第3話

 高級ホテルの一室で結城は裸で寝ていた。

 正人は軍人にしてはきれいな肌だった。だが筋肉質でマッチョと言うには細いが、それでも引き締まった筋肉質の身体で入れ墨もなく、純粋な肉体だ。魔法族とは入れ墨があるのではない。中に入れているものの。日本の魔法族は祈祷師が始まりの魔法族だ。古代の日本は占いが政治だった。弥生時代、本格的に政に祈りが入るようになると、大陸からの渡来人が仏教文化を取り入れるまで、平安の頃までは魔法族が公家として日本を永劫に収めようとしていたが、やがて同時代に奈良幕府が生まれてからは武士が政をするようになると、公家の勢力は京都に限定された。だが、奈良の方でも京都でパットしない僧侶が奈良で出世しようと移るようになると、平安と奈良は共存と言うよりも相互利用の関係で対立せずに安定していたが、本格的に対立したのはオランダ人が西洋魔法を日本に持ち込んでからはそれまで共存していた関係に亀裂が起きて、時代とともにキリスト教のせいで日本古来の魔法信仰が揺らぎ始めると、魔法を使えない魔法族が生まれるようになった。

 その非魔法族が数が増えるようになると自分たちのみが脅かされるのではないかと武装し始め、魔法族も武装するようになると西と東で対立するようになり、その結果が戊辰戦争になった。

 その戦争はまだ終わっていない。

 互いに多数の死者を出しながら複数回の和平交渉をしたものの、現代までも冷戦は続いている。

 身体には接吻痕がついている。

 正人は裸で窓の外を見ながら横浜の町並みを見ていた。

 片手にはワインがある。

 「綺麗な街だ。大阪

にもビルがあったが、この街はビルが高いし車も多い、こういう営みは好きだ」

 「正人は案外こういう街好きなんだね」

 「ああ、人が発展しているのは見ていて楽しい」

 「なら戦争やめない?」

 「いや、それとこれとでは話しが別なんだ。無論、むやみに東京を火の海にする気はない。戦争とはいっても政治だからね。成果のないまま有耶無耶に時間だけ過ぎさせるわけには行かない。必ず戦争は起きる」

 「正人でも止められないの?」

 「ああ、始祖が望むからね」

 「始祖って元は皇族だろ? 同じ皇族同士で殺し合うのか?」

 「そんなの有史以来ずっとだろ。ヨーロッパでもアジアでも、王族同士の殺し合いはどの世界でもやっている」

 そう言いながら正人は結城の頬を撫でる。

 「安心しろ、君は必ず大阪に連れて行く。安全な大阪に」

 「その後、東京に爆弾落とすんだよね」

 その言葉に正人は静かに抱きしめた。

 「すまん」

 その言葉は懺悔とも後悔とも言い難い言葉だった。

 「謝らないで、正人が本当は日本人を殺したくないのは知っているから」

 「魔法族のこと嫌い?」

 「ううん好きだよ。魔法族もそうじゃない人も正人も。君は柊として王家を護らないといけないんだよね。それが永劫の契約だから」

 「ああ、その契約はこの東京でも有効なんだ。本来なら皇居への攻撃は魔法契約で出来ないんだ。だから攻撃するのは俺の軍じゃない」

 「兵庫の軍だね」

 「ああ、彼らは魔法族じゃないが魔法軍に入っている。王に忠誠を誓った軍人だ。同じ非魔法族への攻撃に躊躇しない」

 優しい正人は苦しそうに結城を抱く。

 「殺したくない。東京の人も兵庫の軍も」

 「君は優しいね。抱いて良いんだよ。君の悲しいことも辛いことも僕が包んであげる」

 そう言いながら結城は正人を抱いた。

 彼の悲しそうな背中を結城は優しく抱く。抱きながら空虚な結城は満たされた。

 人を抱いているときが唯一満たされる。

 彼は空っぽだった。

 人の愛しからがわからない結城にとって正人に好かれることは幸福だった。例え日本人がこの戦争で皆殺しにされようとも正人が生きていれば満足だった。

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BL異世界行ったらモテモテだった @wkuht

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