第9話 これまでの振り返りとおれの使命
迷宮入り口の黒い壁面を抜けると、直径200mはある半円球状の空間に出た。
ゲームでもよく見た、第一層の大広間だ。端の方には飲食の屋台が並んでいたり、反対側にはコインシャワーや武具の整備、冒険者ギルドの出張所なんかがある。飲食の方はあんまり不潔にしていると入れないように注意書きが書いてある。
入ってくる人の事を考えて端にいると、木村が入ってきたので合流する。
「ああ、お待たせしたね。早速行こうか」
「ああ、でもこの人込みじゃなぁ」
「それでもいいさ、行こう」
前田が号令をかけると、入る前に決めた布陣で進んでいく。周りには学園支給のプロテクターを着た学生たちが溢れている。
正直、第三層まではメインストリートを進んでいけば、敵と出会う事もないため、安全に進める。今日は第三層でレベリングのため、そこまで消耗少なく進めるのであれば儲けものである。
道中は話題の武器メーカーや防具のブランドについて話しながら、目的地まで進んでいく。
数十分で目的地に到着すると、何故か加賀谷先生が先についていた。後何人かのクラスメイト達もいた。何かしらの移動ルートでもあったのかしら?
そう思案していると、前田が確認を取ってきたようでオリエンテーションは終了した。
「じゃあ、今日はこの場で解散だな」
「おう、ありがとな。なんかあったら、また頼むわ」
「うん、僕の方からもお願いね」
「おうよ。俺の方からも声掛けるかもしれないから、よろしくな」
和やかな雰囲気で俺たちは別れ、俺は三層目の方へ足を踏み入れる。
* * *
三層目は変わらず洞窟のような作りの場所。広場も同じ感じだが、ここからは一層毎の広さが大きくなっている。次の階層までの距離があるのだ。その為、この世界でのレベル上げは結構時間がかかる。
「さっさと行くか」
ぼやきながらマップを開き、目的の場所へと向かう。
目的地に到着すると、その中を覗いてみる。上位種のスライムがいる場所と似たような広さで、中には人型のモンスターであるゴブリンが10匹ほど騒いでいた。言葉は分かんないが、談笑しているように見える。
先制攻撃で先ずは目を潰すか。懐に用意しておいた、特製の溶液を投げつけてやる。すると、水自体が発光し、部屋にいたゴブリン全員の目を潰した。こいつは、スライムを倒した時に出たスライムゼリーを利用して作った発光水だ。コップに魔法陣を書いてその中に魔力を多く含む液体を入れれば完成するので、手軽に作れる。こっちでも同じ感じで作れてよかった。ゲームではクラフトを基本に動いてたからな、アイテムを自作できるのは他のプレイヤーと比べるととんでもないアドバンテージかもしれない。
「それよりも実験だな。魔力を放出して」
今回は実験も兼ねてゲームでの魔法を試してみるつもりだ。
ゲームでは魔法や
魔力の放出は、この前の負傷を直した件とネットでの情報を見るに血液に宿っているらしい。そこを意識して集中してみると、皮膚の下に何か温かいモノが流れているのを感じた。
恐らく、これが魔力。流れに干渉して、指先から出るように調節してみる。簡単な魔法陣を書いてみる。さっき使った発光水にも使った魔法陣。丸と三角形を組み合わせるだけで完成するので、試しやすい。
魔法陣が完成すると、俺の手から離れて魔法陣が凝集し光る玉になった。魔法陣が完成すると何かが抜けて行く様な感覚があった。魔力消費とはこんな感じか。
おっ、そろそろ
そこからは、ゴブリン討伐とスキルの練習に費やした。
* * *
スキルの練習を通して分かった事は、魔法陣やモーションによって魔法や武技を発動させるいわゆるマニュアル発動は魔力の消費が少なく、ある程度自由に操作が可能。逆に詠唱によって発動するオート発動は規範に則って動いている感じだ。制御が効かない感じで、途中で中断もできそうにない。
