第17話 月光×違和

「それでは次はぁ、〝月天絶華げってんぜっか〟をお願いしますぅ。こちらは干渉型ですねぇ。月読命ツクヨミの権能ですと月属性ですかぁ。オーソドックスなものとしては、重力操作や月光による癒しなどが有名ですかねぇ」


「月読命自体には、神話にもあまり逸話が無いですからね。報告には重力操作と月の光による属性攻撃とありますが——」


 大道寺さんたちはまだ話の途中のようだが、森の奥から三体のコボルトがこちらに向かってきているのが見える。俺は、すぐさま女性体に転身することにした。


「——転身〝月天絶華げってんぜっか〟」


 足音が一層迫ってくるのと同時に、わたしは第二魔法を〝天嵐封戈てんらんほうか〟から〝月天絶華げってんぜっか〟へと切り替えた。転身の過程で、肌が月光のように輝き、体内から溢れ出す魔力が波のように広がっていくのを感じる。その瞬間、私は完全に別の存在に変わったような感覚を覚える。


 杖型の第二魔法〝月天絶華げってんぜっか〟は、杖の先端部分が宝珠を抱えた花冠の形をしており、その神秘的なデザインはまさに月の光そのものであるかのように感じられた。月の引力を宿したその杖を手にした瞬間、私の魔力がさらに強くなるのを感じる。


 コボルトたちがこちらに迫ってきているのが見え、私はひと呼吸おいてから、杖の先端をコボルトたちに向けた。すると、杖に宿る宝珠へと魔力が渦を巻くように集まりだす。


潮汐ちょうせきを現わす鎖よ、敵を縛れ、月鎖ノ檻げっさのおり!」


 私の言霊ことだまと共に、放たれた波状の魔力はコボルトたちに触れると、それぞれの重力に干渉し、無理矢理その重さを増加させていった。コボルトたちはその圧力に耐えきれず、足元がふらつき、ついには地面に体を預けるように倒れ込んだ。


 私は冷静に、魔法の効果を見極めた。


 〝月天絶華げってんぜっか〟の権能の一つである月の引力を用いた重力操作は、発動すると魔力が霧散するまで永続する。支配力——相手との魔力操作に極端な力量差がない限り、解除することは難しい。

 その通りに、コボルトたちの動きは一切止まったままだ。


 その時点で私は、改めて魔力を圧縮してコボルトたちに向けて次の一手を放つ。


「華弁に宿りし光よ、敵を貫け、月華ノ砲げっかのつつ!」


 宝珠から放たれた魔力は、まるで月の光が凝縮された光線のように鋭く、そして速くコボルトたちへと向かう。その光線は空気を切り裂く音を立てて、まず一体目のコボルトを貫通した。

 コボルトの体を貫いた光線はさらに続き、二体目、三体目を次々と貫いた。放たれた光線は次々とコボルトたちの体を貫いていき、その命を奪っていった。


 コボルトたちが次々と倒れ伏していく。その様子を見つめ、私は静かに戦果を確かめる。


 その光線がコボルトたちを貫き終わり、私は改めて大きな息をついた。


 「月の引力による重力操作はその効果と範囲に優れていて、まさに干渉型の魔法です。月光による属性攻撃は威力も良いですが、命中率に若干の課題があるように見えました。しかし、デバフには適性がありますね」


「効果、持続性、汎用性は非常に高く評価できますねぇ。威力や支配力については今後の成長に期待するところです。……それでは、最後は〝日輪天貨にちりんてんか〟をお願いします」


 その時、大道寺さんの声色が変わった。さっきまでの軽い調子から急に真剣な響きが加わり、その声に圧力を感じる。大道寺さんの言葉は、まるで戦いの終焉を告げるように響いた。私の心に緊張が走る。その一言が、次の戦いの始まりを告げる合図であるかのように、緊張が私を包み込んでいく。


 「……分かりました」


 私は、急いで転身を行う決意をした。感情を抑え込むために、さらに冷静になるために——中性体への転身が一番効果的だと感じて。


「転身〝日輪天貨にちりんてんか〟」


 私の体が変わり始める中、背後の大道寺さんの視線が感じられる。ふとその視線が私を追い、何処どこか愉悦を感じ取る。


 その感覚をのなか、私の変化も加速していく。やがてぼくは僕へと転じ、その視線への興味は霧散していった。

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