古き恋慕、回帰できず

満梛 平太郎

古き恋慕、回帰できず

 産土うぶすなは今日も見守ってくれているはずだ!次こそは必ず勝ってみせる!

 

 ––––敗北に反省し、傲慢さを改心した勇者気取り。彼はそんな語り口だった。

 

 君の情報をネットやSNSで見つけられない。

 

 ––––彼は心底落胆した。女は生きる屍だったのだ。


 あの女、食事中でもスマホを弄ってやがるのに、なんでネットに痕跡がねえんだ…

 

 ––––VPNか、どおりで見つからないはずだ。彼は想像力を働かせると、彼女の断片的な記憶を受信した。


 「秘密のアカウントで何か見ている…」どうやら課金もしているようだ。

   

 ––––彼女は攫われてしまったのだ!

 あの喜びに満ちた笑い声も、哀しみを包み込む優しさも、全て奪い取られてしまった。


 こっちを向くんだ!

 僕に気付いてくれ!

 この愛を受け取れば、君は救われる!


 ––––救いなど、無用。放っておけ。

 大きなお世話だろう。彼女はもう人間を捨てたのだ。

 

 霊魂の罵声が絡み合い、希望は暗闇に落ちて消えた。


 ––––女は我に問いかける。


 「世界の中心を自らに据え、この世に存在する、悪いことなのでしょうか?」

 

 ––––お嬢さん、かわいいことかしてくれるねぇ…


 アカシック・レコード曰く


 善悪の領域を破壊するんだ

 お前の存在がそこにあるならば

 極地は無く、永遠に広がる

 果てない真実を知るのだ


 ––––彼は拳を突き上げ、叫んだ。


 僕は勇者、君を助ける。

 この愛を君に伝える!

 ラスボスなど知ったことか!!

 

 ––––女はVTuberだった、表と裏、どちらのチャンネルも持っている。

 彼女のスマホを何度かチラ見して、手に入れた情報。

 

 チャンネル登録の後、分かったことがある。彼女は物資に対する興味はゼロ。肉体は邪魔でしかない。

 精神世界を尊び、人間の実体と死後の世界について、独自で研究している。


 僕は勇者を辞めた…

 

 ––––今の僕、アバター勇者になりにけり。

 

 ––––ねえ、ゆめまぼろしのような出会いだよね、私達って。


 ––––ああ、ゆめまぼろしさ、実世界に真実の出会いなんてないよ。


 ––––ふふふ、ありがとう♪私の勇者様♡

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古き恋慕、回帰できず 満梛 平太郎 @churyuho

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