第2話

 横浜駅では新型イージス艦あづまが入港している。

 そのとなりには呉の軍艦曙が入港しているがどちらも軍艦だ。片方は東京を帝都とする工業側の日本で財閥と天皇と軍が支配する魔法を使えない組織が支配する日本だが、兵庫を境にして西の方では商人を中心にした旧士族階級と公家を含んだ魔法を使える天皇家の子孫が支配している世界だ。向こうの文化は古きを良きとして新しき否する文化だ。そのふたつの日本が互いに帝都を帝都としているのは単純に天皇本家が新政府である工業国家に靡いたからで、こちらの日本では急進勢力は魔法を使えない工業側になっている。

 「スリムな船だな、あんなもので戦争に勝てるのか?」

 軍服を着た柊正人が言う。迷彩柄ではなくテレビでしか見たことがない式典用の軍服がこの世界では戦闘でも使われている。

  「使えるよ、実際あの船は僕の世界でも活躍した。イラク、アフガン、そしてロシアでも」

 「そんな後進国相手でもあのような最新の船が出張るのだから、君の居た世界とは君が言うほど発展してるとは思えないんだがな」

 結城はムッとなった。

 「そうは言うけどこの世界がまだ戦争してる時点で後進国だよ」

 「国内紛争のことか? まぁ、そうだろうな。君の居た世界では京都旅行者が多かったそうだ」

 この世界の京都はまだ魔法族の世界であり首都だ。

 そしてお隣の大阪は軍事面で重要な都市に指定され帝都からの侵攻に備えて戦闘機を常に空に飛ばしていた。とはいっても、彗星というプロペラ戦闘機でこちらから見たら太平洋戦争の異物に見えるけど、魔法族はそれを補うように魔法で地球の裏まで見通せる眼を持っているようで、こちらがミサイルで京都に撃ち込もうとも名古屋あたりで撃墜される。

 レーダーもないとされる西日本がどうやってミサイルを見えているのか疑問で、その疑問がずっと工業側の不信で、未だに戦後七十年経っても日本が戦争状態のままなんだ。

 アメリカに占領されていないのは単純にこの複雑な対立に関与したくないルーズベルトの思惑だった。

 「この世界が後進国。では、君の世界では戦争がないのかい?」

 「あるけど……それでも、こんなにミサイル打ち合うような世界ではないよ」

 「それは日本国内ではお話しだろ? 世界は飢餓と戦争の歴史だ。そんな物ほっておけば良いものを偽善ヅラで手を差し伸べるから恨みを買うんだ」

 「そうしないほうが良いってこと?」

 「そうだ、飢餓も戦争も当事者の都合だ。滅ぶべきことだ」

 「そんな考えなら日本も滅ぶね」

 「良いことだろ」

 そう言いながら正人は結城の詰め寄る。

 息がかかる距離で彼は言う。

 「負けたほうが悪いんだ。この世界はそういう世界だ。結城、この世界は常に魔法族の物だ。空も海も陸も人も食い物も酒も女も男も子供も全て魔法族のものだ。魔法族のみが選択を与えられている。それ以外は取るに足らんことだ」

 そう言いながら正人は結城の顎を上げる。

 彼の涙ボクロがきれいに見えた。

 「この国で再び戦争が起ころうと魔法族が負けることにはならんし、魔法族が負ける未来などありえん。だが、貴様が負けるというのは話が違う。お前は東京の戦火で死ぬべき人間ではない」

 そう言いながら正人は結城のまたに膝を押し付けている。海に花火が上がったが、それを見る余裕もなく結城は動揺していた。

 「俺はお前が欲しい。お前がこちらに来るのなら俺は東京侵攻を諦める。君の決断で東京の一万人の愚民が救われるんだぞ」

 その悪魔の甘言に結城は迷った。

 彼は平凡な異世界の日本出身者だし、戦争も政治も知らない人間だ。そんな人間に一万人の決断ができるわけもない。

 正人はそれを知っていて決断させた。

 彼の中で正人程度の人間に戦争の決断ができるはずがないと知っていたし、させる気もなかった。軍の責任者である彼の決断はそう甘いものではないし、そんな決断を色恋程度でさせる気もない。これはただの遊びだ。だが、そうはいいながらも結城との恋は熱がこもるというのは不思議なものだ。

 この男に高級軍人がほだされる筈がない。軍人とは色仕掛けのスパイ行為の対策で色街によく駆り出されては芸者と寝たり遊んだり賭けたりするものだし、ヤクザと喧嘩だってする。硬い硬いと言われながらも軍人と外務省の役人は多かれ少なかれ色ごとをしているものだ。それでも、男に色恋するなどどうかしていると思ったものの正人はこの凡庸な男をいじめずには居られなかった。

 可愛いものだな非魔法族とは。

 そう思いながら彼は結城に接吻をした。

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