ここら辺はゲームでも一緒だな。オート発動に感じるデメリットはある程度、改善可能なので気になる所ではない。しかし、スキルスロットに無いスキルの武技の発動ができるのは予想外だった。
ゲームでは、スキルを育ててちゃんと習得していかないと、武技や魔法は使えない。しかし、マニュアル発動では、覚えた事のある武技や魔法に限って、スキルスロットにスキルが無くても発動できる。
一応、覚えていなくても使用可能な魔法はある。が、武技にはなかったはずだ。俺もすべて網羅していた訳ではないが、それでも他より知識はあったが無い筈だ。
「ううむ、俺のゲームデータが野獣先輩にインストールされているのか?」
そういう事なら辻褄は合う。言うのもなんだが、俺のキャラはかなりの強さを誇っていた。スキルだけでもそのキャラの能力がインストールされているのなら、良い糧になりそうだ。普段俺が使っているデバイスでも無いのにそんなデータが在るのかという考えも浮かんだが、こんな世界に来ている上に、主導したのが運営な以上、プレイヤーのデータにアクセスするなど造作もないだろう。
「運営は俺たちに何をさせたいんだ?」
『七つの悪を淘汰し、新しき世界で白き大樹を育てよ』
そう言えば、ログイン前にモニターにこんな感じの事を言われた気がする。
うーん。七つの悪。白い大樹。何の事だか、さっぱりだ。
白い大樹というと、白樺か? いや、あれは別にそこまで白い訳じゃないし。うーん、どっちの言語も見当がつかない。
なら考えるだけ無駄だな。とりあえず、レベル上げをするか。
そうして俺はその日は18時までダンジョンにいた。結果、レベル5まで急成長した。ノービスのジョブレベルも上がり、【生存術】というスキルも手に入った。
* * *
朝に仕込んだ具材を出して、フライパンを使って焼いていく。本日は、焼き魚だ。味噌汁も本日はインスタントではなく、豆腐と油揚げ入りのをしっかりと作ってやった。
既に弟妹二人は帰っていたので、夕食に呼んでやると素直にダイニングに来たので、それぞれ配膳を手伝わせ、俺も少し離れた所の席に着く。
「いただきます」
お馴染みの挨拶と共に食べ始める。うん、いい出来だ、きちんと魚に味がしみ込んでいる。味噌汁にも合うな。ああ、旨い。
味わって20分程で食べ終わってしまった。明日も早いからなすぐに寝よう。
* * *
次の日。日課の運動後に、朝食を作って、食べて、食器を片付ける。そのまま制服のジャケットを着て学校へ向かう。
本日からは通常授業だ。高校の勉強なんて二十年ぶりだが、昨日は寝る前に中学の範囲を予習してきたし、野獣先輩の記憶を漁ると数学の公式や定理、定義、生物の仕組みに英語の単語、国語の長文問題の解き方に、社会の歴史や公民の知識について出るわ出るわ。というか、思い出も含めればこいつは独学でここまで来たし、中学時代は同級生の勉強も見ていたらしい。かなり優等生だな。
前田が来ていたので声を掛ける。
「おはよう」
「おう、おはよう」
「昨日はどうだった?」
「聞いてくれよ――、」
どうやら予想通り、肉林と組んだ奴らを自分たちのパーティに引き入れてみたらしい。で、感触としては悪くない感じなので、今後は一旦二手に分かれてレベル上げをして、ジョブチェンジまで行ったら合流して上の階層を目指すという感じで行くらしい。
無難かつ堅実なプランである。このぐらいの年頃は突っ走て行きがちかと思っていたけど、前田達は深く考えているらしい。
「順調そうだな。斥候役は入ったのか?」
「んん、微妙。一人がそっち方面と軽戦士方面で迷っている感じだ。避けタンクは欲しいが俺と役割かぶるしなぁ、と思ってな」
迷うのは仕方が無いか。進路が命の危険もある選択になる訳だしな。
