでもあるが」
見るからに暗黒騎士な見た目通りである。闇属性の精霊であるからして、むしろ属性に見た目が引っ張られていると言っても過言では無い。
(第二段階、取り出し!
地面に広がった闇から、湧き出すように馬車が出てくる。大成功だ。
(魔力消費も多くないし便利)
「凄いな。物資の運搬役として欲しいくらいだ」
(せやろ)
(通じてないけどね)
馬車にいくらか食料も積まれており、当面の問題は大丈夫であることを確認し、馬と四腕熊の死体も闇の中にしまう。
(あ、そうだ。何しまったか忘れると大変だから目録作らなきゃ)
(今後ものが増えると大変だしね。紙とかないけどどうす──)
(
(──君さぁ⋯⋯)
(生まれる世界を間違えた部類かもしれんな。トオルは⋯⋯)
「おっと。もしかして君、凄い魔法使いだな?」
彼らは知らないが、そこそこ生きた精霊はこれくらいできて当たり前だったりする。精霊自体が結構デタラメなのだ。
⋯⋯なお同時期に産まれた精霊と比較した場合、圧倒的に差があることは明記しておく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます