第7話 学校見学
教室を出て、まず最初に向かったのは図書館棟であった。
外観を見ただけで警備が厳重なのが一目で分かった。窓が少なく、外壁には色々な仕掛けが仕込まれているのがわかる。一番目を見張るのは、図書館棟の上で浮遊している結晶だろう。魔法世界の厳重警戒している建物ですよという雰囲気だ。
「ここが図書館棟です」
全員が図書館棟前に集まると、加賀谷先生は振り返って話始める。
「この図書館は冒険者界隈についての資料や迷宮関連の研究についての論文が多数揃えられています。他にも剣術や槍術、各種武器術についての映像資料なんかが取り揃えられています。また、魔法を扱う人間に対しても立ち回り方についての指導書や魔力の効率的な回復方法についての論文なんかも蔵書されていたりするので、何かに迷ったら先ずは図書館で調べてみると新しい発見があったりしますよ」
話を締めくくると、中へと案内し十分ほど図書館を見て回らせてくれる事になった。
俺はスキルの発動に関して学ぼうと考えて、それに関する蔵書の棚を調べる。初心者にお勧めという本があったので調べてみるとスキルの発動方法について書かれていた。こっちの世界では魔力を操り、呪文と共に発動するというのが発動方法であった。
魔力というのは分からなかったが、同じ本の中盤にそれらしき記述があった。へその下辺りにある丹田から生産されている物質兼エネルギーという位置づけの未知のナニカだ。興味深い内容もあったが、時間内には読み終わりそうにはないので、元の位置に戻して図書館棟入り口前の広場に戻る。
全員集まると次の見学先へ移動となった。
* * *
次の見学先は厚生棟。食堂と救急態勢、その他諸々のサービスが整った場所である。
外観は大学病院が三つくっついたような見た目をしている。こちらはあまり、警備は手厚くなく、一般の人間もちらほらと見える。
「ここが厚生棟です。食事やカウンセリング、クリーニング等を行ってたりしますが。一番皆さんがお世話になるのは救急外来だと思います。此処には腕の立つヒーラーや医者が待機しているので、腕がちぎれかけても回復してもらえますよ」
さらっと怖い事言ってきた加賀谷先生だが、まぁ、ゲームの通りなら回復魔法があれば現代医療と合わせれば、そうそう人が死ぬことはない。ゲームでも、厚生棟に入れば手足が切断された瀕死の状態でも回復した状態で出てくる施設であった。俺もゲーム時代は無料の回復スポットとしてお世話になった場所である。
「厚生棟の方は一般の方も入院されていたりしますので、あまり騒がないように。一棟の周りをグルっと見たら次に行きましょうか」
加賀谷先生がそう言うと三つある内の一棟をグルっと見回って次の見学先へと移動した。
* * *
次に来たのは生産研究区域。
外観はショッピングモールの周りを商店街が囲んでいるという感じだ。面積でなら学校施設の中で最大だな。煙突から煙が立ち上り、金属がぶつかり合うような音と威勢の良い掛け声が聞こえてくる。
ゲーム時代は自分で作ったポーションを値崩れしない程度に売って、金策してたのがいい思い出だ。武器に関しては値段の割に品質は並以下のモノしかなかったが、あれはプレイヤーによる装備のインフレが起こったからこその結果だろう。レンタルする時は品質を良く吟味しておきたい。
「ここは生産研究区域です。主に武器の生産や魔石、魔道具の研究を行っています。此処は他の施設とは違って複数の企業や研究所が出資している為、外部の方が沢山いる為あんまり失礼のないように。レンタルに関しては、学校購買部が目録を出しているので確認してみると良いでしょう」
何処に待機していたのだろうか、複数の黒服の人間が大量の武器を抱えて俺たちの前に並んだ。
先生も事前に知っていたようで、何も言わずに端へ移動し、件のお嬢様――、
節子の外見は黒髪のストレートロングの髪にメリハリのついた体を制服をキチンと着こなして、意思の強そうな顔でクラスメイトを見渡してきた。確認の為に前田の方を見ると、同意するように頷いてきた。
