第2話 幼馴染はマドンナ

 ――昼休み。

 食堂から教室に戻った途端、さくらが女子達に囲まれた。

 

 「ねえ、女の子になって何か困ったことがある?」

 「え? えーっと……、男子の視線が気になっていることくらいかな」

 「男子の? あっ、こっち見るな!」

 

 こっち見るなって、さくらの美しさを見るなと言いたいのか。それは絶対無理だ。だって輝いているし、とにかく可愛い。

 

 「ねえ、矢野君とつるむのやめて私達とつるもうよ」

 「嫌だよ。だって、孝一朗は俺の親友だし、何かあったときに助けてくれるんだ」

 「ふ~ん。でも、ひとりだけ特別扱いすると矢野君がいじめられるよ」

 

 何で俺がいじめの対象になるんだよ。さくらを独占しているからか。なんて程度の低い。


 「ね? 矢野君」

 「……お前ら、俺をいじめるつもりか?」

 「そんな低レベルなことはしないよ。ただ、雨宮さんを独占してほしくないだけ」

 「そう言って、さくらをおもちゃにするつもりだろ。絶対させないぞ」

 

 ばつが悪そうな顔をして舌打ちした。女子どもめ、さくらで遊ぶつもりだな。そんなことはさせん。


 「さくら、俺がいないと駄目だよな?」

 「うん、まあ」


 よし、俺達の友情は確かだ。


 「おもちゃになんてしないよ。雨宮さんはこのクラスのマドンナなんだから」

 

 は? マドンナ?

 いきなり何を言っているんだ。さくらがマドンナって……。


 「このクラスのマドンナは今から雨宮さんになりました。皆、盛大に拍手!」


 クラスメイトが一斉に拍手した。なんだ、この状況。

 

 「矢野君、雨宮さんを泣かせたら許さないからね」

 「分かっているよ」


 女子達が解散した。

 なるほど、俺を公開処刑しようとしていたわけか。その手に乗るか!


 「孝一朗。俺、マドンナになっちゃった。どうしよう」

 「どうしようって、普通にしていればいいんじゃね?」

 「そっ、そうだよな。普通に。よし!」

  

 小さくガッツポーズを取っている。可愛い奴め。


 「お? チャイムが鳴った。さくら、教科書はあるよな?」

 「あるぞ」

 「じゃあ、準備しようぜ」


 隣の席なのが唯一の救いか。さて、五限目の準備をしよう。


 「皆、席に着いて。授業を始めるよ」


 机の上に必要な教材を置き、俺は静かに授業を受けた。




                 *




 放課後になってすぐのことだった。


 「孝一朗。カフェに寄らないか?」

 「カフェ? 良いけど、何処のだよ」

 「ショッピングモールのカフェだよ。新作が出たから行こうぜ」


 言っている傍から睨んできているし。このクラスの男子超こぇ。


 「それじゃあ、行くか」


 さくらがうきうきしている。そんなに新作が飲みたいのか。まあ、可愛いから良しとしよう。


 「あっ、お母さんからだ。ちょっと待っていてくれ」

 「うん、分かった」


 小夜さんからの電話か。寄り道すると分かって電話したのかな。


 「うん、分かった。帰りは孝一朗が送ってくれるから大丈夫だよ」

 

 俺が送る前提で行くのか。いいぞ。送ってやる。


 「それじゃあ、電話切るね。もし帰りが遅くなるようなら電話するから」

 

 さくらが電話を切ってこっちを向いた。

 何だよ、その笑顔は。可愛いんだよ、くそっ。


 「さあ、行こう」

 「うん」

 

 俺達はショッピングモールのカフェに繰り出した。

 

 

 

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TSしてしまった幼馴染との華麗なる日々 月城レン @tukisiro_ren

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