温泉イベント-七森チユメ『あなたに、私のはじめてを』
某日――
……てるまえの湯で、設備のチェックなどをしていた時のこと。
……カラン
「………………………………」
キョロキョロと店を見渡す……
「いらっしゃ………………い?」
……マスク、サングラス、帽子
「…………ほう……ここが…………」
……を着ている、学生服の少女がやってきた。
…………え、ええと、お客さん
「如何されましたか?」
「……何か私の顔に付いているのですか?」
……その……他のお客様が驚くので……
もう少し顔が見える格好をしていただけると……
「……あ、そ、そうなのですか。規則には従わなければなりませんよね」
「…………これでどうでしょう、問題ありませんよね?」
大丈夫ですけど……
(この顔は……確か………………)
七森、チユメ?
「おや、私の顔を覚えていて下さったんですね。こんにちは客人様。先ほどまでの非礼をお許しください」
(……顔を隠していた理由は気になるけれど、何か事情があるのだろう)
そんなに堅苦しくしなくてもいいよ
ようこそ、てるまえの湯へ
「……アルカの客人様に、『ようこそ』なんて言われるのは、少々不思議な心持ちがしますね……」
温泉に入りにきたの?
「え、ええ!まあ折角の機会ですし……」
丁度良い時間に来てくれたね
丁度、お湯を張り替えたところだよ
「…………お、おお」
しかも今なら一人でゆっくりできるよ!
今、ほとんど貸し切り状態だし!
「あ、ああ。そうなのですね」
………………
………………もしかして、緊張してる?
「!……き、緊張……まあそのようなものでしょうね……」
「……お恥ずかしながら私……これまで大衆浴場という場に縁がなく……」
(お嬢様なんだろうなぁ……)
「……い、いや、ご心配頂かなくとも大丈夫ですよ。マナーなども一応ネットで調べましたし……」
「……ええと……では入浴後にまた……」
ええとチユメ……お金はある?
「へ?」
温泉って、お金を払って貰わないと入れませんよ……?
「そうなんですか!?……レ……レストランとかは後払いですのに!?」
(そこからかあ……)
(この子、本当に大丈夫……?)
「そ、それは大変失礼を働きました!!これ、入浴料金です!!」
は、はい。
これ鍵ね……
「……鍵……鍵…………?あ、ああ!着替えの!!なるほどだから先に会計を……」
「……え、ええと、今度こそ行ってきます……」
「……脱衣所はここです……よね……」
(……!?)
そこはトイレだよ!?
「…………?え?ユニットバスなのかと……」
(こ、これは…………)
(重症では………………)
本当に一人で大丈夫?
「……だ、大丈夫です…………多分…………」
(……………………)
急に私も温泉に入りたくなってきた!
一緒に入ろうか!ね、チユメちゃん!
「……!?え、ええ!!?まさかこの人変た……!」
「………………(顎に手を当てて考える)」
「あ、ああ!ごめんなさい。そういう『あれ』ですか」
「客人様にここまで気を遣って頂いて、無下にするのも失礼ですよね……」
「ここでこんな台詞もおかしいかも知れませんが……」
「……エスコート、して下さいますか?」
***
(なんとか……なんとか、チユメを湯船にまで入れることができた…………)
「ふぁ………………」
「……ふああ…………気持ちいい……」
……気に入ってくれた?
「ええ……勿論ですよ」
「……ふああ……癖になりそう…………」
「って……客人様?……入り口の方に忘れものですか?」
?
私はフロントで待ってようかなと……
「ふふふ、湯船に浸かりたいと仰ったのは、客人様ではありませんか」
……?
「一緒にお湯を楽しみませんか?……もしもお嫌でなければ、ですが」
〜〜〜
……(そして)
「…………………………」
……温泉、確かに気持ち良いねぇ……
……張りたてだからかな
……これはほんとに癖になりそう……
「ふふふ!」
「……赤の他人の誰かに裸を見せるなんて……」
「……私、ちょっとだけ正気ではないと思っていたくらいですのに……だって緊張しますでしょう?」
「でも、客人様の前だと……不思議と…………」
「……温泉って……こんなに良いものだったのですね……」
「気づけたのは、客人様のおかげです……」
そう言ってくれて嬉しい……
……けど、一番は
「……?」
チユメが勇気を出してくれたから、じゃない?
「……ふふふ。そんな、大した覚悟を決めた訳でもないのに」
「……けれど……勇気を出して、良かったと思えました」
……うん……
「…………もう少し…………二人で過ごしましょうか……」
***
……気持ちよかったねぇ……
何度入っても骨抜きにされそう……
「ふふ……同じ気持ちで嬉しいです……」
「…………(じー)」
(……あれは)
マッサージマシンが気になるの?
「……え、ええ」
「あれは、私も使えるのですか?」
うん、コインを入れれば自動で動くよ。
…………使ってみる?
(その後……チユメは温泉の設備を色々満喫して、帰路についた……)
(……その頃にはもう、あたりはすっかり暗くなっていた)
(「またいつか、一緒に入りましょうね」)
(……そんな言葉を残して)
シスターズアーク iceneco @necomura_alice
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。シスターズアークの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます