第48話

 本日の蔵之介は麗華とともに、買い物に出かけていた。


 今日は彼女の買い物をサポートするために、彼は荷物持ちとしてだけでなく、彼女を守るためのボディーガードとしても完璧な役割を果たさなければならない。


 麗華が立ち寄ったのは、上品なブティックやジュエリーショップが並ぶ高級ショッピングエリア。


 蔵之介は、その場にいるだけで緊張感を覚えるほどの上流な雰囲気に包まれていたが、彼はしっかりと落ち着きを装いながらも、麗華の後に続いた。


「蔵之介君、今日はたくさん買うわよ。荷物持ちをよろしくね」

「もちろんです、麗華さん。お任せください。彼氏ですから」

「ふふ、ありがとう」


 蔵之介は胸を張り、彼女の期待に応える。


 ブティックに入ると、彼は自然な動作でドアを開け、麗華が通る際に軽く一礼する。そして、麗華がどんな服やアクセサリーを選ぶかを見守りつつ、距離感を保ちながらも、彼氏を演じる。


「これ、どうかしら?」


 麗華が鮮やかなドレスを手に取り、蔵之介にちらりと視線を送った。


「素敵です。麗華さん。お似合いになると思います。だけど、もうすぐ秋から冬なので、シックな感じでも良いのでは?」

「あら、勉強しているのね」

「いえ、麗華さんは何を着ても似合うのは本当ですから」

「ふふ、お世辞まで上手くなったのね」

「お世辞じゃないでよ」

「はいはい」


 麗華は蔵之介との会話を楽しみながらも、次々とアイテムを選んでいく。


 蔵之介は麗華の動きを追いかけながらも、店員に荷物を引き渡し、麗華が店内を自由に動けるように配慮する。


 その姿は、まさに彼女の忠実なサポーターであり、彼女の買い物を支える完璧なパートナーだった。


 さらに、蔵之介はボディーガードとしての役割も忘れず、店内の状況を常に観察していた。もし誰かが麗華に近づきすぎれば、さりげなく位置を調整し、自然に彼女を守るための盾となる。


「他の店も見てみたいわ」


 麗華が告げると、蔵之介は素早くドアを開け、またも一礼しながら彼女を外へ誘導した。紳士的な行動はYouTubeで見たことを実践していた。


 次に向かったのはジュエリーショップ。


 高価なアクセサリーが並ぶ中、麗華が指輪を見つめると、蔵之介は即座に察し、店員にその指輪を試着させるように指示した。


「可愛い系が最近は流行っているようですよ。豪華な物もいいと思いますが、たまには気分転換も良いかもですね」

「あら、確かに可愛いわね」

「麗華さんは何をつけても似合いますね」


 彼女は満足そうに頷きながら、蔵之介のサポートを受け入れていた。

 

 蔵之介は勉強したことを、一つ一つ丁寧に思い出しながら、すべての所作を完璧に行うように心がけた。


 どんな場面でも蔵之介は麗華に決して失礼にならず、また、お店側にも配慮して、麗華が買い物を楽しむための最高の環境を提供していた。


 その後も、麗華が立ち寄る店々で蔵之介は荷物を持ち、買い物が終わるたびにスムーズに精算を済ませ、麗華が座る間にはすべての荷物を車に運ぶ段取りまで完璧にこなした。


 彼の動きはすべて流れるようで、店員からも一目置かれる存在となっていた。


「素敵な彼氏さんですね」

「でしょ」


 店員さんと楽しく話をする麗華は満足そうに顔を出していた。


 マナーを徹底し、何一つ見落とさないプロフェッショナルな姿勢を崩さない。


 買い物が一段落すると、麗華は蔵之介を振り返り、優雅に微笑んだ。


「今日は本当に助かったわ。随分と勉強したのね。私の期待以上よ」

「ありがとうございます、麗華さん。だけど、勉強したことからすればまだまだです」

「ふふ、どうしてそんなに頑張るのかしら? 偽彼氏で、しかもあなたは仕事がしたくないのでしょ?」


 蔵之介は深く一礼し、彼女の褒め言葉に感謝の気持ちを込めて応えた。


 ただ、蔵之介としては納得できていない。確かに身の回りのことはできたけど、麗華自身に対しては何も癒しを与えられていないからだ。


「だって、麗華さんが俺を必要としてくれるからですよ」

「えっ?」

「麗華さんなら、誰に声をかけてもきっと応じてくれるでしょう。だけど、俺を選んでくれている。なら、その期待に応えたいって思うじゃないですか」

「そう」


 麗華は優しく微笑んだ。ただ、内心では、今や麗華にとって欠かせない存在になりつつあることを実感していた。


 蔵之介は出会った頃よりも、見た目や態度が確実に成長を遂げている。そして努力を怠らない。


 次の店へと向かう途中、高級ブティック街の通りで、突然、奇妙な声が二人に向かってかけられた。


「おや、麗華さんじゃないか? こんなところで何をしているんだい?」


 二人が振り返ると、そこには派手なスーツに身を包んだ青年が立っていた。彼は不自然に高揚した笑みを浮かべ、麗華を見つめている。見た目からして金持ちのお坊ちゃんで、派手なブランドの服に身を包んでいたが、その態度はどこか軽薄で、嫌な感じを与えていた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

永久就職希望! 俺を養ってください! イコ @fhail

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