第8話 俺のステータス

 教室に戻って少し経つと、加賀谷先生が色々入った籠を持って教室に入ってきた。

 先生は籠を床に置くと、教壇に立って話始める。


「それでは委員会決めを始めたいと思います。先ずは、学級委員を決めて後の事はその学級委員を中心に決めていってもらいます」


 そうして説明を進めながら籠の中からマグネットを取り出して黒板に貼り付けていく。

 委員会の数は全部で10種類、男女で募集しているがウチのクラスは女子の方が多いため一部の委員会は女子だけになる所もあるなと考える。

 さて、どの委員会に入るか。ゲームでも委員会や部活動に入るとメリット、デメリットがあり、中には放課後の活動が制限されるような委員会もあった。また、基本的に入部が自由な部活動と違って、委員会は強制選択だからなマジで悩む。

 俺が思案していると、マグネットを張り終えた加賀谷先生が振り返ってしゃべりだす。


「それでは先ず、学級委員をやりたい人は立候補して下さい」

「はい」「はーい」「はい」「はい」


 四人挙がったが、女子は一人、節子お嬢様だ。残り三名の男子は残念ながら見覚えはない。

 先生も困ったような顔をしているが、直ぐにその場を収める案を出してきた。


「とりあえず、女子に他に立候補者がいないなら、車田さんで。男子は、そうですね、ジャンケンで決めてもらえますか。最終的に勝った人にお願いします」


 そんな感じで先生が指示を出すと、男子三名はジャンケンを行う。すると一回で一人勝ちして学級委員の座を勝ち取った猛者が出てきた。


「では、男子学級委員は袴田君に決定しました。では、車田さん、袴田君。進行はお願いしますね」

「はい、わかりました」「承知しました」


 袴田と節子お嬢様が前に出て先生は黒板端のスツールに腰を掛ける。

 学級委員二人は少し話すと、節子お嬢様が書記で司会は袴田君がやる様であった。


「では、委員会決めを続けます。今から委員会名を言っていきますので、被りが無ければそこで決定。被りがあった場合は一旦保留して、次に行き最後まで行ったら保留してた委員会の人間で決めて二巡目に入る感じで行きます。いいですか?」

『はい!』


 袴田はそういうと、委員会名を挙げていく。委員会は学級委員、図書委員、保健委員、美化委員、保安委員、整備委員、放送委員、生徒会補助委員、体育祭実行委員、文化祭実行委員がある。この中で一番ましな選択肢は、美化委員だ。

 この委員会は学園探索用の委員会と言っても差し支えない。月に一度、特殊教室の清掃や部活動の衛生状況のチェックをするだけという委員会で、活動中にアイテムを見つけたら懐に入れられるという美味しい委員会でもある。放課後残る事や休日に呼び出される事もないため、ダンジョンダイブに本気を出したい俺としては入っておきたい委員会だ。


「では、次、美化委員」

「はい」「はい」


 二人、俺の後ろから女性の声がするという事はこれで決定だな。


「じゃあ、男子は八十島だな。女子は……」

「俺の後ろに一人いる」

「む。すまない、見落としていた。ええと、和田だな。両方決定だな」


 俺が彼女の事を隠していたみたいなので、少しズレてやると袴田はそれを認識したようで女子生徒と俺を美化委員に決定した。これでこの場でやる事はない。後はクラスメイト達の熱戦をBGMに次の事について考えるか。



*   *   *


「では、前期委員会はこの構成で進めていく事にする。各委員会は明日の放課後に顔合わせだそうだ、教室はこの後に学園事務室からメールが来るから確認しておくように。では、解散。お昼後には着替えて教室に集合してくれ」

『はい』


 袴田がそう号令を出すと、全員が返事をして教室を出ていく。

 目的は今日案内されていた食堂だろう、俺もそこへ向かおう。学生食堂ならワンコインでも十分だろう。

 クラスメイト達とはあんまり仲がいい訳でもないので、今回はボッチ学食かと思ったが、前田が声を掛けて来てくれたので、ご厚意に甘える事にする。初日にいきなりボッチ飯はつらいからな。


「今日は、何にしようか」

「丼ものは600円か」「カレーは500円だな」

「俺は日替わり定食で。500円だし」


 前田と他二名と一緒に食券を選んで購入し、食堂のおばちゃんに渡すと直ぐに料理が運ばれてきた。

 俺は先に選んでいたので座席を確保し三人を待つ。すると、あまり待たずに三人が料理を持って確保した座席に座ってくる。前田が仲良くなったのは眼鏡を掛けた奴と体育会系みたいな奴で、名前はそれぞれ木村に肉林であった。話を聞く感じ、どうやら三人でパーティーを組むらしい。前衛のタンク前田とアタッカーの肉林に、後衛の木村でバランスの取れたパーティーであった。


「なるほどね。回復役はこれから探す感じ?」

「そこら辺は追々かな? 今のパーティーなら俺がタゲを取れば負傷は少なく済むしな。しばらくは応急処置で凌げる筈だ」

「肉林はそれでいいのか?」

「負傷率の高いタンクがそういうなら俺はそれでいいよ。それに第四層までは大けがするような魔物は居ないだろうが……、まぁ、最終的には5~6人のパーティーを組めればと思っている」

「僕もそんな感じ、それに【魔法使いメイジ】を極めれば低級の回復呪文を覚えられる筈だから。先ずはそこを目指すのが僕たちのやるべきことです。八十島君はどうです?」

「俺は暫くはレベル上げに集中したいからソロで活動だな」

「そうなんですか? 前田君が誘っているのかと思ってましたが……」

「ああ、パーティー人数を絞ったほうがレベル上げの効率は良いって聞いてたからな。先ずはレベル上げをやってからだな、強くなった後にお前らみたいなパーティーに入るつもりだ」

「なるほど、事故には気を付けてくださいね。貴方を誘う前に死なれても気分悪いですから」

「気を付けるよ」


 その後は和やかに会話をしながら食事を腹に収めると、最近の注目株の冒険者について話しながら更衣室へ向かった。


*   *   *


 学園から配給されたプロテクターに着替えると、加賀谷先生の案内で迷宮近くの広場に集まった。

 そこには小さめのテントがクラス分並んでおり、既に一クラス綺麗に並んでステータスの確認を始めていた。


「では、出席番号順に並んで、鑑定を始めてください」


 加賀谷先生が声を上げると、全員が一列に並んで一人ずつテントの中に入っていく。どうやら終わったら抜けて行く様なので列が鑑定した生徒が戻ってくることはなかった。

 そうしてドンドン鑑定されていき、ついに俺の番になったので、中へ入る。

 テントの中には大きな水晶と真面目で優しそうな事務員の人が立っていた。


「出席番号29番、八十島快晴君だね。この場の鑑定で得た情報は冒険者データベースに記録されるがその旨について了承は?」

「します」

「よろしい、では、水晶に手を置いてくれ」


 俺が水晶に手を置くと半透明なスクリーンが映し出された。そこには俺のステータスが映し出されていて、事務員はそれを自分の端末に打ち込み始めた。

 オレもそれを改めて、確認していく。


〈氏名:八十島やとじま 快晴かいせい

〈年齢:15歳〉〈状態:正常〉

〈レベル:Lv2〉〈ジョブ&ジョブレベル:【ノービス】 Lv2〉


〈ステータス〉

HP:18/18 MP:19/19

STR:23

AGI:21

VIT:19

RES:18

INT:18


〈スキル〉(1/2)

・暴れん坊(Lvー)

・――


 こんな感じであった。確か、ゲームの説明では15歳の平均が各ステータス15だから。レベルアップで増えてる分を考えると優秀な部類っぽい? 

