まじむり
尾八原ジュージ
無理よりの無理
前バイトしてたコンビニに、あたしのことすごいかまってくるおじさんがいたんですよね。お客さんじゃなくてバイトの先輩だったんですけど、その人が最悪で。「いやらしい気持ちでちょっかい出してるんじゃないよ」ってアピールなのか本心なのかわかんないんですけど、「りなちゃんは娘みたいでかわいいなぁ」って何度も言うんですね。でもどっちみち気持ち悪いんですよ。本人は娘がいるどころか独身だし、肌汚くて脂ぎっててベタベタしたロン毛で喋り方もコミュ障っぽいし、でもバイトの先輩だから邪険にもできなくて、「えーそうなんですかアハハ〜(棒)」って感じでやり過ごしてたんですけど。
そんであるとき、何がきっかけだったか忘れちゃったけど、「東京の家賃は高い」って話をしたんです、ほんと何気なく。いや相手めちゃくちゃ話しかけてくるんで……そしたらおじさんが、「りなちゃんが住んでるアパートの大家、実は俺の知り合いなんだよね。ちょっと安くなるように交渉したげるよ〜」なんて、急に無茶なこと言い始めたんですよ。絶対やめてほしいですよね? 知り合いってのが本当かどうかわかんないけど、大家さんからしてみたら超迷惑な話じゃないですか? あたしまで迷惑店子だと思われるくないですか? 「いやいやいや先輩にそんなことまでさせらんないですよ〜!」って笑いながら、内心(余計なお世話だ!)って……てかまず、何であたしの住んでるとこ知ってんのかって……。
とにかくそんな話、アテにするわけないじゃないですか。でもそのおじさん、次の日の朝になったら、私の部屋の前で死んでたんです。包丁かなんかで首切って、玄関のドアにべたべた手形つけて。あたしその日寝坊してたから宅配の人が第一発見者になっちゃったらしくて、絶対トラウマになっただろうな~かわいそうですよね。まーでもあたしも結構かわいそうですよ。だってそんなことがあったら、もうその部屋住めないもん。だからすぐに大家さんとこ行って、なるはやで退去しますって言ったら大家さんも困ったみたいで、「半額にするからもう半年住まないか」とかなんとか言われちゃって、「あーなるほどおじさんの言ってた通り家賃安くなったわ」とは思ったんですけど結局引っ越したんですよね。そんなとこ一晩だって住んでられないですもん。その日からしばらく友達の家に泊めてもらって、引っ越しの当日だけ帰って一日で全部終わらせました。余計なお金かかったしバイト先も居づらくなって辞めることになったしほんと最悪まじ死んでほしいって、もう死んでるからこれ以上死ねないんですけど気持ち的にね。
で、もっと最悪なことがあったんですよ――っていうのは「そういうわけで引っ越す」ってうちの親に報告したら、父親が「お前が引っ越したら亡くなったおじさんが報われないだろ!」って急に激怒し始めたんです。もうドン引き。ママとあたしドン引き。「んなこと知るか!」っていうママと超絶夫婦喧嘩になって、結局それで両親、今離婚前提の別居状態になっちゃってるんですよね最悪じゃないですか? で、これもっと最悪なんですけど、父親がね、あたしが引っ越しした後の例のアパートの、例の部屋に引っ越したんですよ。一人暮らし用の狭いワンルームから、わざわざ新幹線通勤してるんですよ。何なんですかね? 死んだおじさんへのフォローのつもりなのかな……まぁ元から仲悪かった父親なんでもう知らんって感じなんですけど、月いちくらいで「遊びに来い」って連絡来るんですよね。まじきもいです。
まじむり 尾八原ジュージ @zi-yon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます