第一章 試験合格

一週間後ー

翠玉は首席で見事、宮女試験に合格し、目標通り冬霊の宮で仕事をしている。

今や出世頭ともいわれ、仕事も仕事場でできた友達とも、絶好調だ。


「翠玉、ちょっといい?」


先輩宮女に呼ばれ慌てて向かった。

走っては軽い罰を与えられるが急がないわけにもいかないので、丁度いい速さで歩かなくてはならない。


「はい、今行きます」


ここの宮の者は優しい。

あるじが翠玉だけを呼んでも嫉妬せず、翠玉が何か困ったらことがあっても無視せずにきちんと丁寧に教えてくれる。

翠玉は急いで、冬霊がいるところに向かった。


◆❖◇◇❖◆


「失礼いたします」


「お入り」


翠玉には成る可く不自由ない生活を送ってほしい。

侍女に昇格させてもらいいが、それでは他の宮の侍女から虐めを受けそうなのでやめておく。

冬霊は冬霊なりに色々考えているのだ。


麗蝶閣れいちょうかくにはもう慣れたかい?」


「はい。皆様大変良くしてくださり、だいぶ慣れてきました。感謝しております」


「ふっ。そうかい。なら良かった」


冬霊は藍玉らんぎょくがあしらわれたかんざしに触れる。


「その簪、ずっとつけていらっしゃいますね」


「これかい?これは遠くにいる人がくれたものなんだ。本当に、大切な人さ」


冬霊が言ったその人は王都にいるので、決して遠くはない。けれど後宮暮しの冬霊にとつては、何故かとても遠く感じられてしまう。

いつでも会いにいけるというのにー


「どなたなのですか?」


翠玉が不思議そうに問う。

けれど今は恥ずかしいので、冬霊は指を唇に当てて黙った。


「秘密さ。今はね」


叶うことのない恋なのだから。


「ほ、本題に戻して…」


冬霊は咳払いをし、話を戻す。


「私がそなたに頼みたいことはひとつ。義兄上の朝餉あさげを作ってほしい」


「…は?」


皇帝の妹からの頼み事となればそう容易く断れるものではない。

冬霊は絶対にしないが、場合によっては死刑になることがある。


「そ、それは…」


「最近の義兄上は元気がない。それに、そなたのことをとても心配しているようだ」


皇帝が一介の宮女を心配することはあってはならないが、今回は違う。

今回は自分の部下を心配しているのだ。

決して恋であってはならない。


「聖秀様が私のことを…?」


「ああ。そなたは義兄上には欠かせない、大切な部下だからな」


恋であってはならないので、冬霊はわざとそう言った。


「少しでも心配してくださるのなら、私も嬉しいです」


無邪気な笑顔。この先、国を滅ぼすであらう笑顔。

それがどんなに恐ろしいか今はわからない。


「そうか?」


「はい!だって、私は聖秀様のことが…」


これから先は言ってはならない。

言っては後宮で争いが生じる。それを避けるべく、冬霊は申し訳なさを感じながらも翠玉の言葉を塞ぐ。


「そういえば!後宮、朝廷ちょうていを束ねる料理長がそなたに会いたいと言っていたぞ。そなたもこれから世話になるかもしれん。挨拶に行ってきたらどうだ?」


「はい、行ってまいります」


翠玉は頭を下げ、冬霊の部屋を出ていった。


「お客様がお見えです」


「…?!」


信じられなかった。まさか、が自分のところに来てくれるのが。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

後宮料理寵愛伝〜寵姫は恋々たる恋模様〜 𦚰阪 リナ @sunire

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