5

「やめてっ!!」



 パッと、二人がこっちへ向いた。

 わたしはノートを床に置いて、二人のほうへ行く。


「なに、してるの……っ?」


 わたしは勇気を振り絞って、雪奈ちゃんに問いかけた。


「……麻里花…………」


 雪奈ちゃんはナーナちゃんから手を放し、うつむく。

 わたしは、雪奈ちゃんが話してくれるまで待った。

 やがて、雪奈ちゃんが口を開いた。


「……あたし……ナーナの笑顔が嫌いだったの」

「え、笑顔?」


 笑顔がナーナちゃんのいいところなのに、どうしてなんだろう……。


「なんで、ナーナはいつも人に笑顔を向けていられるのかなって、ずっと疑問だった。それで、気づいた。ナーナがいつも笑顔でいられんのは、幸せだからなんだって」


 雪奈ちゃんの表情は見えない。


「……あたしの親、毎日11時ぐらいまで仕事しててさ。寂しんだ。それに、仕事のない日はいつも二人はケンカしてて。それ、止められなくて。そういうの全部全部、耐えられないんだ。……幸せだなんて、思えないよ。だから、幸せからくるナーナの笑顔が嫌いだって思ったの」


 わたしは、なんて言えばいいかわからなかった。

 すると、今まで口を閉じていたナーナちゃんがまっすぐ雪奈ちゃんを見つめる。

 そして、にこりと笑った。



「わたしね、ちいさいころは笑顔が苦手だったんだ。けれど、大きくなってから、笑顔でいたほうが楽しめるって気が付いた」


 雪奈ちゃんの目がぱっと見開かれる。


「……そう、だったんだ。ナーナにも、ちゃんと笑顔の理由があったんだ。ごめん、あたし、ナーナのことたくさん傷付けちゃった。……ごめん」


「ううん。わかってくれてうれしい。ありがとう」


 ナーナちゃんが、雪奈ちゃんに笑顔を向けた。


「あたし、親とちゃんと話してみる。……そしたら、きっと笑顔になれるよね」


 雪奈ちゃんはにこっと爽やかな笑顔を残して、去って行った。



 ……なんだか、わたしも伝えたい気分になっちゃった。

 勇気をもって。———これは、笑顔の始まり。


 わたしは、ナーナちゃんに言った。



「友達になろう!」

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勇気をもつとき 桜田実里 @sakuradaminori0223

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