秋夕の笛の音
高麗楼*鶏林書笈
第1話
嘉俳(秋夕)の夜。
都の人々は通りに出て満月を愛でていた。
すると、何処からか笛の音が聞こえてきた。
「四天王寺の月明師が吹いてらっしゃるのね」
「いつ聞いても心に染みわたる音色ね」
人々は口々にその旋律を称えるのだった。
一曲奏した後、月明は空を見上げる。月の表面に亡き妹の笑顔が浮かび上がった。
出家する前、彼は花郎の一員として活動していた。妹は家で機織をしたり、家事を手伝っていた。当時は、両親もそろっていて、穏やかな日々を送っていた。
ある日、流行り病で両親は相次いで世を去ってしまった。
二人っきりになってしまった兄妹は、それでも助け合って仲良く暮らしていった。
その後、妹も世を去ってしまった。
「別れも告げずにな、だが、この落ち葉も同じ枝についていたのに、風に吹かれてそれぞれ別の方へ散っていく。俗世とはそのようなものなのだろう」
一人取り残された月明は、両親と妹の極楽浄土への往生を願い出家した。
毎日の修行は大変だが、苦痛ではなかった。いつの日か浄土で家族と再会出来るだろう、それを思うとささやかな幸せさえも感じるのだった。
秋夕の笛の音 高麗楼*鶏林書笈 @keirin_syokyu
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