羊を庭先に離し、壁土の味のするパンを齧り、パスタを茹でるのをやめて魚の海をスロウボートで越え、飲んだ事もないキャンベルのスープの事を考えながら、デザートに蜂蜜パイと海苔巻きキュウリを齧る冒険
豆腐数
世界の終りと騎士団長殺しとレキシントンの幽霊
村上春樹らしさとはなんだろう? 僕は壁土の味のするパンを齧りながら、泥棒かささぎの口笛を吹きつつ考えた。
夾竹桃の咲く庭の真ん中に座り、パンを齧りながら口笛なんか吹いたせいで、パンくずが芝生の絵に落ちてしまい、ねじまき鳥のつがいがやって来て、それらを、今にもハンバーガー強盗をしそうなほど莫大な空腹を抱えた夫婦のように食べた。
ところで僕の家の隅には井戸がある。中に降りていくとアンナ・カレーニナの上下巻本がいつでも置いてある。
他にも星型の痣がある羊がいて、いつも羊男とメェメェ遊んでいる。隣にはメイという名前の小五ロリが住んでいて、彼女はいつもかつらを作る内職をしている。
僕は冷ややかな風に包まれながらため息をついた。なんだってこんなに僕を取り巻く環境はとりとめもなく、しかし混沌としているのだろうか?
僕はパンを諦めてねじまき鳥達に放り投げると、部屋に戻ってパスタを茹でた。ちなみに僕には名前なんかないし、広告代理店に務めている。好物はコロッケとウナギと関西風ちらし寿司。ふらりと遊びに来たガール・フレンドにコーヒーを出す時、何もいらないと言ってもとりあえずチョコチップクッキーを出す程度には気が利いているつもりだ。
猫を飼っている。名前はサワラ・イワシ。外を見ると大量のアジとイワシが降っていた。やれやれ。洗濯物がやり直しじゃないか? 足元のサワラ・イワシも、魚の気配を聞きつけて、ハリネズミのように全身の毛を逆立てている。
サワラ・イワシの騒ぎも、外のアジとイワシの雨模様も酷くなって来た。部屋の電話が鳴る。僕は火を止めて、受話器を取った。
「そして冒険が始まるの」
などと言われてはしかたがないので、僕はたまたま部屋にあった中国行きのスロウ・ボートに乗って、魚をめぐる冒険に出る事にした。もちろんサワラ・イワシも一緒だし、お弁当はキュウリとチーズとハムのサンドイッチで、ガールフレンドもいる。
僕はガール・フレンドとおやつの海苔巻きキュウリをかじりながら、二匹の熊が蜂蜜パイを売る店に向かうのだった。
やれやれ。食べてばかりじゃないか? このくだらない文章を書いた奴の頭の中には、脳みその代わりにパンとサラダとハムエッグ、鮭とわかめとマッシュルームのピラフ、骨付き鶏肉、キャンベルのスープなんかが詰まっているに違いない。デザートにホットケーキのコカ・コーラがけも入っていていて、それは鼠が美味そうに齧る事だろう。
実際、僕は考えるだけで太りつつある。ちなみにホットケーキのコカ・コーラがけは不味い。鼠にそそのかされて試した僕がいうのだ、間違いない。
羊を庭先に離し、壁土の味のするパンを齧り、パスタを茹でるのをやめて魚の海をスロウボートで越え、飲んだ事もないキャンベルのスープの事を考えながら、デザートに蜂蜜パイと海苔巻きキュウリを齧る冒険 豆腐数 @karaagetori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます