第10話 おれの古巣

 今日は土曜日、朝は日課の運動と朝食を済ませると、少し勉強をしてお昼からダンジョンに潜るか。今日はダンジョンで一泊するつもりなので弟の方に既に仕込んだ本日の夕飯と明日の朝昼晩の食事について説明をしておく。弟は分かったと言ったので、今週はダンジョンで一泊すると言って俺は家を出て行った。


「ううむ、ダンジョンで一泊する用の品は前々から準備していたようなので鞄を作って、出てきたがいざ始めてみようとすると、緊張するよな」


 最近、独り言が増えたが、気にしないようにしよう。………寂しくはないやい。

 さて、今日はすべて無視して第五層に突撃だ。第五層の外れには強力なモンスターが沸くため、冒険者ギルドは注意を促している。しかし、その後ろには便利な場所があるという事は知られていないらしく、色々確認も兼ねて俺は強力なモンスターの出現場所へと向かう。


「着いたな、そして居るな」


 あれがこの階層のワープポイントを守るモンスター、通称、ゲートキーパー、個体名はゴブリンジェネラル。緑の肌に、醜悪な顔つき、普通のゴブリンとは違って180㎝はあろう巨躯。そして武器は大鉈に、腰みのと胸当てを付けている。この世界の冒険者ギルドの情報では数多の調子に乗ったルーキーが挑んでは返り討ちにあってきたというレベル10のモンスターであり、この階層最強の敵である。加えて、このモンスターが楽に狩れるレベルの冒険者にはドロップアイテムには旨みが少ないため、挑戦者の現れない不人気な奴でもある。


「じゃ、作戦開始、だな」


 発光水を投げ込み注意を引くと、ゴブリンジェネラルは【眷属召喚】を使って配下のゴブリンソルジャーを呼び出してきた。眷属召喚は自身の同一かつ下位の種族に限り、魔力消費を10分の一に抑え、クールタイムも短縮で召喚をできる。

 出てきた奴らは普通のゴブリンとは違って装備が鉄製で揃えられている。ゴブリンジェネラルはこいつらをほぼ無制限に呼び出す為、放置すればする程に、数の暴力で責められる。

 が、それらを纏めて嵌める為の場所がある。

 ソコは此処から走って、一分もかからない。その間もゴブリンジェネラルは部下のソルジャー共をどんどん召喚していく。命を賭けた鬼ごっこだ、気は一切抜けない。

 やっとの思いで目的地に辿り着く。其処は行き止まりになっていて壁には目立つ飛び出た岩がある。俺はそこに近づくとその岩を押し込む。すると、広場の床が俺の場所を少し除いて大穴が開く。ゴブリンジェネラル達は穴に落ちていき、後続の奴も止まれず落ちていく。床には液体が満たされていてゴブリン達はビチャビチャ音を立てて不機嫌そうにしている。


「楽にしてやる。【発火イグニッション】」


 現在使える火の魔法を発動させる。すると、一斉に燃え上がり、穴の中にいたゴブリンを纏めて炎上させる。液体は油で此処は焼却嵌めスポットである。酸欠対策や逃げ道は岩を押し込んだ段階で出てくるので、安心して其処から離れる。


「あー、疲れた」


 出口は上に繋がっていて、炎上中のゴブリンが見下ろせる。全匹死ぬと、何故か鎮火し、アイテムが取れる様になった。ドロップアイテムも鎮火した後に現れた為、無事に回収出来る。ジェネラルやソルジャーの装備に魔石、コインがドロップアイテムとして出てきた。

 コインはダンジョン通貨と呼ばれるアイテムで、金額の単位はダルで、金額の分け方は何故か日本円と同じ感じで分けられている。1ダル、5ダル、10ダル、50ダル…………という感じで、それ毎の貨幣もちゃんと用意されていて、千から上は紙幣で現れる。

 へっへっへっ、これ一回で外で数万円分のアイテムが手に入ったぜ。暫くは、此処で金策とレアドロップ集め、レベリングの周回ができる。

 ここはプレイヤーの間では有名なハメスポットで、元々はPvP用に用意されているスポットだが。ゴブリンジェネラルが外に出られる事と、ソルジャーが無限に沸くのでプレイヤーに知られてくると無限ハメのスポットとして利用されるようになった。発火する魔法【発火イグニッション】は燃えている相手が死亡するか時間経過で完全に鎮火するのでドロップアイテムも確保しやすい。その為、この世界に来る前は初心者御用達スポットとして有名でもあった。

