巨大な猫に村が襲われたました

ねこ沢ふたよ@書籍発売中

シャー言うてます

 ガキンッ!


 キジトラ猫の爪が狙いを外し、ガードレールにぶち当たって火花を散らす。

 ぴょんぴょんと軽快なやんのかステップでにじり寄る黒猫に、キジトラは、余裕の笑みを浮かべる。


「な、なんなんだ……あれは」


 軽トラの中で農家のおっちゃんは、ワナワナと震えている。


 真ん中に落ちているチャーシューたった一枚をめぐって、猫二匹の戦闘が目の前で繰り広げられているのだが、明らかにサイズ感がおかしい。

 ヒグマ? いや……バスくらいの大きさはあるキジトラ猫と黒猫が、シャーッ! と互いを威嚇して背を丸めてやんのかステップを繰り広げているのだ。


 猫又? あれが猫又ってやつか?

 しっぽの数は……一本だけ。しかし、あの大きさは、普通の猫とは思えない。


 あ、いや……猫又と確定したところで、農家のおっちゃんにとって良いニュースな訳ではないのだが、それでも、何も情報がないよりかは安心するのは、人の性ってやつかもしれない。


 ウシガエルがボーボー鳴くのだけがうるさい、長閑な田園風景。

 その中で、猫二匹だけが異彩を放っている。


 ひらりと黒猫が華麗に跳躍すれば、キジトラは黒猫の着地を狙って強烈な猫パンチを繰り出す。


 ボコオォォォォ!

 

 猫とは思えない音を立てて黒猫がぶっ飛ぶ。キジトラの猫パンチがクリティカルヒットしたのだ。


 ザァァァァァ!!


 吹っ飛ばされた黒猫が畑に叩きつけられて、畑に大きな穴があく。


「収穫前のトマトが!!」


 恐怖で息を潜めていた農家のおっちゃんの心に怒りの炎が燃え上がる。

 苦労して育てたトマト達。美味しく食べてもらえるように、何年も土から育ててようやく満足のいくトマトが収穫できるようになったばかりだ。


「許せねぇ!」


 麦わら帽子を被り直し、肩の手拭いをキュッと締めて気合いを入れると、農家のおっちゃん……吾作は、草刈り用の鎌を片手に軽トラを降りた。


「テメェら! 俺ぇ怒らせたこと、後悔させてやらぁ!」


 ギラギラと闘志で吾作の目が光る。

 よく手入れされた鎌は、日光を受けて冴え冴えと輝き、猫達を威嚇する。


 シュッッッ!


 吾作の鎌が空気を切れば、その熟練した鎌捌きに猫達二匹の髭が震える。


 猫達の野生の感が教えるのだ。

 トマトをダメにされてリミッターの外れた吾作が、いかに危険かを。


「猫鍋は……トマト鍋より美味かろうかなぁ……猫どもよ」


 ニヤリと笑う吾作の姿に、ニャー! と一鳴して、巨大猫は去って行った。


「全く。なんだったんだ。あれは……」


 猫達がいなくなった後、吾作は畑におりて、踏みつけられたトマトを確かめる。

 

 意外と、トマトは潰れてはいない。

 良かった。これならなんとかなるだろう。

 吾作は、ホッと胸を撫で下ろした。


 まだ、気づいていなかったのだ。

 上空に黒い影があることを。


「カアー!」


 戦闘機ほどの大きさをしたカラスが、吾作の上で鳴いていた。

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