第16話 幸運×武威

「干渉増幅型ですかぁ。威力はすこーし控えめですがぁ、効果と汎用性、持続力と支配力は凄いですねぇ」


 五体のグレイウルフを相手にすることになったユキは、散会していた狼たちを〝溟晶ニクス〟で一斉に動きを鈍らせた後、纏わせた〝溟晶ニクス〟に誘導する形で雷を幾度か放つことで一網打尽にした。


「散布した〝溟晶ニクス〟を相手に纏わせ、元々の性質である熱を奪う性質を利用し動きを鈍らせる。そして、その〝溟晶ニクス〟へ誘雷することで命中率を上げ、雷の拡散を防ぎ、威力の保持も行う。威力自体も第二魔法ギフトに目覚めたばかりということを考慮すれば、十分及第点でしょう。素晴らしい」


 二人の話を聞いているだけの佐藤さんもしきりに頷いているし、かなり高評価のようだ。


「そうですねぇ。威力劣、持続力並、影響力秀、汎用力秀、支配力秀で、19点。従五位上ですぅ。もう少しで四位でしたねぇ」


 大道寺さんは満足そうに頷いている。

 騒ぐ同級生たちから聞こえてくる話によると、ユキの成績が今までで一番良かったらしい。


「流石に危険度の高い人を集めた班なだけはありますねぇ。最後は今回の班でもとびっきりにぃイレギュラーな天津さん、まずはそのままでお願いしますぅ。えーと、第二魔法名は〝天嵐封戈てんらんほうか〟でぇ、元型アーキタイプ建速須佐之男命スサノオ、増幅も補助も無しの強化型ですかぁ」


「建速須佐之男命の嵐の権能と、闘神としての武具と武芸の権能ですね。出来れば何度か武器の種類を変えてくださると助かります」


 俺は指示された通りに、第二魔法〝天嵐封戈てんらんほうか〟を顕現させる。すると、都合良く森の奥からこちらへ向かってくるゴブリンを見つけた。

 今日は、最初からずっと魔物アダプター。これが幸運の女神フォルトゥナの二つ名を持つ大明寺さんの権能ちからなのだろう。


 魔法士ギフテッド極致きょくちたる第三魔法へと至った者は、ただそこに居るだけで元型たる神魔の権能の一部が発露される。それは、能力の制御云々とかいうレベルの話ではなく、至った者の足跡そくせきに等しい、ただの現象であると言われていた。

 大道寺美夜。ランクA-、日本でいうところの従二位に相当する第三魔法に覚醒した超越者。

 幸運の女神フォルトゥナの二つ名の示す通り、彼女の魔法は不運を敵に押し付け、味方に幸運を招く力を持っているらしい。


 こうしてお膳立てされた試験の相手三体のゴブリンを前にした俺は、〝天嵐封戈てんらんほうか〟の柄を両手で持ち左手を前に出して右手を顔の横へと引き絞る。すると、大太刀型だったはずの〝天嵐封戈てんらんほうか〟は、まるで粘土のようにぐにゃりと歪んでその姿を弓と矢へ変えていく。弓矢へと生まれ変わったその姿や色は、元々のデザインに酷似しており青みを帯びた荘厳そうごんな和弓の姿をしていた。


 狙いを定め、〝天嵐封戈てんらんほうか〟のげんを引き絞っていた指を離すと、螺旋を描くように嵐の力が込められた矢が飛び立つ。放たれた矢は、一番遠くにいたゴブリンへその鋭いやじりを突き立てる。ゴブリンを貫いた矢は渦を巻くような風刃へとなって、その体を内側から切り刻んだ。


 ゴブリンへと矢を放った俺は、その結果を確認することなく、こちらへ向かってくる別のゴブリンへと走り寄る。

 身に纏う風の力で速度を上げて走りながら、左手に持った弓である〝天嵐封戈てんらんほうか〟をまるで両手に持ち替えると、〝天嵐封戈てんらんほうか〟はその姿を歪ませて穂先が十文字になった一本の槍へと変わっていく。俺は、すかさず槍へと変わった〝天嵐封戈てんらんほうか〟の穂先で一息にゴブリンを貫くと、十字に分かれた刃が風を纏い、風刃となってゴブリンを切り裂いた。


 二体のゴブリンを斃し最後の一体を目前にした俺は、手にした槍型の〝天嵐封戈てんらんほうか〟を、今度はして持ちあげる。すると、またしてもその姿を歪ませて大きな戦斧せんぷへと変わっていった。

 戦斧へと変化した〝天嵐封戈てんらんほうか〟を両手で担ぎ上げた俺は、ゴブリンの元へと瞬時に間合いを詰めて一息に振り下ろす。狙い違わずゴブリンを真っ二つに切り裂いた戦斧は、叩きつけた勢いのままに大地を抉るように破壊し、〝天嵐封戈てんらんほうか〟が無意識に生み出した風により、周囲へと砂煙を撒き散らした。


「威力と汎用性は素晴らしいですねぇ。効果と支配力は少し控えめですがぁ〝天嵐封戈てんらんほうか〟単体での能力として考えると何の問題もないでしょう。持続力も〝三身流転トリニティ〟による魔力消費を考慮せず〝天嵐封戈てんらんほうか〟だけを査定した場合はぁ、むしろ高評価になるでしょう。間違いなく正五位上相当ですねぇ」


「武器の変化速度も中々の速さでした。距離に合わせて武器の種類を変え、尚且なおかつそれを使いこなすことが出来る権能と、嵐を身に纏い移動速度を上げ、攻撃時に風属性の付与が可能な権能。第一魔法の増幅や補助がある通常の第二魔法と比べても、特段劣ってはいません」


「それでは次はぁ、〝月天絶華げってんぜっか〟をお願いしますぅ」

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