後宮料理寵愛伝〜寵姫は恋々たる恋模様〜

𦚰阪 リナ

序章 皇帝の命令

冬深国とうしんこく、後宮。

後宮、それは各国の女達が切磋琢磨して寵愛ちょうあいを得る場所。

それには数多くの影がある。

昨年、先帝が崩御ほうぎょしたため冬 聖秀とう せいしゅうが即位した。

後宮には下働きの宮女きゅうじょや皇帝と皇帝の妻、妃嬪ひひんと呼ばれる者の世話係である女官にょかんが必要不可欠。なので今日、宮女と女官の募集が始まった。

(来たく…なかった。だって来たらまた…あのような光景を見ることになるから…)

聖秀に仕えている暗殺者、蘭 翠玉らん すいぎょくは今日正式に決まる妃嬪をふたりも殺さなくてはならない。

できるのであれば、ふたりには生きていてほしい。だって何もわからないまま死ぬなんて絶対にいやだから。

事は一ヶ月前に起こるー


『これからそなたはある者を殺してきてほしい』


『誰ですか?』


『これから俺の正妻になる予定の薛 桂栄せつ けいえい貴妃きひに任命する予定の温 憐霧おん れんむ、それから憐霧の侍女、光輝』


『へ?』


信じられない。あくまでも自分の妃嬪つまを殺すなんてー


『命令は絶対だ。成し遂げなければどうなるか、お前なら絶対わかっておろう?』


皇帝に逆らったとして、一族を滅ぼされる。

そんなのは絶対いやだ。人一倍家族に愛され、愛してきた。

絶対に死んでほしくない、絶対だ。


『畏まりました』


ーそして今。


「あのろくでなしー!!!」


「そなたはお義兄にい様に仕えている、蘭 翠玉?」


「は、はい!」


端麗な顔、キリッとした表情はまさに皇帝の義妹いもうとに相応しい。

この者は聖秀の異母兄妹、冬霊とうれいだ。見つけられてしまった。


「絶対に役目を果たすんだ、お義兄様に仕える者として」


期待されるのはいやではないけれど、今回はなんというか複雑な気持ちになってしまう。


「はい…」


「これより、宮女試験を開始する!受験する者は名を受験票に書くように!」


試験官の声が響く。

宮女の試験はふたつ。いかに皇帝に忠実か、どれだけ文字が読めるか。

実は翠玉は蘭家次期当主なので文字は読める。だが、名家の家の出と悟られてはならないので今回は少しだけ手を抜く。

大抵の者は気づくと思うが、それでも気づかれることだけは避けたい。


「では、行ってらっしゃい。遠くからだけど見守っている。配属先に迷ったら、私のところにおいで」


「はい!」


待ってくれている者がいるということは、これ程心強いものなのだと実感した。


翠玉の後宮生活の始まりであるー






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