第1話 幼馴染は可愛い

 一輝からメールが来た。色々手続きを済ませ、さくらという名に変えたと。

 これから女子高生として幼馴染がデビューする。俺にとっては楽しいが、本人は嫌がっている。もう少し自分の容姿を見ればいいのに。


 「さて、迎えに行くか」


 自宅から通学路に出て、さくらの家に向かう。

 外見は最高級の美少女となった一輝。色々戸惑いや困りごとがあるだろう。だが、俺という最強の味方がいるんだ。力になって支えてあげれば、楽しい学校生活が送れる筈だ。

 と言っても、一輝次第なんだけどな。


 

 ピンポーン。



 インターホンを鳴らし、名前を告げる。


 「孝一朗です。迎えに来ました」

 『孝一朗君、おはよう! ちょっと待ってね』


 さくらのお母さん、小夜さよさんが慌ただしく返事をしてくれた。


 さくらの奴、着替えに手間取っているのか。まあ、女子高生になったんだ。手間が掛かるのはしょうがない。


 「孝一朗、おまたせ」

 「おう、おはよ――――」


 玄関からさくらが出てきた。

 なんて可愛さだ。小顔で髪型はハーフアップ、真新しい制服とよく合っている。スカート丈は膝か。とにかく素晴らしい。


 「どうした?」

 「あっ、いや、おはよう」


 頬を赤らめて顔を下げている。羞恥心丸出しなの可愛い。

 

 「それじゃあ、行こうか」

 「うん」


 なんか良い香りがする。さくらの体臭か。フローラルな香りだ。


 「孝一朗、大丈夫かな?」

 「大丈夫だって。クラスメイトには事前に伝えておいたから抵抗はないと思うぞ」

 「クラスメイトに言ったのか! 転校生ってことにすれば良かったのに!」

 「それじゃあ、騙すことになるだろ。だから、事実だけを伝えたんだ」

 「……そうだよな。騙すのは駄目だよな」

 「そうだろ。だから、事実だけ伝えて受け入れてもらうことにしたんだ」


 面白半分で言っていない。その方がさくらの為になると思ったからだ。


 「もし、万が一いじめられたら?」

 「その時は俺が全力で止める」

 

 いじめなんてあってはならない。それより、さくらが女の子として過ごせるかどうかだ。

 

 「一輝も女の子になったんだから、男のときみたいな行動はするなよ」

 「分かっているよ。それに今はさくらだ。昔の名前で呼ぶな」

 「分かった。以後気を付ける」

 

 さくらが溜息を吐いた。まあ、戸惑うよな。色々と。


 「さくら、少し急ごう」

 「うん」


 俺とさくらは、少し急ぎ足で学校に向かった。

 



                    *




 ――ショートホームルームにさくらのことで少し話し合いがあった。

 でも、すぐに受け入れられ、女子としての第一歩を踏み出すことになった。俺から言わせれば、ひとまず安心だ。


 「さくら、頑張ろうな」

 「うん」


 席が変更となった。なんと、俺の隣にさくらが来たのだ。

 これで何か困りごとがあったときに対処しやすくなった。担任の西川先生には感謝したい。 


 「では、今日も一日頑張りましょう」


 一限目は世界史か。一応、他の先生にも話は通したけど、大丈夫かな。少し心配だ。


 「孝一朗、大丈夫だって」

 「そっ、そうだな」


 世界史の先生が教壇に上がった。

 ん? 一瞬、さくらを見たような……。


 「では、授業を始める。教科書二十五ページを開いて」


 何だ。どんな風に変わったのか確認しただけか。

 まあ、その方が助かる。


 「孝一朗、ごめん。教科書見せて」

 「マジかよ。じゃあ、机をくっつけようぜ」


 このシチュエーション、アニメでよく見る。まさか、実際することになるとは。

 それより、さくらの女子高生フェロモンが俺の理性を狂わせようとしている。って、俺は変態か!


 「ごめんな」

 「気にするな。それより、教科書見えるか?」

 「大丈夫だよ」


 俺のテンションがおかしいのは全てさくらのせいだ。これから先、大丈夫か分からないけど、やるしかない。

 よし、昼休みまで耐え抜くぞ。


 「孝一朗、頑張ろうな」

 「うん」


 さくらを守り抜く。親友として頑張ろう。


 

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