第5話 開いてくれよドア

 空気の冷えてきた秋のある日、徹夜で課題を終わらせた午前5時。寝る前に近所のコンビニへ行った。これが全ての始まりだった。


 近所のコンビニだったこともあり、「私」は、寝間着でコンビニへ向かった。さらに、部屋がパスコード式のオートロックであったので、財布も持たずにスマホだけを持って外に出てしまったのだ。


 コンビニでホットミルクティーと肉まんをお財布携帯で買い、ほくほくとした気持ちで部屋の前まで帰ってきた。


 気持ちの良い朝であった。なかなかの疲労感があり、肌寒い部屋の中で布団にもぐりながら温かいミルクティーを飲み、肉まんを食べる。そのことを想像するだけでワクワクとしていた。


 しかし、その理想は打ち崩された。玄関のドアが開かなかったのだ。


 最初はオートロックの不具合だと思った。だから、パスワードを何回も打ち込んだ。しかし、ドアは開かない。パスコードは打つことができるが、鍵が開かない。


 「私」は、思いだした。このオートロックが電池式であったことを。そして、電池が切れ、外に締め出されてしまった場合、外から電池を接続する必要があることを。


 必死になって必要な電池を検索した。すると、必要な電池はホームセンターにしか売っていないようなタイプであり、スマホに入っているお金は残り118円。まだ、午前5時30分でり、友人に連絡をしても寝ているから連絡は取れない。


 友人が起きるまでのおよそ6時間、所持金118円で寝間着姿の「私」がどう過ごせば良いのか。絶望し、途方にくれた。


 肌寒いこともあり、部屋の前で早々にミルクティーを飲み、肉まんを食べ終えた。手持ち無沙汰となった「私」は、アパートの周りを彷徨い始めた。


 散歩は好きなのに、今回に限れば何も面白くなかった。アパートの他の住人からは何回もパスコードを打ち込んでは入れていない人間として不審な目で見つめられ、近所を歩いていても、犬の散歩をしている老夫婦からも距離を取られてしまった。これは、「私」の風貌が原因かもしれないが。


 1時間ほど彷徨った。その間に何回もオートロックを開けようとチャレンジした。全くの無駄であった。


 正直、パスコードを打ち込むたびに怒りが溜まった。とてつもないイライラが頭を支配していた。


 なぜ、「私」がこのような思いをしなければならないのか。課題を頑張って終われせた自分に対して少しばかりのご褒美を買いに行っただけなのに。


 「私」が悪いことはわかっている。普段からオートロックの電池残量を確認をしていたり、数分の外出でも服を着替え、財布を持ち歩いていれば良かったのだ。


 

 わかっていてもこの怒りは収まらなかった。そして、さらに時間がたつにつれて焦りの感情も入り混じってきた。


 あと数時間、「私」は、このままなのか。自分が無力であることを久しぶりに実感した。


 自分自身のことを情けなく思い、辛くなってきたその時であった。その瞬間は突然来た。


 諦めながらも少しの希望を胸にパスコードを打ち込んだある時、たまたまドアが開いたのだ。


 それからの行動は「私」の人生史上最速であったと思う。


 ドアを確実に開き、室内に入り、財布を手に取る。内側からオートロックに入れる電池は近所のコンビニに売っていたのでドアを開きっぱなしにしたまま買いに行き、電池をオートロックに入れることができた。


 完璧である。これで当分の間は外に締め出されることも無く、平和に自室で暮らすことができる。やっと眠りにつくことができる。


 もっと心を落ち着かせて心地の良い睡眠にしたがったが、どうでも良い。


 既に疲れ切っているので早く眠りたかった。


 自分に対してのご褒美が自分自身の不注意によって辛い体験になってしまった。様々な感情が胸の中にがあるが全て自業自得である。

 

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「私」の暮らし noi @noinonoi

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