二日目〈8〉
『この先私有地にて無関係者の侵入を禁ずる』
『NO ENTRY!!』
ジパングの母国語である日本語と世界共通語である英語で侵入に対して警告する立て札がダンジョンの手間に立てられている。
鬼人の里である拠点を守るため、四方八方360°どこから入っても許可を得ていないものはダンジョンの入り口に飛ばされる。そして、そのダンジョンを通過しないといけないのだが、踏破条件というものはまだ存在していない。
『命の保証は出来ない』
『This dungeon is dangerous so there's no guarantee that you can come back alive 』
看板以外にも侵入深度によってシステムを通したメッセージが送られてくるように設定されている。看板を見落としたとか、迷い込んだだけという言い訳は通用しない。
ここから先は
魔物は一種類のみ、目に見えない
対象者が呼吸することで吸い込まれた魔物が、対象者体内の酸素を奪いながら増殖し、外に排出される。
呼吸によって得られる酸素量――供給量が、体内で必要とする需要量を上回っているうちは異変に中々気付かない。
冒険者の
そして、宝箱の中身の九割近くは
計算では地下5階程で体内の酸素飽和濃度が90パーセントを下回る。そこから先は呼吸不全といった重篤な症状に
魔物は人が多ければ多いほど増えていく。
自然洞窟とは違い密閉されたダンジョンは下に進めば進むほど酸素は薄くなる。
そして、亡くなった捨て垢は
**
「まこちゃんレベルは?」「まこちゃん職業は?」「まこちゃん――」「まこちゃん――」
煩い質問攻めをのらりくらりと聞き流しながら鬼人の里へ向かっている道中。
妹とその友人の中にぽつんといる俺が場違い感満載なのは、見た目の問題ではないとはっきり断言出来ない自分がもどかしい。
年下の引率で入った兄貴分の立場であるならまだ精神的に良かったのだが、手を繋がれて歩く姿は逆に年上のお姉さんに遊んでもらっている小学生――、いやこれ以上は止めよう、虚しくなるから……。
身長150センチほどにまで背が縮んでしまうとか拷問だよね?
なにより三人からまこちゃん呼びされていることが精神衛生上的によろしくない。
「まこちゃん話しかけてるのに無視しないでよ」
「うるさいな〜、後で説明するよ」
ドリームワールドの世界に入った俺たちは拠点である鬼人の里を目指しているのだが、同じ目的地を目指している人数が明らかに多過ぎる。
兄妹二人で初めてプレイした時とは雲泥の差である。鬼人の里やダンジョンは神社でもないし、テーマパークじゃないぞ。
新しいダンジョンが出来たとか、誰も帰ってきた者がいないとか、鬼人が貯め込んだお宝があるとか、そんな感じの内容の話がちらほらと聞こえてくる。
高難易度のダンジョン出現が嬉しいのか俺たちが私たちがクリアするとか意気込んでおられるのだが、残念ながらここは現状そういうのでは無いのだけれど、ここで忠告して帰ってくれと言っても躍起になってしまい逆効果になってしまうだけだと思うと、少し申し訳なくなってしまう。
今日の朝作っただけのダンジョンにここまで殺到するなんて想定外だし、考えておけという方がどうかしていている。
正直俺が創りたいダンジョンとは完全に真逆なのだ。
強いモンスターを置いたり、謎解き要素を入れたりとかしながら、最後に最強のボスを相手にさせる、如何にもこれがダンジョンのお手本だというテンプレートをイメージしてもらえれば分かると思うが、それを実行するのには実力も時間もなさ過ぎる。
要は現状は初心者用しか創れない。
が、簡単に突破されると里が荒らされる。
悪魔的に何も無いと思わせながら自滅させていくダンジョンが精一杯だったし、間に合わせには最適だと思っていたのだ。
私有地だから入って来るな、命の保証は出来ないぞと何回も警告文は出していたし、ダンジョンに潜るのは自由意志であると同時に自業自得ではあるから殺されても文句は言わないでほしい。
「ねえ、君たちも新しいダンジョン攻略しに行くんだよね〜」「鬼人は強いからさ、俺たちが守ってあげるよ」
「一緒に行こうよ」「俺たちと」「私たちと」
クランやパーティの誘い、さらには連絡先まで聞いたり押し付けてきたりとうんざり迷惑してくる。
「
背後と両端から強く抱きしめられ、身動きが取れない。ちょっと痛いし、手首と小指の掴み方が危ない。頼むから関節技に連絡させるなよ。
そして周りの全視線がこちらに向けられている。見世物じゃないぞ。
流石に我慢の限界。
中々前に進まないうえに、纏わりつく視線が鬱陶しい。
拘束から抜け出した俺は拡声器システムを使って大声を出す。
『あ、あ~、聞こえてますか〜?』
「ちょっとまこちゃん――」
妹の制止を振りほどきながら続ける。
『俺が創ったダンジョンと所有している鬼人の里へ向かう皆さんに告げます』
「俺っ娘だわ」「俺っ娘萌える」「俺っ娘魔王さまー」
『このまま不法侵入者として処理される未来しかない皆さんへ、現時点であなたの求めるお宝はダンジョンにはありません。
一週間だけ待ってほしい。その期間中に幻のようなダンジョンではなく、激アツな体験がご用意致します。
忠告はこれ一回限りです。後は好きなように動いて自己責任でお願いします。以上』
「「魔王さまー」」
「結婚してくれー」「抱いてー」
気持ち悪い人たちは獄中へどうぞ〜。
**
「ふぅーっ、やっと離れられた」
鬼人の里に問題無く辿り着いた俺は、不特定多数の集団からも三人からの雁字搦めのような抱きつきからも脱出することが出来た。夕方なのに暑苦しくて敵わない。
「まこちゃん何これ?」
「鬼人の里だけど」
「昨日の夜はゴブリンの集落だったけど?」
確かに今日の早朝までは二階建ての家々が並ぶ程度だったのだけど、城っぽい建物の周りに巨大な塀と堀が出来ていた。道はきちんと舗装されているし、複数階の建物が均等に並んでいる。
住宅街、工場施設、農業、酪農施設と城の四つに区画分けされ、中央部は巨大な時計台と銅像が建てられていた。
「この銅像、今のまこちゃんそっくり」
「言うな」
「マスターおかえりー」
「「可愛い〜」」
妹たちは撫でている姿を羨ましそうに見ていた。
「私も撫でたい」
「「私も」」
鬼人の幼子は女子たちに困惑しながら頭を撫でてもらったりハグされたりしている。
「牛さんのおうち作った〜」
「羊さんも〜」
「鳥さんも〜」
よく見ると厩舎の中には、ミノタウロスと
貴方たち優秀すぎませんか?
拠点の街並みだけではない。拠点に入った未使用のポイントが大量に有り過ぎるのだ。震えてしまうわ。
「うちの子が……ユウトが行方不明なんです」
「ユウト……?」
誰かのお母さんがこちらにやって来て自分の家の子が迷子になったと報告してくる。
「あの子はまだゴブリンで……、気を付けなさいねって」
拠点システムから里の住人一覧を見る。ゴブリンの子は一人だけしかいない。昨日ゴブリンの集落を攻めた時に生き残った子だ。そして唯一日本語を話せたゴブリン。
この子だけが苗字と名前が日本人だった。
リアルコネクト〜レベルアップすると性転換が進んで美少女化していくんですけど〜 大神祐一 @ogamidai
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