第6話 昨日の話
実家から迷宮学園までは徒歩で十数分。
まだ、桜並木も満開で綺麗な風景が楽しめる。
そして、本日は学校案内。ゲームでも見たが、リアルで見るのとは迫力が違うので、その差異を見ていきたい。
「いや、楽しみだ」
そんな事を考えていると学校に着いたようだった。
到着した学校を改めてみるとかなりデカい。ゲームでは大学も併設されていて、施設が巨大かつ広大に作られている。研究施設や武具製造施設も併設しているため警備も厳重である。俺が通う校舎は地下三階、地上十七階建ての外観は巨大なビルである。幾つかの大規模施設や森が敷地に建造されている。
ゲームでは至る所で主人公がヒロイン達と交流を深める。ただ、最新の研究や重要な情報が色々眠っている施設なので、監視カメラや警報システムがあり、不純異性交遊を学内でやるのは難しい。
見て回りたいが、授業で回るの欲望をグッと抑えて昇降口へ向かう。
* * *
下駄箱で靴を履き替えて、教室へ向かう。
教室には既に数人いるようで、授業の予習やダンジョンに関する雑誌を読み込んでいるようであった。
既に隣の前田は来ているようで、上機嫌で雑誌を見ている。
「よう、前田。おはよう」
俺が声を掛けると、前田は驚いていたが直ぐに昨日のことを思い出したのか、フレンドリーな感じで挨拶を返してきた。
「ああ、おはよう。昨日はどうしたんだ?」
「家の事でちょっとあってな。それより昨日は何かあったか?」
「ああ、けど、昨日、残らなかったのは勿体なかったぜ」
「何があったんだ?」
前田はふっふっふっと不敵な笑いを見せると、勿体なかった理由を話してくれた。
「あの後、教壇に立った女の子は貴族でな。なんと、俺たちに一律で武器を支給してくれるらしいんだよ」
「あ? なんでそんな事を?」
「どうやら、
貴族のお嬢様が、そんな事で大盤振る舞いしてくれるのかね?
裏がある気がするぞ。
「それっていつ、貰ったんだ?」
「まだ、貰ってはいないんだけどな。なんか冒険者登録と共にこっちによこしてくれるらしい」
「俺は、昨日、冒険者ギルドの方から貰っちゃったからな。お嬢様の方からは良いかな」
「へー、なに貰ったんだ?」
「長剣。普通の鉄製の奴」
「メイス貰っとけば? そっちが得意なんだろ」
「割とどっちも行けるからこだわりは無い。というか、武器の二つ持ちだと手入れの費用が掛かるからな」
「まぁ、貰えるんだったら貰っても良いんじゃないか? それより――、」
前田と話して、色々あった事が分かった。
今はまだ、パーティーを決めてたりとか、派閥が決まってたりとかはないらしい。
ただ、このクラスはお嬢様が先導を取って引っ張って行く事になる、そんな予感がするとの事だ。
迷宮学園ではクラス替えは起こらないので、必然的にリーダーに成ったのなら余程の不祥事がないとそのままリーダーとして卒業していく事になる。
「じゃあ、クラスリーダーはお嬢様になるのかね?」
「そういうのは学級委員が兼任するらしい。中間や期末でクラスを引っ張って行くことになるからマトモな人だと良いな〜」
「自分がやろうとはしないんだな」
前田はあんまりリーダーをやる気はないようだった。確かに、パーティーのリーダーをするのと複数集団を統括するのは運営方法が違うだろう。貴族の令嬢が立候補するのは、将来の予行練習を兼ねているのかもしれない。
しかも、車田財閥と言えば、ストーリー内でも度々存在が出てきている大財閥のはずだ。ダンジョン関連の製品や技術の研究で名を馳せている大財閥で、第一ダンジョンを中心に活動している。車田財閥のご令嬢がヒロインで、その双子の姉が学園にいる。
車田財閥のヒロインストーリーは姉妹喧嘩が勃発するが、数の暴力で妹が姉に勝つ話だ。それでも姉の方は10倍位ある数の差を覆し、奥の手でヒロイン側を圧倒するが主人公の力でそれを真っ向から撃破するというストーリーだった気がする。
さて、どっちがこのクラスにいるかな?
クラスについてはゲームでも言及がなかったから、初めて知る。
「そういえば、お嬢様の名前は何て言うんだ?」
「え? ああ、なんて言ったけ? 確か……」
武器をくれる恩人だというのに、名前も覚えていないとは前田の記憶力はあんまり当てにはなら無そうである。が、少し悩んで、思い出したのか話してくれた。
「車田、車田ぁ……、ああ、
「ああ、確か……、姉の方だったな」
「姉? 姉妹がいたのか?」
「ああ、親父が車田の研究所で働いていてな、お嬢様は二人いるってのは聞いてたし、優秀な姉の名前は聞いていたからな」
「ほーん」
どうやら前田はそのことを知らなかったらしい。確かに令嬢の裏話など平民には知らぬことだろう。
ストーリーで分かっている事も、話す事は控えた方が良いな。表に出てない事を話せば混乱は必須だ。
「それは置いておいて、どうだ、この後のオリエンテーションで最後はダンジョンの中に入るみたいだから俺と組まねぇか。損はさせねぇぞ」
「パーティーか」
車田姉妹の事についてはどうでもいいのか、話を今日のダンジョンについて話し始めた。どうやら、俺とパーティーを組みたいらしい。今日のオリエンテーションは三人組で潜らせる筈だから、一人足りない筈だが彼には何か考えがあるのかもしれない。
「まぁ、別にいいが。俺は暫くソロで潜るつもりだぞ」
「あー、まぁ、今日はそれでいいよ。俺はパーティー組もうと思ってるけど授業だと分かれるかもしれねぇからな。あぶれた時に組んでくれる奴が欲しいんだよ」
「授業か。三十人いるんだし、あぶれる事は少なそうだが」
「成る時は成るんだよ」
実感が詰まった声に俺は苦笑いしてしまった。
そこから、最近の冒険者事情を話したりながら授業開始まで待つことにした。
* * *
チャイムが鳴ると席に座って、タブレットを出して授業まで色々調べてみる。
教科書、参考書、各種便利機能が揃っている。
「はーい、席について下さいね」
昨日と同じスーツ姿の女先生――、加賀谷が入ってきた。
「では、今日の予定を話していきます」
先ずは、迷宮学園の施設紹介。
学園内の各施設の紹介と使い方、マナーについての指導、貴族も平民も一緒にいるからトラブルを起こさない為の諸注意等々を指導する予定である。迷宮学園は冒険者ギルドの施設も併設されているため、かなり広い。
次に、クラスの委員会決め。
学校施設を見てきたうえで何処の委員会に入会するかを決める。委員会は学期毎に代わるので、合わないようなら次の学期で変更は可能。
その次にステータス鑑定。
冒険者ギルドの施設へと移動し、そこで鑑定を受け、自分のステータスを確認する。ステータスについては冒険者ギルドや迷宮学園で個人情報として管理する。そしてその場で冒険者ギルドのライセンスを発行する。
最後にダンジョンダイブ。
今日は二階層目の最奥まで行き、その場で解散後に自由行動。武具は学内の生産エリアで貸し出しが行われているので見学の途中で借りる予定。
「では、出席番号順に並んで廊下で二列に並んでください」
懐かしい呼びかけに感動しながらも、前に続いて教室を出ていく。
生徒の準備が整うと、団体行動で学園内が案内されていく。
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