第3話

「ルール……さっきも言ってましたね。どんなもので?」


「うむ、勿体ぶっても仕方あるまい。そのルールとはの、ダンジョンは作成したらコアかマスターか、どちらでも良いから自身で攻略せねばならぬのじゃ」


 コアは悔しげにルールとやらを語る。

 少し気になりコアの感情や記憶等をこちらも共有でみれば苦悩に満ちた経験と感情がひしひしとこちらに伝わってくる。


 コアは自分で言ったように弱い存在らしい。

 それはこのルールにおいて強力なマスターがいなければ弱いダンジョンしか作れない事を示唆する。

 そのせいでどれだけ強力な罠やモンスターを配置したとしてもそれを倒せぬ以上ダンジョンとして正式に設置出来ない。


 前任者に関しては言わずもがな、頭も弱く戦闘力も低い。


 故に作れるダンジョンは貧弱そのもの。

 冒険者にとってただの餌。


「つまりこのルールのせいでゲームの様に強いダンジョンには強いボスが。とか弱いダンジョンには……という風にバランス調整されてしまうんですね?」


「うむ……ダンジョンを作った段階で入り口に白い霧の様な物がかかっての。それで……ほれここのボタンでテストプレイが出来るのじゃ」


 理不尽ダンジョンは作れない、と。


 少なくともそのダンジョンを攻略出来る実力が無いと作れすらしない、と。


 試しに色々と罠を置いていくが、コアの言うとおり入り口は白い霧、あるいは単にモヤと呼んでもいい物によって外と隔絶されてしまっている。


 だが疑問もある。


「じゃあこのまま白い霧で入り口閉じてたら駄目なんですか?」


「その場合、いずれ餓死するぞ」


「では外に出て普通に生活するのは?」


 返す私。


「コアはダンジョンから離れられぬ。マスターもな」


 ふむん、逃げ道を尽く潰されてしまった。


 それにじゃな……とコアは神妙な顔して語る。


 ……感情が伝わる。

 決してこのままにしておくか、と言う強い恨みにも近い感情が。


「お主は疑問に思わなんだか?前任者が死んだ……つまる所わしらのおるここにまで冒険者どもが入ってきたという事じゃ」


「あぁ、よく無事でしたね?」


「ふん……知恵を絞り、上手く隠れおおせたと思っておるのか?……それならばどれほど良かった事か」


 コアの語るところによれば、彼女は見逃されたそうだ。


 ……そのコアとしての利用価値の無さ故に。


 弱く、なんの価値も無いと捨て置かれ、それ故に生き延びられたと。


 屈辱だったのだろうか。

 私などは誇りや矜持で腹は膨れぬと割と生きてりゃそれでオールオッケーな所があるから共感は出来ない。

 が、共有を通して無理矢理にその気持ちを理解させられる。


 同時に記憶を無理矢理に流し込まれもする。

 共有にはこの様な能力もあるのか。


 前任者があっさりと死に絶え、なんなく冒険者数人が最奥へと入ってくる。

 せめてもと隠れるがあっさりと見つかり、冒険者どもがこちらを見下ろす。


 あなや、もう終わりかと思ったが、いっこうに冒険者はこちらに手を出さぬ。

 疑問に思い冒険者を見やれば、そのうちの一人がこう零す。


 ……こんなのにはなんの価値もない。時間を無駄にした。


「お主にこの気持ちが分かるか……?いや、。マスターならば分かるじゃろう、伝わるじゃろう。この恨み……価値の無いものと誹りを受けたこの無念が……」


「私の価値観としては理解しかねます。ですが伝わったので理解しました。便利ですね、この共有という能力は」


 コアはこちらを人睨みしてからふぅと息を吐き、ダンジョンの全体図が未だ写っているホログラムに視線を移す。


「まぁ……良いわ。とにかくじゃ、鈴音よ。わしは復讐したいのじゃ。この誹りを、嘲りをすすがねばならん。もう二度とあのような事を言わせぬように」


 コアには明確な目的がある。

 それは理解した。


 対して私はどうだろうか、コアと一蓮托生な以上協力はするが私には別段コアのような目的が無い。


 死んで、喚ばれて、ここにいる。

 ただそれだけだ。


「……コアの話は理解しました。マスターとコアの関係上協力する他ないのも、分かっています」


「おお!では……」


 ですが、と一言言ってコアの宣言を止め私の思いも告げる。


「私にはコアのような目的がありません。目的や目標の類が無いままの作業は士気や能力を欠きます」


 要は俺なんでこんなんやってんだろ?とそのうち燃え尽きるだろうという話だ。


 意思が弱いとかそういう話ではない。

 人間誰しもやれ、はい。では続かないという当たり前の事を言っている。


「お主の事情なのじゃから、そこはお主がなんとかしてくりゃれ」


「それがですね……私ただ植物のように穏やかに目的も無く平穏に生きたいという欲求しかなくてですね」


「……かぁーっ、ほんっに現代っ子ちゅうんは……」


 盛大な溜め息と共に先程までの真剣な雰囲気が霧散し、いっきにふわふわした空気感になる。


 もう数十と生きている身な以上、当たり前だとは思うのだが……。

 もはやアニメや漫画のヒーローを見ても、街でカップルを見かけても思うことは若いってすげぇなぁ……という枯れた感想だけだ。


 あんだけ元気なカップルいりゃ日本は安泰やろ、はは。

 とか言う感想しか沸かないくらいには感性が終わってる自覚はある。


 故に……


「じゃあほれ!わ、わしの……体とかどうじゃ?お主が頑張ってくれている間は、わしを好きにしてもよいぞ?」


 と言われたとしても。


「え、面倒なんでいいです……」


 としか返せない。


「なっ!?お主、まだ齢は三十路も超えておらぬじゃろ!?ちょ、ちょっとっ!……っはぁ、ほんまに枯れとる……嘘じゃろ……?」


「現代では結婚願望を持つ、いえそもそもとして女性を必要としている男性は減少傾向にあるそうですよ?」


 共有能力を使ってまで内部を見なくてもいいと思うが、コアは私の内部を私が許可する範囲で全て見た上で驚愕しきって放心してしまう。


「勇気だして提案したのに恥掻かせおってとか、もはやどうでもよくなるわ……。現代日本終わりすぎじゃろ……」


「日本脱出いえーい」


 そう言えば喚ばれたお礼を言ってなかったと、感謝していると伝わってほしくてダブルピースして宣言する。


 ……コア?


 どうやらお気に召さ無かったらしく無視されてしまった。


「んー……まぁ目的は後回しにしましょうか。長期的に活動する上で目的が無いのはモチベーション維持に関わる、という話ですから緊急性は低いと見ていいでしょうからね」


 解決はしていないがここで悩んでも仕方ないと先送りしておく。


 ダンジョン全体図を移すホログラムに視界を移してこれからどうすべきか思案する。


「えぇ……?まぁ、お主がいいならそれでいいが」


 釣られてコアもホログラムに視線をやり、二人並んでホログラムを眺める。


 ダンジョンの加工や罠の設置自体は発想次第で自由に出来るらしく、ゲーム的なコスト制限の類も見られなかった。


 恐らくはルールであるマスターかコアがテストプレイをして攻略可能だと証明しなければいけない、という部分が関わっているのだと思う。


 つまりは、いくら調子に乗って好き放題に作ってもいいけど、それクリア出来るんよな?

 と現実的な問題に直面する事が関係しているのだと思う。


「さて……鈴音よ。お主ならこの終わっておるダンジョン、どうする?」

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ダンジョンの酸素無くせばいいんじゃね? リンリ @iceboxWizardry

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