第2話 ツンデレの謎と幼馴染の優しさ

学校の裏庭で真琴から語られた「家に帰りたくなかった」という理由。それが頭の中でぐるぐる回っている。真琴は何か問題を抱えているのか? でも、彼女はこれ以上話したがらない雰囲気だったし、俺が深入りするのも違う気がする。


そんなことを考えながら教室に戻ると、俺の机の横に幼馴染の綾乃が座って待っていた。


「悠真くん、どこに行ってたの? 佐々木さんと一緒に出て行ったみたいだけど…」


綾乃の顔は少し心配そうだ。俺が言い訳を考える前に、彼女がすぐににっこりと笑う。


「ま、いいや。お昼一緒に食べようって思って待ってたんだけど、急ぎの用事だったのかな?」


「いや、ちょっと話があって…でも、もう大丈夫だよ」


俺は笑顔で応えながら、正直に話すべきか迷った。綾乃は真琴のことが気になっているみたいだが、今のところ特に話す内容はない。俺自身もまだ真琴のことがよく分かってないんだから。


「そっか。じゃあ、早く行こうよ。お弁当作ってきたんだ。今日はちょっと頑張ってみたんだから、味見してもらわないとね」


綾乃は楽しげに話しながら、俺の腕を引っ張るように屋上に向かう。彼女のいつも通りの優しさにほっとしつつ、俺も一緒に弁当を食べることにした。


屋上にて

屋上はいつも通り静かで、心地よい風が吹いている。昼休みにはちょうど良い場所だ。俺たちはいつもの場所に座り、綾乃が取り出した弁当を広げる。


「どうかな? 今日はお母さんに教わって、ちょっとだけ凝ってみたんだけど…」


綾乃の弁当はいつも手作りで、見た目も彩りも良い。俺は一口食べて、彼女の料理の腕前に素直に感心した。


「すごい美味しいよ、綾乃。やっぱりお前、料理うまいな」


「本当? よかったー。実はね、星野くんが美味しいって言ってくれると、なんだかすごく嬉しくなるんだ」


綾乃は照れくさそうに笑いながら、少しだけ顔を赤くしている。その様子が可愛くて、俺も少しドキッとしてしまう。


「そういえば、最近佐々木さんと話すことが多いみたいだけど…何かあったの?」


綾乃は弁当を食べながら、真琴のことを気にしているようだ。俺はその質問にどう答えるべきか悩んだ。真琴とのことを言葉でうまく説明できないし、綾乃に余計な心配をかけたくない。


「いや、別に大したことじゃないんだけど、ちょっとしたことがあってさ。でも、深刻な話じゃないから大丈夫だよ」


「そうなんだ。じゃあ、あんまり気にしなくてもいいのかな」


綾乃は少し安心したように見えたが、まだ心の奥底で何か引っかかっているような表情をしている。俺としては、できるだけ彼女に心配をかけたくない。


「綾乃はどう? 最近は何かあった?」


話題を変えるために俺は逆に彼女に質問してみた。綾乃は少し考えたあと、何か思い出したように微笑んだ。


「うーん、特に大きなことはないけど、最近家の手伝いが増えて忙しくなったかな。お母さんがちょっと体調崩しちゃって…」


「え? それ大丈夫なのか?」


「うん、そんなにひどくはないんだけどね。でも、料理とか家事を手伝うことが増えたから、少しだけ大変かも」


彼女は優しい笑顔を保ちながら話しているが、俺にはその裏に少しだけ無理をしている様子が見える。綾乃はいつも頑張り屋で、周りに心配をかけまいとするタイプだ。


「何か手伝えることがあったら言ってくれよ。俺も手伝うからさ」


「ありがとう、星野くん。でも、大丈夫だよ。これくらいなら自分でできるから」


綾乃の言葉に少し安心しながら、俺たちは弁当を食べ続けた。だが、心のどこかで俺は、綾乃にももっと助けが必要なんじゃないかと感じていた。


放課後

学校が終わり、帰り支度をしていると、真琴が俺の席に近づいてきた。今朝のこともあって、少し気まずい。


「……あのさ、今日は一緒に帰ってくれない?」


「えっ?」


突然の提案に驚いたが、真琴の顔にはいつもの強気な表情ではなく、少しだけ不安そうな影が見える。


「ちょっと話したいことがあるんだ。別に深刻な話じゃないけど、あんたしか頼めないからさ」


俺は断る理由もなく、真琴と一緒に帰ることにした。放課後の校門を出ると、彼女は無言で俺についてくる。何を話すつもりなんだろう?


「なあ、何かあったのか?」


「……昨日のことなんだけど」


やっぱり昨日のことが関係しているらしい。彼女はしばらく黙った後、ぽつりぽつりと話し始めた。


「実は、私の家、今ちょっと色々あってさ。詳しくは言いたくないけど、家に帰りたくない理由があったんだ」


真琴は言葉を選びながら話しているようだった。その様子から、彼女が本当に辛い状況にあることが伝わってきた。


「だから、あんたの家に行ったのも、ただ誰かに頼りたかっただけ。でも、迷惑だったよね。ごめん」


彼女は顔を赤らめながら、申し訳なさそうにうつむいた。


「いや、全然迷惑じゃないよ。もし本当に困ってるなら、俺が力になれることがあれば何でも言ってくれ」


俺は真琴を励ますように、できるだけ優しく言った。彼女は驚いたように俺を見上げてから、少しだけ微笑んだ。


「……あんた、意外と優しいんだな」


「まあ、普通だと思うけど」


そう言って照れくさそうに笑う俺に、真琴は小さく「ありがとう」と言った。それは普段の彼女からは想像できないほど素直な言葉だった。


自宅前

真琴と別れた後、俺は家に帰りながら彼女のことを考えていた。彼女が抱えている問題については詳しく聞けなかったが、少なくとも彼女が俺に少しだけ心を開いてくれたことは嬉しかった。


だが、それだけでは終わらなかった。家の前にたどり着いた俺は、玄関に座り込んでいる綾乃を見つけた。


「綾乃? どうしたんだ?」


「……ごめんね、急に来ちゃって」


綾乃は少し疲れた表情をしていた。いつもの明るい笑顔とは違い、今日は何か悩みを抱えているようだった。


「話したいことがあるんだ。でも、悠真くんしか頼れなくて……」


彼女もまた、俺に何かを打ち明けようとしている。真琴だけじゃなく、綾乃も何か問題を抱えているようだ。俺はそんな二人のことを思いながら、彼女の話を聞くために家に招き入れた。


これから先、俺の日常がさらに複雑で騒がしくなっていく予感がした。


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