第21話 勇者パーティ、崩壊と逮捕

勇者パーティが城に戻ると

皆、疲れ切った表情をしていた。




しかし

戦いの疲労以上に

心の中で重くのしかかっているのは『勇者の証』を

魔王に渡してしまったという事実だった。






特にアイシャは

胸の奥で良心の呵責が激しく揺れ動いていた。





廊下を歩くうちに

その感情は限界に達し

ついに口を開いた。




「……バルトルス

私はもう耐えられない


このことを隠しておくなんて……」




アイシャは立ち止まり

振り返ったバルトルスに真剣な目で訴えた。




「私たちは大きな過ちを犯した


勇者の証を魔王に渡したことを

隠し通すなんて無理よ


国王に報告しなければ……」





バルトルスは苦悩の表情を浮かべたが

何も言わずに頷いた。




そして

一行は国王の前に進み出た。






玉座の前にひざまずき

バルトルスが口を開こうとしたその時

アイシャが一歩前に出て

真っ直ぐに国王の目を見つめた。





「国王陛下……私たちは

とんでもないことをしてしまいました」






アイシャの声は震えていたが

勇気を振り絞って続けた。




「バルトルスが魔王に

勇者の証を渡してしまったのです


それにより

二度と人間界に勇者は現れません……」





その言葉を聞いた国王は

一瞬驚き

目を見開いた。




沈黙が玉座の間に広がり

王の表情には動揺が浮かんでいた。




しかし

すぐに国王はその驚きを押し殺し

冷静さを取り戻した。




「……なんということだ」





国王は深くため息をつき

しばらくの間

重々しい沈黙が続いた。




しかし

やがて彼は決意を込めた声で続けた。






「この事実は

国民に伝えなければならない


隠していては

後々に大きな混乱を招くだろう


真実を知るべき時が来たのだ」






国王は玉座に戻ると

側近に向かって指示を下した。




「王国テレビの局長を呼び

直ちにこの事実を報道するよう指示せよ」






側近はすぐさま動き出し

国王の指示を遂行するために急いで部屋を後にした。




勇者パーティはその場に立ち尽くし

これから起こることを覚悟しながら

ただ静かに国王の決断を受け入れるしかなかった。




2時間後


王国テレビで速報が流され

『勇者の証』を魔王に渡してしまった

という事実が国民に伝えられた。




勇者たちは

勇者パーティの部屋でその報道を見た後

疲れがピークに達し

それぞれの部屋に戻って倒れ込むように眠りについた。




翌朝

バルトルスは目を覚ますと

勇者パーティの部屋へ向かった。




部屋に入ると

緊張した面持ちのセリーヌが彼を待っていた。




「バルトルス

大変よ……」





セリーヌの声は不安で震えていた。




バルトルスは眉をひそめた。




「どうしたんだ?」




セリーヌは深呼吸をしてから

驚きの事実を告げた。




「昨日のテレビ報道のせいで

私たちに反対する国民が出てきたの


しかも

追放した『にゅめょりと』の処遇にも反対する人々が現れているわ……」





その言葉に

バルトルスは驚きを隠せなかった。




自分たちの決断がここまで国民を分断するとは

予想もしていなかったのだ。




勇者バルトルスはセリーヌの言葉を聞くやいなや

激しく怒りを爆発させた。




「なんだと!?


俺たちに逆らうだと?


それは絶対に許さない!」





バルトルスは拳を握りしめ

声を荒げた。




「自分たち勇者パーティに反対するなんて……しかも

追放された『にゅめょりと』の味方をする国民がいるだと!?」





怒りに駆られたバルトルスは

すぐさま城の兵士たちを呼び寄せ

冷徹に命令を下した。




「いいか!

勇者パーティに逆らい

追放した『にゅめょりと』の味方をする王国民は全員逮捕しろ!

見つけ次第だ!」






兵士たちは一瞬戸惑ったものの

バルトルスの激しい怒りを前に逆らうことができず

すぐにその命令に従い始めた。




「俺たちがこの国の正義だ


逆らう者は許さない……!」





バルトルスは

自分たちが失った信頼を取り戻すため

強硬な手段を取ることを決意したのだった。





3日後

バルトルスの命令によって

『にゅめょりと』の味方をする王国民が次々と逮捕され

王国の地下牢に収容されていった。




地下牢は捕らえられた人々で満杯になり

彼らは不安と恐怖の中で震えていた。





その光景を見下ろしながら

バルトルスは激昂し

地下牢の前で声を張り上げた。





「こいつらは国家への反逆者だ!

