好きな子のボディーソープになった

天然無自覚難聴系主人公

第1話 自分の身体

 ここは一体どこだ……記憶がない。なぜこんな所にいるんだ……


 辺りは暗く周りがよく見えない。どこか視界も狭い気がする。とてもぼやけた光からして今が夜ではないかという推測は立つが、記憶が無いため不安になる。


 誘拐、監禁? 身動きが全く取れない。指一本も動かす事が出来ない。まるで金縛りに合ったかのように視界だけ動かすことが出来る。


 早く家に……もう夜だから帰らないと――


 突如として世界が明るくなる。まるで夜がふっと消えたようになんの前触れも無く突然に。そして知る。今どこに居るのか。


 床のタイル、排水溝がある部屋、ここでしか見たことの無い特有の形状に椅子。そして湯気が少し漏れているバスタブ。


 そこで分かったここは風呂場だ。なぜこんな所に居るのか全く記憶が無い。前は何をしていたのかも記憶が無い。状況を理解しようと一から考える事にする。


 第一にここは誰かのふろ場である。誰のかは分からないし、なぜここに居るのかも分からない。


 第二に動くことが出来ない。聴覚はある。視覚もある。味覚は分からない。触覚は分からない。嗅覚は分からない。分からないは無いと考えていいだろう。身体はある。なんかそんな感じがする。首チョンパされた訳では無いだろう。


 少しずつ冷静に状況を把握していく。把握しても意味は分からない。


 すりガラスの向こうに影が見える。影の形からして女性だろう。彼女が自分をここに連れてきた人だろうか。その可能性は低いだろうと自分でも分かっている。


 何とか声を出そうとするが声が出ない。ここに居るという事も知らずに服を脱ぎ始めるからだ。黒いズボンが下に下がるに連れて露わとなっていく白い肌。ピンク色の下着も完全に脱ぎ捨て見える身体は完全に肌色一色。


 取っ手が動きドアが開く。


『水乃さん!? ちょっ、裸!?』


 水乃 舞依同じ学校の同じクラスの人気者。僕が恋心を抱いていた人だ。けれども僕は水乃さんとはあまり接点が無かった。同じクラスの人程度の認識しかされていないだろう。


 とうとう現実では無理だと思ったのか夢に出てきてしまったのか……


 ここまでくればもはやどういう状況か考える必要はなくなった。これは夢だ。儚くも愚かで醜い夢だ。


 とんだ変態野郎だな僕は……


 目を閉じれないのは深層意識の中でしっかりと見れるようにとでも念じているのだろう。


 こちらに手を伸ばしたかと思えばその手は通り過ぎて行く。夢の中ですら触ることも出来ない。触ったことが無いからだろうか。


 後ろから滝のような水が流れ始める。この視点だからだろうか全体的に大きく見える。


 好きなこのシャワーが拝めるとは思っていなかった。だが流石にちょっと自分に引くし、こうしていると申し訳無さからなるべく見ないようにする。


 端っこの方に立ちちょくちょく水が温まったか確かめている。シャワーからも湯気が見えだし。全身にお湯を浴び始める。見ないようにと思ってもついつい見てしまう。


『水乃さん! 僕が居ます! 全部見えちゃってます!』


 予想通り声は全く届いていない。そもそも音として出ているのかすら分からない。こうしていキャーキャー騒いでいるのに一向に気づいていない。


 一度水を止め風呂に浸かる。モロ見えだ。


「あぁ~疲れたぁ〜」


 とてもリラックスしてくつろいでいる。脇まで見えてしまっているが、まさか見られているなどと思いもしないだろう。


 一体僕は何目線なのだろうか。未だに分かっていないことが多すぎる。


 風呂から上がり椅子をイスに座る。目線の高さもあり完全に見えちゃいけないところが完全に見えている。実物を見る時が来るとは思わなかった。


 夢ならば良いだろうと半分放棄する。だからと言ってまじまじと見れるほど肝は座っていない。


 また腕が伸びて来たと思ったら通り過ぎて行く。見るだけで触ることも触られることも無いのだろう。自分の夢だと言うのに不便な世界を作ったものだ。


 近かずいてくれば胸が動きそこに一度は触れてみたいと夢に見た水乃さんのたわわな胸がある。


 髪をワシャワシャと洗う様も可愛い。マイルドに言ったが実際は可愛いで済ませて良いものではない。体に感覚があれば熱くなっていることだろう。熱いどころでもない何もしなくても漏れ出るだろう。それほど刺激的な光景にも関わらず相変わらずそんな感覚は無い。


