第3話 幼馴染の弱音と、俺の決意

綾乃が家にやってきた。その疲れた表情を見て、俺は心配になったが、彼女は「大丈夫」といつも通りの笑顔を見せて、俺を安心させようとしている。でも、俺にはその笑顔がいつもと違うことがわかった。


「綾乃、ちょっと休んでいく?」


俺がそう言うと、彼女は少しだけ躊躇ったような顔をしたが、静かに頷いた。


「うん。少しだけ、話したいことがあって…」


俺たちはリビングに座り、コーヒーを飲みながら、しばらく沈黙が続いた。綾乃が何かを話したいのはわかっているけど、俺から無理に聞き出すのも良くない。そんな時、綾乃がようやく口を開いた。


「最近、家のことが大変で…お母さんの体調も良くならなくて、色々と不安なんだ」


彼女の声はいつもと違って、少しだけ震えていた。綾乃はいつも明るくて元気な子だから、こんな弱音を吐くのは珍しい。だからこそ、余計に心配になる。


「家のこと、手伝いすぎて無理してるんじゃないか?」


俺がそう言うと、綾乃はゆっくりと首を振った。


「無理はしてないよ。でも、なんだかね、自分がもっとしっかりしないといけないって思うんだ。お母さんに頼られたいし、家のことをちゃんとやらなきゃって」


彼女の言葉には、強い責任感が滲んでいた。綾乃は昔からそうだ。何でも自分で解決しようとするタイプで、誰にも弱みを見せたがらない。


「でも、それじゃ綾乃が壊れちゃうぞ」


俺が真剣に言うと、彼女は少し驚いたような顔をして、目を伏せた。


「……そうかもね。でも、悠真くんはいつも優しいから、つい頼りたくなるんだ」


綾乃の言葉に、俺は少しだけドキッとした。彼女の頼りになる存在でいたいという気持ちもあるが、今はもっと別の感情が湧いてくる。それは、彼女が俺に心を開いてくれていることへの嬉しさと同時に、彼女の苦しさをどうにかしてあげたいという思いだ。


「もし俺にできることがあれば、何でも言ってくれよ。家のことでも何でも手伝うから」


俺がそう言うと、綾乃はふっと笑った。


「ありがとう。でも、今はただ、こうやって話を聞いてくれるだけで十分なんだ。なんだか、少しだけ楽になった気がする」


彼女の笑顔は少しだけ元気を取り戻していた。それを見て、俺も少しほっとする。


「でもさ、ほんとに無理はするなよ。俺はいつでも助けるから」


「うん、わかってる。悠真くんはいつもそう言ってくれるよね。昔から」


綾乃は遠くを見るような目をして、少しだけ昔の話を思い出しているようだった。俺たちは幼馴染で、小さい頃からいつも一緒だった。そう、彼女の家族とも仲が良くて、何度も一緒に遊んだりしていたんだ。


「懐かしいなあ、あの頃。悠真くんはいつも私を助けてくれたよね。木に登って降りられなくなった時も、お化け屋敷で泣いちゃった時も」


「そんなこともあったっけ?」


俺は笑いながら答えるが、確かに綾乃は昔から少しだけ頼りないところがあった。それが今では、しっかりした頼れる子に成長している。だけど、そのしっかりさが彼女自身を追い詰めているような気もする。


「だから、今度は私が悠真くんを助ける番だと思ってるの。いつか、何かあった時にね」


綾乃は微笑みながらそう言ったが、その言葉が胸に残った。俺にできることは彼女を支えることだけど、綾乃もまた俺を助けようとしているんだ。それが、何だか少し嬉しかった。


翌日

学校に向かう途中、昨日のことを思い出していた。真琴のこと、綾乃のこと、二人とも俺に何かを打ち明けてくれた。それは嬉しいことだけど、俺はどうすれば彼女たちの力になれるのか、まだ答えが見つからない。


学校に着くと、教室に真琴の姿があった。彼女は相変わらずクールで、他のクラスメイトとあまり話さない。でも、俺が近づくと、少しだけ表情が緩んだ。


「おはよう」


「おはよう。今日は元気そうだな」


「まあ、昨日はありがとう。少しだけ気が楽になったかも」


真琴はそう言って、少しだけ微笑んだ。それを見て、俺も安心した。彼女が何か問題を抱えているのは間違いないが、少しずつでも前に進んでいるのかもしれない。


「今日は一緒に帰らないけど、また何かあったら言ってよ」


「……そうだな。でも、あんたに頼りすぎるのもどうかと思うし、たまには自分で何とかするよ」


そう言いながらも、彼女の目はどこか優しさを感じさせた。俺は彼女が少しずつ心を開いてくれていることが嬉しくて、自然と笑顔になった。


放課後

学校が終わり、俺は綾乃と一緒に帰ることにした。彼女はいつもの明るい笑顔を見せてくれていたが、昨日のことを思い出すと、まだ完全に元気ではないのかもしれないと思った。


「今日はお母さんの具合どうだった?」


「うん、ちょっとだけ良くなったみたい。少し安心したよ」


綾乃はそう言って微笑んだが、まだ完全に安心できない様子だった。


「そうか。少しずつでも良くなってるなら、きっと元気になるよ」


「うん、そうだね。ありがとう、悠真くん」


彼女は俺に感謝の言葉を伝えながらも、まだ何か言いたそうな顔をしている。


「何かあったのか?」


俺が尋ねると、綾乃は少し躊躇った後、ぽつりと呟いた。


「……なんだか、私も悠真くんに頼ってばかりで、ちょっと情けないなって思うんだ」


彼女の言葉に、俺は驚いた。綾乃がそんな風に自分を卑下するのは珍しいことだ。


「そんなことないよ。俺だって綾乃に助けてもらってるし、何かあった時はお互い様だろ?」


「そうかな……でも、なんだか私が弱いところを見せるのはちょっと恥ずかしいんだよね」


綾乃は少し照れくさそうに笑った。その笑顔が俺の心に響いた。彼女もまた、真琴と同じように悩みを抱えている。でも、それを無理に隠そうとはせず、少しずつ俺に打ち明けてくれている。


「恥ずかしがることなんてないよ。俺だっていつも完璧じゃないし、むしろお前がそんな風に弱音を吐いてくれるのは嬉しいよ」


俺の言葉に、綾乃は驚いたように目を見開いた。そして、少しだけ顔を赤くして、静かに頷いた。


「……ありがとう、悠真くん。なんだか、少しだけ楽になった気がする」


彼女の言葉に、俺も安心した。これからも俺は、彼女たちを支えるために何ができるのかを考え続けるつもりだ。

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