「初めは斥候役でやらせても良いんじゃないか。避けタンクが必要になってくるのは二十層あたりだし、暫くはそこを考えずにルート取りできるようになるのが最善じゃないか。避けタンクの練習は学校でもできるわけだし」
「ああ、なるほど。その手もあるか。じゃあ、その線で説得してみるわ」
「おお、頑張れよぉ」
前田はそういうと、丁度教室に入ってきた女子生徒に声を掛けに行った。
俺はその後、授業の準備をしながら、始業のチャイムまで待った。
* * *
うーん、終わった。いや、勉強って楽しいな。
オレの頃とはやり方が違うってのもあるだろうが、勉強するのは楽しいな。先生たちも教え方がうまいし、ちゃんと興味を持てるような授業の仕方をしてくれる。さすが、国家肝いりの学校。教師の質は標準以上だな。おれが高校生の時とはえらい違いだ。
「じゃあ、今週はこれで終了ですが。今日は最後に委員会があります。皆さん、各委員会指定の教室に向かって指示を受けてくださいね。あと、来週からは部活動勧誘が始まります。少し慌ただしくなるかもしれないので、皆さん先に見学する部活動は見ておくと良いでしょう」
加賀谷先生がそう言うと、教室から出て行ってしまった。彼女の担当する委員会の集合場所へと向かったのかもしれない。
さて、俺も荷物は纏めているし、和田に声を掛けて向かうとするか。
「和田さん、委員会の場所に行きましょうか」
「はい、八十島さん。よろしくお願いします」
そこから、彼女との会話は無いが二人揃って、集合場所へ向かう。集合場所は教室棟一階の教室で既に他のクラスの生徒も何人か到着していた。
「こんにちわ」
「ああ、こんにちわ」
制服のネクタイを見ると、先輩らしい。どうやら、学年ごとに集まっているようなので俺らもそれに則って、顧問の先生が来るまで待つことにする。
同級生と話していると顔が厳つく、ツナギを着た大柄な男性が入ってきた。
「良く集まってくれた。俺が美化委員会顧問の
ううむ、幸助というより、巌や権蔵とかの名前の方が似合いそうである。
それはさておき、米林先生は美化委員会の目的と作業手順について話してくれた。先輩方は既に知っているようだが俺たちは、危険行為や注意事項なんかについて重点的に教えられた。今日さっそく活動する様で、モニターにクラス毎に指定された場所が張り出される。中々パソコンなんかを使いこなしている先生だ。
「俺たちは、第三理科室か」
「はい、七階にあるようですね」
というわけで移動する。
到着したら掃除用具入れを開けると、中には掃除道具と共に掃除の手順と注意事項の紙が入っていた。紙はコーティングされていて、破けたり汚れたりしないようになっている。やり方を見るに、掃き掃除後、モップで拭き掃除、最後はゴミ出しを行うという手順らしい。注意事項としては生物系の実験を行うので、生ものの処理は早めにする事と書いてある。
という訳で、俺たちはさっそく手分けして掃除に取り掛かる。掃き掃除は端っこに二人で分かれて中心に向かってゴミを集めて回収する。和田さんが回収をやってくれたので、俺はその間にバケツに水をためてモップ掛けの準備を行う。
バケツは二つ用意したので、二人でさっきと同じようにモップ掛けを行う。それが終われば、俺はバケツの水を捨てに行き、和田さんはゴミを纏めてくれた。ゴミはダストシュートがあるのでそこに入れれば、ゴミ出しは完了だ。
「終わったな」
「はい、じゃあ、これで解散ですね」
「おう、お疲れさまでした」
「こちらこそ、お疲れさまでした」
お互いに挨拶をした後、俺たちは分かれる事になった。今日も同じくらいに切り上げて、勉強の予習をするか。せっかく、野獣先輩の頑張りをおれが混じったことで落とす訳にはいかないので、第五層は明日にするか。
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