 俺も自分のクランを結成した頃は新人を連れてってやったっけ。

 レアドロが出るまでは、ここでレベリングして、でたらジェネラルのいる場所の先へ向かうか。


*   *   *


「おっ、でた」


 ジェネラルからドロップしたレアドロップするアイテムで、見た目はキーホルダーの様に見える。こいつは【亜人狩りの蒼玉】というアイテムで、亜人系の魔物に対して攻撃力の2割増しでダメージを与えられる序盤で活躍するアイテムだ。直剣の柄に縛り付けてやる。ゲームではウィンドウの画面から設定すれば自動的に装着されたがよくわからないので、暫くはこれで済ませるか。振っても邪魔にはならないだろう。

 それはさておき、出たのならジェネラルの方へ向かうか。

 ジェネラルの出現リポップ場所は複数の場所に道が繋がっていて。その中の道の一つは塞がっているように見えるが、レアドロの蒼玉があれば壁を通過する事が出来る。レアドロを一回所有するだけで、通行許可を得られるのでゲームではベテランがルーキーに売ったり、ルーキー同士で回したりして通行許可を得たりする。


「ゲームで見るのとは違うな。重厚感が増した感じがするな」


 俺が来たのは銀行の金庫のような場所。扉は苔むしていたり、蔦や植物が巻き付いている。部屋の端の方には植物が自生している。心なしか同階層の他の場所よりも明るい感じがする。

 ここはゲームで言う所のアイテムショップ兼ワープポイントとして機能している場所だ。ダンジョン通貨もここで使用できる。俺もゲーム時代はアイテムショップで荒稼ぎしていた。そしてその入り口となる金庫にも秘密がある。

 金庫の扉にはダイヤルが付けられていて、4桁の暗証番号を入れると開く。問題文はゲーム時代にネットに配信されていて、既に解読済みである。というか、問題は俺も一緒になって考えたのだ。度重なるアップデートでも答えは変わらなかったので、こっちに来ても変わっていない筈だ。というか、運営からの配信とか見ていないと一生答えに辿り着かないよな、金庫周辺に問題文がない訳だし。

 問題は『挨拶は会話の基本。言葉の裏もしっかり読み取り、会話を楽しもう』の筈だ。俺が考えた答えは――、


「挨拶はしましょうってことで、4645よろしこ


 ゲーム時代の俺の挨拶を語呂合わせにして、ダイヤルを合わせてやると駆動音と共に色々動いて大げさに扉が開いていくから、くっ付いていた蔦なんかもブチブチと引きちぎれていく。

 金庫の中には茶色のショルダーバッグと剣が保管されていた。

 ショルダーバックの中には1万ダルに、球が数個、赤と緑のそれぞれの液体の入った瓶が4本と予想通りの品が入っていた。球は爆裂弾というもので、魔力を通すか魔物に当てると直径3mを巻き込んで爆発する。液体の瓶は緑がHPが回復するポーションで、赤い方はMPが回復するポーションである。ポーションは飲んでも振りかけても効力は発揮する。

 茶色のショルダーバックも後で色々な物に利用できるので、ガンガン利用していく予定だ。


「さてさて、もう一つの機能を弄るか」


 金庫の扉を閉める、するとダイヤルは0000に戻ってもう一度打ち込めるようになった。

 この金庫はゲーム時代に【創造神おれ】が使っていた挨拶である4645を裏返して5464を打ち込むと。今度は金庫の扉の一部が開いて、中からバスケットボール大の白い金属質の玉と手に収まるほどの大きさの黒いカードが出てきた。


「あ? 何でこの二つが?」


 5464のパスワードは武器抽選で、レベル1からでも使える強力な武器が抽選で、運が良ければ複数個出てくる。キャラ毎に挑戦できる数は一回なので俺の挑戦権はこれで終了だ。出たものが出たものなので悪くはないが、それでも本来なら絶対出ないものが出てきてしまったので完全に困惑している。