「った……目に入った〜」


 泡まみれの手がそっと近づいてくる。泡が視界を全て塞ぐ事があったが柔らかな感触はない。泡だけなら構わないが手に触れられた時にも感触は伝わって来なかった。リアルな夢もリアルで体験したことが無ければ再現は不要なのだろう。少しの落胆が心にくる。


 シャンプーを流しコンディショナーだかリンスーだが分からないものを髪になじませていく。水乃さんの髪はサラサラしていてとても綺麗だった。テレビのコマーシャルで流れている様な綺麗な長い髪。こうして日々手入れをしているのかと感心する。すぐに洗い流さないで時間を置いているところにも驚く。


 ボディタオルを手に取り水で濡らす。髪を待っている間にやる効率の良い風呂だ。


 そっとまた手が伸びてくる。その手は視界からして僕の頭上にかざされたのだろう。そして今までに無い感覚に襲われる。


『っつ〜〜〜水乃さん? 何を!?』


 今までは無かった。体は無いと思っていた。しかし今の一瞬確かに全身に電撃が走ったような体験にした事無い感覚に襲われる。


「あっれ〜? でないな〜?」


 何度も、何度も、水乃さんの手が視界の上で上下するたびに全身に快感と言うべきか何かが溢れて来そうな感覚。自分には分かるどこまで来ているのか、もうそろそろで溢れてしまうことも。


『み、水乃さんっ……! そ、それ以上は……!』


「なんで出ないんだ〜? おかしくなっちゃったのかな?」


 大きく視界が揺れ動く。水乃さんの胸のところまで近づき視界が反転する。まるで水乃さんに軽々と持ち上げられている。そんなに軽い体はしていないはずだがどうなっているのか。そして今までの疑問は全て解ける。


 反対になり正面に来た鏡をみて理解した。そこに写っているのは不思議そうな顔をしながら一つの大手メーカーのボディーソープを手にしている水乃 舞の姿一つ。


『これが……僕……?』


「中には入ってるよね~」


 この水乃 舞の持っているものこの一本のボトルだけが体の可能性がある物体。自分の姿がはっきりとした瞬間少しの記憶が戻った。記憶と言えるのかは分からないが精神がこのボディーソープに入る時の感覚。元の身体がどうなったのかまでの記憶は戻らなかったが大きな収穫と大きな困惑。いよいよ何が起こっているのかが分からなくなってきた。


 元の位置に戻される。完全にシリアスな場面だというのにお構いなしの水乃さんに翻弄される。全く出ない苛立ちからかさっきより荒々しく激しい押しになる。


『うぅ~~っつ! そんなに、強くやられると……っ!』


 段々とこみ上げてきたものが一度の軽くなった気がした。水乃さんの手を見れば白い液体が溢れている。


「やっと出た~中身入れ替えるのは面倒だしまだ使えるよね」


 手のひらに広げ腕、首回り、胸――


 そこから先は理性が保つものではなかった。ただでさえ白くドロッとしているのだから余計にそう見えてしまう。


 お湯で洗い流し、また風呂につかる。相当リラックスしているのか鼻歌を歌いだし始めそのうち普通に声を出して歌い始める始末。ここに意識のはっきりしているクラスメイトがいるとも知らずに。


「おねーちゃん! 早く上がってよ私もお風呂入りたいんだけど!」


「ごめんて~上がるから~」


 今日から僕は好きな子のボディーソープになった。

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好きな子のボディーソープになった 天然無自覚難聴系主人公 @nakaaki3150

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