 そして、見慣れないスキル。【暴れん坊】とは? 別に周りに当たり散らしている気はないのだが。

 というか、このレベル表記はもしかして……。


「じっくり見るのは良いが、次に交代したまえ。端末に君のデータは送信したから、奥に行っても見られるだろう」

「あの、このスキルのレベル表記は何ですかね? 見た事なくて」

「ん? ああ、これは固有スキルに稀にみられる表示だね。こういうのは強力な効果が内蔵されている上に、使っていくと別のスキルに変わったりする。珍しい事例だし、あんまり有名じゃないから君が知らなくても無理はない。が、さすがにそろそろ次の子を入れたいから、後は先生にでも聞きなさい」

「はい、失礼いたしました」


 優しい事務員でも口調が厳しくなったので、サッサと出ていく。

 というか、予想通り進化系のスキルか。

 スキルというのは、ジョブレベルを上げたり、特殊なイベントやアイテムを用いる事で身に着ける事が出来る能力だ。スキルレベルを上げる事で魔法を覚えたり、武技アーツと呼ばれる技を繰り出す事が出来る様になる。

 ゲームでは【暴れん坊】の様な表記のスキルは進化スキルと呼ばれて、それ自体が効果を持つ特殊なスキルで種類も多くパッシブスキルやアクションスキルも存在する。進化スキルはレベルアップや条件達成を通して、より強力な効果のスキルにアップグレードさせられる。そして、このスキルは嫌な予感がする。ゲームでの野獣先輩は持っていなかったので、【創造神】関係のスキル。となれば、個別に鑑定を行わないと、詳細は分からないか。さて、今後はどう動いていこうかね。


*   *   *


 一旦、波乱はあったが、次はダンジョンダイブの時間になる。

 前田と合流すると、肉林は女子二人組と合流していった。どうやら肉壁役が欲しかったらしく、一時貸し出し中らしい。前田的にはあの二人を将来的には引き入れるつもりなのかもな。


「じゃあ、今日はよろしく」

「おう、よろしくな」

「よろしく、頼りにしてるよ」


 俺は前田と木村と共にオリエンテーションの最終段階に挑む。すなわち、ダンジョンダイブだ。

 目標は二層奥。三層に繋がる場所の広場が目標地点そこで今日は解散らしい。


「フォーメーションとか決めて置くか?」

「ああ、じゃあ俺が先頭で木村が真ん中、八十島が後ろだな」

「分かった」

「あいよ」

「荷物はロッカーに預けてから、入り口広場に集合な」


 前田が号令をかけると、俺たちは返事をした後にそれぞれの荷物をロッカーへと預けダンジョン前の広場へと集まった。

 うーむ、学校行事の一貫というのもあるだろうが、見覚えのあるネームドキャラがチラホラと見受けられる。人間サイドに推しキャラは居ないので主人公に頑張ってくれとしか感じないな。まぁ、バッドエンドにならなければ、後はどうでも良い。


「お待たせ、ってお前はバッグを背負ってるんだな」

「ああ、今日は三階に行って長時間潜るつもりだから、色々入れてんだ」


 今日は第三層のレベリングスポットに行くつもりだ。早めにレベルを上げて、第五層のレベリングスポットに向かいたい。というか、第五層には重要なスポットがあるし、早めに行っておきたい。

 現段階では全プレイヤーは足並みが揃っている段階だろう。オンライン対戦は五十層から実装されるコンテンツだし、五十層攻略と装備、レベル上げはなるべく短期間で行って、他のプレイヤーに有利は取っておきたい。


「それにしてもこれが、ダンジョンか」

「大きいな」

「ですね」


 改めてダンジョンの外観を見ると、確かにデカい。標高300mの山を半分に割り、その壁に縦50m、横幅100mはある大穴が空いているような外観をしている。ゲームでも思ったが外観はマジで謎だよな。というか、反対側から入口の方まで穴掘って行ったらどうなるんだろう?


「入り口はあそこなんだよな」

「その前に迷宮前に入場門があるからそこから入らないとな」

「さっさと行こう」


 前田がそういうので俺達は入場門の方へと向かう。駅の改札の様なシステムで管理しているらしく、腕端末をかざすと、そのまま中へと進んでいく。集団入場用の入り口や、退出口もちゃんと作られているため入り口付近で混雑する事はなさそうに感じた。冒険者たちもワザワザ諍いを起こす気も無い様で、おとなしく整列し、迷宮の入口へ向かっている。

 整列したが木村と離れているため、迷宮の中で合流する運びになった。しばらく並んでいると、漸く俺たちの番になったので、中へ入る。黒い壁面は水の様に抵抗少なく俺達を受け入れて、中へと誘っていった。

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