過速
――もう着いたのか。
大阪駅に降り立って、田中は感心した。新しく導入された車両のおかげでだいぶ交通の便が良くなった。東京の本社に勤めている田中にとって、それはとてもありがたいことだった。大阪にできた新店舗はまだまだ経営が脆弱であるため、定期的に様子を見に来なくてはならないからだ。
田中は今年で五十になる。
二十歳で今の会社に就職したのだが、そのときは東京大阪間の移動にはもっと多くの時間を要していたものだ。当時も東京大阪間を頻繁に行き来していた。重要な取引先が大阪にあったためだ。田中が仕事をこなす上ではその取引先の意思決定とご機嫌取りが必須であったため、仕事に充てるべき時間の多くを移動に削り取られていた。
そのため、残業を重ね、休日を返上してまで働かざるを得なかった。
当時は体力も気力も充実していたからある程度は無理も効いたが、今はそうもいかない。仕事自体は自力で――というより、これまで築いてきた知識と技術と地位と人脈の力で――短縮することもできるが、移動時間は変えられない。そして昔日の移動時間のままであればどんなに自力で仕事を効率的にこなそうが、かなりの残業を強いられることになる。休日も減る。
今そんな働き方をしていれば、遠からず過労死するだろう。
だから思う。新車両が導入されてよかったと。
なにしろ昔は、東京大阪間を行き来するのに、一秒もかかっていたのだから。
欲を言えば、もっと早くなってほしい。だが今は、昔より早くなったことに感謝しておこうと田中は思った。
(了)
忘れたくない夢をみた 泉小太郎 @toitoiho-
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