観察眼と、推理力

@JULIA_JULIA

観察眼と、推理力

 高校からの帰り道、僕はよくコンビニに立ち寄る。友だちと二人で。




「お釣りの五十二円です」


 涼やかな声を発し、柔らかな笑みを浮かべた女性。そんな店員さんからお釣りを受け取り、僕は軽く頭を下げた。




「今日も触ってきたな」


 コンビニを出てから程なくして、僕の斜め前を歩いている友だちが、振り返りもせずに言ってきた。なんのことだか分からずに聞き返すと、友だちは前を向いたまま、説明を始める。


「あの店員さんのこと。お釣りを返すとき、決まってオマエの手に触わるんだよ。オレには触らないのに」


 そんなこと、全く気づかなかった。


 とはいえ、その接触は、指が少し触れる程度のモノに過ぎない。そんな僅かな接触を毎回チェックしていたとは、なんとも恐れ入る。よく見ているものだと感心し、僕は友だちを褒めた。すると友だちは、照れ臭そうに言う。


「べ、別に・・・。よく見てなんか、ねぇよ」


 友だちの耳が、なんだか赤いように見える。


「あの人、オマエに気があるんじゃないかな・・・。で? オマエは、どうなの?」


 友だちからの問いかけに、僕は答える。


「いや、別に・・・。それにさぁ、キミの思い過ごしじゃないかな。あの人、たぶん大学生だよ?」


「でも、オレの手には触れないのに・・・」


「キミの方こそ、気があるの?」


「そ、そんなワケないだろ! あの人は───」


 友だちは振り返り、僕を見た。その顔は、少し怒っているようにも見える。


「あ~、そうじゃなくて・・・。僕に、気があるの?」


「っ!?」


 目を見開き、咄嗟に背を向けた友だち。その耳は、更に赤くなったように見えた。




 あの店員さんが僕の手に触れるのは、ごく普通のことだと思う。どちらかと言えば、彼女が友だちの手に触れないことの方が、普通ではないのだ。


 なにしろ、友だちは見た目が怖い。いわゆるヤンキーに見えるのだ。そう見えるだけで、実際には違うのだが。


 友だちは、髪を赤紫に染めていて、耳にはピアス、そして目付きが鋭い。更には、口が悪い。


 だから彼女は怖がって、友だちの手に触れようとしないのだと思う。にもかかわらず。




「ねぇ、僕に気があるの? もしかして、嫉妬してたの?」


 あんな僅かな接触を毎回チェックしているだなんて、そうだとしか思えない。しかし、友だちは否定する。


「うるせぇ! 自意識過剰なんだよ!」


 振り返ることもなく、そう叫んだ友だち。その耳は、また赤みを増したように見える。




 きっと友だちの顔は、もう真っ赤っかになっていることだろう。



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