第2話

「今更だしお互い名前は分かっておるが……自己紹介は必要じゃろう。わしの事はコアと呼べ」


「分かりました、コアさん。改めて鈴音です」


 互いに自己紹介したところで、現状の把握等を行う事となった。


 コアが言うにはこのダンジョンはガロットと呼ばれる国の外れにある出来たばかりのダンジョンであるという。

 ガロットは鉱山資源に富んだ土地にあり、隣国との争いが絶えず、鉄火と流血によって国を動かしている寒い土地に建つ国という。


 またガロット国の港は気候の関係か氷によって閉じており、幾度となく南下を繰り返しては周囲の国々との連携により阻まれている……らしい。


「外に関してはこんなところかの……ほれ、わしの記憶を基にしておるから精度はあれじゃが、だいたいの立地じゃ」


「なるほど?本当に外れですね、ここのダンジョン……」


「言うな、分かっておる。じゃがわしの様な弱いコアにとっては丁度良いわ」


「弱い?コアに強弱が?」


 うむ、と話題を逸してコアについて語ってくれたところによればダンジョンのコアとマスターは自然にダンジョンと共に発生する事もあれば、魔物が偶然にもコアと融合しダンジョンマスターとコアを兼任したり、様々なパターンがあるらしい。


 そして、コアは前者であり個体として弱いダンジョンコアらしい。


「ですが、コアが弱いという点がどうデメリットになるので?最奥まで入られた際に防衛が困難という以外で」


「あぁ、そこもまだ言うておらなんだな。ダンジョンマスターは文字通りダンジョンを自由に作れるのじゃがな?いくつかルールがあるのじゃ」


 実際に作りながら説明した方が分かりやすいやも知れぬ。そう言って私の側に寄るコア。


 甘く、脳の痺れを錯覚する甘い香りが漂うコアに少し距離を置きたくて脚を数歩動かすも


「これ、動くでない。ほれ、お主の手を寄越すのじゃ」


 と軽く叱られて失敗に終わる。

 それどころかコアによって私の両手の自由は奪われてしまった。


 掌が上になるようにされ、コアが開け、とだけ一言発する。


 するとどうだろうか、私の掌の上、ホログラムのような映像が浮かぶ。


「うむ、出たの。これがこのダンジョンの全体図じゃ。お主の故郷では映画やゲームでさんざ見たことある表現じゃから、そこまで未知の物ではなかろ?」


「え、えぇ……ですがそれはあくまでゲームだから、フィクションだから、の話です。というか、地球の文化にえらく詳しいですね」


「ん?あぁ、それは鈴音、お主をマスターにしたからじゃの。マスターとコアは一つで二つと言うたじゃろ?じゃから覗こうと思えば互いの記憶や経験、思考を共有出来るのじゃ」


 もちろん、見て欲しくない所は無意識にロックが掛かっておるから、許可制じゃがの。

 と付け足すように告げるコア。


「とんでもない事を言いますね。ですがコア、貴女と共同作業をするに当たって互いの文化や知識に齟齬が生じる心配がないと言うのはありがたいです。言語化が難しい部分でもそうした機能を使えば楽に意思疎通ができます」


 言ってからダンジョンの映像に目を向ける。


 現在私達がいるであろう最奥部、そしてそこから一本の道が続いている……。


 酷く捻りもないシンプルな道だな、なんだこのクソダンジョン。


 偽る事無く感想をどうぞ!と告げられれば私は間違いなくそう言ってしまう構造だ。


「おい、鈴音よ。感情も共有出来るという事を忘れておるのではないかや?酷い言い様じゃないか、ええ?」


「心の中で思ったことはノーカウントでしょう。しかしコアの言うとおり前任者は無能だったんですね。なんですこの罠の配置」


 ダンジョンの一本道の映像には所々紫色の四角く点滅ブロックが映し出されている。

 何かと尋ねればコアは言葉ではなくホログラム映像の左下の隅を指差す。


 そこには簡単に、


 白=現在位置

 青=コアの位置

 紫=罠

 緑=ダンジョン内の魔物


 と注釈が入っていた。


「あぁ、なるほど。すみません、よく画面を見るべきでしたね」


「うむ、わしも少し意地悪な対応をした。まぁダンジョンに酷評レビューを付けた件もあるし、おあいこじゃろう」


「根に持たないでください。というかこれを信じるなら本当にひどいですよ」


 言って紫色の罠の一つを指差す。


「なんで誰も通らない端に罠を置いてるんです?誰も踏まないでしょう?」


「あ、それ長押しすれば罠の詳細も見れるぞ?」


 握っていた私の手を離して私の側に、一緒に並んで映像を見る位置に移動してその長い指を罠の一つに置く。


 そうすればパソコンでタブを開くように詳細が出現し、罠の内容が判明する。


―――――――――――――――――――――――✘

 落とし穴


 成人男性がすっぽりと嵌まる落とし穴

 罠の設置したマスに敵性生物が乗った場合のみ発動する。


 単純だが組み合わせ次第では有効かつ凶悪な罠となる。

 真の狩人はまず足元を警戒する。

―――――――――――――――――――――――


 ……なぜ一本道の、しかも誰も通らないであろう端っこの方にこれが?


 理解に苦しむ。何を想定して……。


 いや、私とてこういうのに詳しい訳でも確かな知識がある訳では無いから偉そうな事は言えない。

 だが、それでもそんな素人の目線から見ても尚、この罠の配置には疑問が尽きない。


「誰が踏むんやこんなん……」


「それに関してはわしも同意見じゃ……」


「コア、ひょっとしてこのダンジョンの罠全部こんな感じですか?」


 前任者を思い出してか苦い顔をして頷くコアに全てを察する。


「とりあえずこのダンジョンが使える部分を再利用とかそのレベルを遥かに下回っているのは理解しました。コア、これ一旦ダンジョンの構造をリセットする事は出来ますか?」


「おう……ここの漢字の三みたいなちっこいボタンがメニューボタンじゃ。そこの……そう、そこじゃ」


 指示に従ってデリートボタンを押してどんどん不要な罠を外していく。


 数分の時間の後、そこには巫山戯てんのかてめぇ?と言われても言い返せない糞の一番下みたいなただの入り口から続く一本道と最奥部だけとなった。


「しっかしまぁ、地球育ちのダンジョン初見のお主から見ても、このダンジョン酷いか」


「ええ、遠慮の無い表現とオブラートに包んだ表現なら、どちらがいいです?」


「もうここまで来たらはっきり言うとくれ……」


 言質は取ったので遠慮の無い表現をするとしよう。


「ボウフラが大量に湧いてる池みたいな、ホームレスの脇の下の匂いみたいな、他人を貶す事が面白いと勘違いしているやたら声のでかい人間みたいな……」


「ストップじゃっ!もう十分伝わったのじゃっ!ほんに容赦なく言うとは思っておらなんだわ……」


「と、いうか罠大量に置きまくってしまったら駄目なんですか?物量で、こう」


 如何にもな阿呆らしい考えだが、やはり数とは正義であり威力だ。


 避けられ無い程に敷き詰めればいいのではないかと試し提案するも、コアは黙って首を横に降る。


「そう単純な問題でも無いのじゃ、さきも言うたとおりルールがあっての。その話もしようか」

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