明日

全員を公開処刑にする!」





怒りに満ちた目で彼らを睨みつけながら

バルトルスは兵士たちに命令した。




「反逆者の末路を見せつけてやる


誰も勇者パーティに逆らうことはできないと!」






勇者バルトルスの声は城内に響き渡り

兵士たちは無言のまま命令に従った。




地下牢に収容された国民たちは

明日に迫る処刑の恐怖に怯え

絶望の表情を浮かべていた。




翌日


城の広場に作られた処刑台の前には

捕まった国民たちが無言で並べられていた。




彼らの顔には恐怖と絶望が浮かび

周囲には厳重に警備する兵士たちの姿があった。




バルトルスは冷酷な表情を浮かべ

処刑台を見つめていた。





「これでお前たちの反逆は終わりだ!」




彼は処刑の開始を宣言しようとしたその時――




「やめて!」




突然の叫び声が広場に響いた。





振り返ると

アイシャが全力で駆け込んでくる姿が見えた。




彼女は涙を流しながら

処刑台に飛び乗ると

持っていた武器で一気に処刑台を破壊した。




木材が音を立てて崩れ

国民たちは驚きの表情を浮かべた。




「こんなこと

絶対に許せない!」





アイシャは泣きながらバルトルスを糾弾した。



「私たちが守るべきは国民よ!

あなたがやっていることは勇者の誇りを汚している!

もう耐えられない!」






バルトルスは一瞬驚き

怒りに拳を握りしめたが

アイシャの決意に満ちた姿を前に

言葉が出なかった。




その隣にはセリーヌも立っていた。




彼女も冷静な声でバルトルスを非難する。




「アイシャの言う通りよ

バルトルス


これは間違っている。




私たちは魔王と戦うために選ばれたのに

なぜ国民を敵に回すの?」






ガルディアスはこの混乱を恐れて

勇者パーティの部屋に閉じこもり

顔を出すことすらできなかった。




ガルディアスは事態を把握していたが

恐怖と混乱で動けなくなっていたのだ。





その時だった!



突然、広場に響き渡る足音とともに

王国の兵士たちが次々と現れ

勇者バルトルスを取り囲んだ。





バルトルスはその光景に目を見開き

状況が一変したことに気づいた。





「な、なんだこれは……?」





バルトルスは動揺を隠せず

剣に手をかけたが

周囲を完全に包囲されたことを理解すると

動くことができなかった。





広場が緊迫した空気に包まれる中

周囲のざわめきをかき分けるようにして

一人の美しい騎士がゆっくりと歩み出た。




セラフィーナの名はセラフィーナ・オルディナ



長い茶髪が風に揺れ

緑がかった瞳が冷静に勇者バルトルスを捉える。






「勇者バルトルス

これ以上の暴挙は許されない」






その声には冷たく鋭い響きがあり

広場にいた全員がセラフィーナに視線を向けた。




セラフィーナの姿は

まるで光の中に現れた天使のように凛々しく

威厳があった。






バルトルスはセラフィーナの登場に驚き

剣に手をかけるが

その鋭い目つきに一瞬躊躇した。




「セラフィーナ……なぜここにいる?」







セラフィーナはまっすぐに勇者の前に立ち

ためらうことなく命令を下した。




「国王陛下の命により

勇者バルトルスを『民衆弾圧罪』および『国家反逆罪』で逮捕する」






セラフィーナの言葉が広場に響き渡ると

兵士たちはすぐに彼女の指示に従い

バルトルスを囲んだ。






「何を言っているんだ

俺はこの国を守るために……!」






バルトルスは怒りと動揺で声を荒げたが

セラフィーナの瞳は微動だにしなかった。




「あなたが守るべきは民だ


それを忘れた時点で

あなたは勇者ではない」






セラフィーナは冷静に

しかし強い決意を込めて言葉を続けた。




「自らの行いを省みよ

そして罪を償うがいい」







バルトルスは反論する余裕もなく

兵士たちに取り押さえられ

手枷がはめられた。




セラフィーナはその様子をじっと見つめ

彼の最後の抵抗を無言で見届けた。




「これで終わりだ

バルトルス」






セラフィーナは最後に一言だけ告げ

静かにその場を去っていった。




この後


勇者バルトルスは

城の地下牢に収監された。



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俺の名前『にゅめょりと』が変だとして、勇者パーティーから追放された。魔王がすぐそこまで来てるんですが…? 宮富タマジ @tergo

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