 一旦、金属球をショルダーバッグに詰め込もうと思ったが、重量がありすぎる。手に持てはするが、バッグに入れると絶対に底が抜ける。


「一旦こいつは、置いといて店を出すか」


 俺は金庫正面のレバーの様な岩を稼働させると、金庫側の壁が回転して木製の扉と謎の文字が描かれた看板が出てきた。久しぶりという程ではないが懐かしい気持ちが湧き上がってくる。

 俺は試しにカードを翳して、店内へ入る。金属球は道具を保管する箱に入れる。この箱は【ストレージボックス】と言われていてダンジョン各所のいろんな場所に設置されていて、内部は繋がっている上に容量は無限、そして個人毎に別々に収容できるためかなり便利な迷宮機能だ。

 アイテムは放っておくと迷宮に取り込まれて消滅するが、ストレージボックスに入れておけば消滅する事はない。

 さて、当たりを見渡してみると、ゲームで使ってたのと同じデザインである。店の受付兼カフェテリアとなっている、広い店内に俺が拘って造った店内設備に、便利アイテムのバラ売り箱、貴重な武器の入ったショーケース。店の奥に入ると仕事場に成っていて、材料倉庫に、要望の材料を発注する為のボード、炉、鍛冶台、ハンマーが置かれていたりする。従業員の更衣室も付けられている。

 ここは【職人の住処】という場所でクラフト系の遊び方をしているプレイヤー向けに用意された場所で、何と店舗経営をしたりしてNPCや他のプレイヤーにアイテムを売ったりして活動できる拠点である。基本的に内装や設備は店の主人が自由にカスタマイズでき、売上やランキングを張り出される事もある。


「にしても、設備が充実しているな」


 本当にその通りである。設備が開始初期の段階の物ではなく、俺が拘って造った店内そのもので、うまく出来すぎである。

 武器抽選で出てきたカードは、【創造神おれ】の時のカードの筈。持ち主が店主として認識される関係上、今の俺が使えるのは問題ないのだが。何故、武器ガチャからこのカードとあの金属球が出てきたのだろう。

 ……そういえば、プレイヤーキラー(PK)に装備を奪われたときに武器やカードを奪われて大損害を出されたんだっけ。それで、クランの仲間と協力して俺のID情報とリンクさせてアイテムが戻ってくるように対策してたんだっけか。それが発動したと? 魂云々はフレーバーテキストのつもりだったんだが…………。

 うん、そこら辺は一旦置いておくか。


「そういえば、あの本はあるかな?」


 考えても答え合わせができない疑問は一旦置いておき、俺は金属球と並ぶ、ゲーム時代の俺の最強装備の一つを取りに向かう。


*   *   *


 従業員用のロッカーの中の一番奥にある俺のロッカーにその装備は保管してある。テスター参加前にネタ装備で大ボス倒してみたという動画撮影に誘われてそれに付き合って為、装備は一旦ここに置いていたのだ。

 意を決して、ロッカーを開けると、一冊の本と幾つかの装備が保管されていた。

 俺は本を手に取ってみる。すると、手に馴染むかのように俺の手の中に納まった。本の外見は植物と動物と機械が交わっているかのようなカバーに国語辞典レベルの厚さと大きさをしている。


「お前が前に話しかけてきたのかな?」

{うん、そうだよ}


 合成音声の様な声が頭の中に響いた。原因は間違いなく、この本。

 この本の正式名称は【異界幾何学全書 原典】。ゲーム時代のフレーバーテキストでは【神に匹敵する者が作った魔導書。ありとあらゆる魔法や魔道具、武技についてのデータを収録し所有者に還元する。理を超えて、自我が芽生えている】という話であった。俺がゲームシステムを利用して作ったのに、理を超えるとはどういう意味なのだろうと悩んだこともある。

 フレーバーテキストの内容が現実になったあたり、自我の芽生えたコイツが俺と仲間の細工を通じて、俺を主として見ているという状況なのだろうか? 

 先ずは、コイツに状況を話して協力してもらうか決めてもらうか。自我があるなら、コイツの意思に反する事は強制したくはない。そして、あんまり仲が険悪になると、コイツの能力で暴れられる恐れがある。そうなったら目も当てられん。

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悪命高きアルカディア Dr.醤油煎餅 @syouyusennbeihakase

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