「昨日説明した通り、我が社の製品テストも兼ねて皆さんに武器を配らせてもらいます。保証書と共に希望の武器を受け取ってください」
『はーい』
全員返事をするあたり、ノリの良いクラスメイト達と感心する。
加えて、節子による懐柔が効いているのだろう、クラスメイトが思ったより従順になっている気がする。
大企業で貴族の娘となれば人心掌握術に長けているのだろう、エサで釣って忠誠を買うとは実に上手い手だ。
全員が並び始めるが、俺は希望を出していないので、先生の横へ移動する。
「受け取りに行かないのですか?」
「いや、自分は昨日いなかったので、予定に無い人間がいきなり入るのは迷惑だと思いましてね」
「……そうですか」
昨日は全員来ていた筈なのに? という感じで加賀谷先生は不思議そうにしている。
先生の隣にいると、節子お嬢様がこっちに来て話しかけてきた。
「貴方は受け取って下さらないのですか?」
「いえ、俺は希望を出していないので」
「……そうですか。……今、希望を出せば後日用意しますが?」
「あー、……いえ、冒険者登録したときに貰ったのがまだ使えそうなので、大丈夫です」
「別に二丁持ちでも構わないのでは?」
「二丁持ちは、整備の点から高校生の小遣いではきついのです。移動にも手間ですしね」
「なるほど」
節子は顎に手を当てて考え始める。
美形は得だよな、思案中の姿も絵になる。俺がやると、不気味な間男になる気しかしない。
「移動が不便とのことでしたが、そういう時はどうしたいと思いますか?」
「あ? あぁー、二丁持ちするなら長期遠征が基本でしょうから、背中に背負うか、ナイフみたいな小型武器を携帯するのが一般的でしょうね」
「長期に渡って活動するなら移動中の負担を減らすのは重要ですね。レベルアップによる肉体強化を考えると……」
「……」
節子は自分の世界に入って思考を初めてしまった。商品案でも考えているのだろう、ブツブツと断片的な言葉だけで色々考えているのがわかる。
「お嬢! 配り終えました!」
「はい、わかりました。では、先生、次の案内お願いします!」
「承知しました、では皆さん、次に行きましょう」
切り替えがすごいな、全員が移動していくので俺も流れに乗ってついていく。
* * *
部活に関するエリアと訓練用の施設、学生寮、学園事務の施設を案内されて、最後の施設、俺たちの教室も入っている教室棟に辿り着いた。教室だけでなく、大講義室や音楽室、複数の理科室、地下にはホールもある。外観は十階建てのビルが三つくっついている形をしている。地下は中央部にあるらしい。
「最後にここはみんなが授業を受ける事になる教室棟です、大学と高校が合わさっているので、かなり人がいます。予定では中学校も入る予定なので、かなり大きく作られています。部屋数もかなり多いので迷子にならないように気を付けましょう」
とりあえず、一通りの説明は終わったのか、加賀谷先生は全員に十分後には教室に集合と告げると自分はどこかへ行ってしまった。
俺は特にする事も無いので、前田に声を掛けてみる。
「よう、なに貰ったんだ?」
「俺はライトシールドと長剣だな」
「普通だな。タンク志望か?」
「アタッカーにあこがれてるが、適正次第ではやってみようかなって感じだ」
「ふーん、なら、サポート用のアイテムを幾つか持っていると良いともうぜ。手りゅう弾とか、火炎瓶みたいなの」
「いるのか?」
「敵の近くにいるなら、投げるだけで効果が出るアイテムは強いと思うぞ。まぁ、使い処によるから、胆力が無いと冷静に使うのは厳しいだろうけど」
「なるほど、補助アイテムか、検討してみよう」
悩み始める前田は貰った盾と剣を眺めながら教室へと歩き出した。俺もその後ろについて教室へ向かう。
次は委員会決めの筈だから、何処に所属するかしっかり決めないと、変な所に決めるとダンジョンダイブの時間が取りずらくなるからな。
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