第5話(終)


 はじめて、人と一緒に学食へ行った。

 私の前に並んでいた人の耳には、特徴的なピアスがあった。佐藤くんは、その人と知り合いらしい。にゅい、と頭を近づけて、声をかける。

「古賀さんじゃないですか。お疲れさまです」

「おお、シュガー。おつかれー」

 このピアスの人は、古賀さんっていうんだ。

「俺一人なんだよねぇ。寂しいから混ざっていい?」

「いいっすよ!」

 昨日までひとりぼっちだったっていうのに、突然人に囲まれた。

 困惑。だけど、なんだか、心が弾む。

 

 家に帰ると、興奮しすぎたのかどっと疲れた。

 ふわぁ、とあくびをしながら、みんなで撮った写真を見る。

「これが佐藤くん。あと、エリナちゃん、池ちゃん、古賀さん」

 次にまた、彼らに会ったときには、私のほうから「こんにちは」って声をかけたい。

 服じゃなくて、顔を目印にして声をかけたい。

 膨らむ夢を胸に、私は何度も指をさし、名前を唱え続けた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

顔面喪失 湖ノ上茶屋(コノウエサヤ) @konoue_saya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