・大会予選:ソコノネの迷宮 - 進むと黒バニーさんに会える迷宮! -
エレベーターの外に一歩を踏み出すなり、私は聖帝の御業に度肝を抜かれた。
迷宮と聞いていたのに、そこにあったのは光差し込む地上世界だった。
高い生け垣がそびえ立つ巨大庭園に私は立っていた。
「どうなって――へぶっ?!」
小さな茂みを抜けて向こう側に行こうとすると、見えない壁に激突した。
「あ、ああこれ、そういうやつか……。3Dダンジョン、的な……」
生け垣はダンジョンの壁。
一見通れそうな生け垣の隙間も同じ壁。
そして予選は既に始まっている。
「これ、意外と……迷うぞ……?」
こんなことなら紙とペンを持ってこればよかった。
私は早足で庭園迷宮を進んだ。
すると大きな広場にたどり着いた。
広場にはテーブルと、ティーセットと、キノコの形をした怪物が3体いた。
「マ、マタンゴ、ってやつか……? う、うおっ?!」
1体は弓。俺は寸前のところで矢を回避した。
もう2体は槍と剣を装備した戦士だ。
「ど、どうやって作ったよ、こんな世界!? フジヤマ・ローランドのアトラクションってレベルじゃねーぞ!?」
俺はエリンギに見えなくもないキノコ軍団を、自慢の刀でスライスした。
見た目は不気味だったが恐ろしく弱かった。
フロア正面の茂みが独りでに動いて、私のために道を開いてくれた。
こちらの出来事の方が私にはビックリだった。
「お、あいつらへの土産にするか」
それからフロアの片隅の木に、ネーブルオレンジに似た果実が1つ実った。
オレンジが嫌いな女の子なんてそうそういないだろう。
要領を掴んだ私はそんな調子で、なかなかサービス精神旺盛な迷宮を進んでいった。
庭園迷宮を抜ければその先は石の迷宮。またその先は地下水路型の迷宮。
そしてそこを抜けた先が話に聞いていた、チェックポイントだった。
「いらっしゃませー♪ 冒険を続けますかー? もう止めちゃいますかー? それともー、お、さ、け……?」
そこにはこの前の黒いバニーさんがいた。
バニーさんが片足を折り曲げて、ワインボトルを胸の谷間に挟んで私を待っていた。
こういったポーズをリアルで見せ付けられると、喜びよりも困惑が勝った。
「大会受付の、お姉さん……?」
「そーそーっ、自己紹介してなかったのがねーっ、心残りだったのーっ! 私、キョウコっていいまーす♪」
「キョ、キョウコ、さん……?」
「はーい♪ スタンプ押しちゃいますねー♪」
私はスタンプカードをもらった。
ラジオ体操に毎日通っていた頃を思い出した。
今は夏休みのラジオ体操はない?
いや、ラジオ体操は有用だよ、君。
歳を取れば取るほどにラジオ体操の素晴らしさがわかるはずだ。
「いかなくていいのー?」
「あ」
「はーい、それではまたお会いしましょー♪ がんばってねー、ルーキーくん♪」
「また出てくるんだ……チェックポイントごとに……?」
「大正かーい♪」
「くっ……気が抜ける……。またなっ、キョウコさんっ!」
「転んだり死なないようにねー!」
「同列かよっ!」
まるで小さなカフェのような生活感の塊のフロアを出ると、俺は再び戦いの世界に戻っていた。
・
3つの世界を抜けるたびにエッチな黒バニーさんに会えるのが、私は次第に快感になっていった。
こんな仕組みにしたら冒険者たちが引き際を間違えるのではないかと思う。
しかし戦いの向こうにバニーさんが待っていてくれると思うと、不思議と足取りが軽くなり、ガンガンと進んでゆけた。
しかし私は忘れていた。
この迷宮が混線を引き起こす状態にあることを。
「また新しい被害者か……」
「おい見ろよ、あのピカピカの鎧と刀! 金になるぜぇ、ありゃぁ!」
迷宮の深部に人を見つけた。
一名はこのキョウの兵士の姿をした者。槍持ち。
もう一名は和装のヤクザ者。長ドス持ち。
そして最後の一名は商人の風貌をした太った男。グラディウスと大きな金属盾。
「やっぱり会えたね……クルシュくん……」
「テメェか……」
それは予選11回突破のトッパさんだった。
フロアの片隅にはいくつもの血だまりと、死屍累々となった戦士たちの姿があった。
そのうちの1人は若い女性で、彼女だけはまだ息があるようだった。
彼らがここで何をしていたかなど、もはや考えるまでもあるまい。
私は生前、おやじ狩りに2度も遭ったことがあるのだから。
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今日から始める最強伝説 - 出遅れ上等、バトル漫画オタクは諦めない - ふつうのにーちゃん @normal_oni-tyan
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