第3話

 さてさて、その後のお話。


 エリノアの歌によって昏倒こんとう――もとい、仲良く眠ってしまったミカルとラウラ、ミカル派の王侯貴族たちはクラウディオ派によって捕らえられた。ただ、ほとんどの者たちは特におとがめもなくそれぞれの屋敷に帰された。

 というのも、その〝ほとんどの者たち〟がエリノアの歌の攻撃力――もとい、実力を認めたからだ。フリーリア国の王侯貴族たちは強者に従う。本気を出せば一瞬にして多くの兵士を昏倒させられるエリノアの歌の実力を認めたのだろう。

 歌姫の歌とエリノアの歌。方向性こそ違えど次期王妃として、国防の担い手として申し分ないと判断されたのだろう。


 首謀者であるミカルはしばらくの間、自室に監禁されていたがエリノアとラウラの説得によりクラウディオと和解。今では以前と同様に――いや、以前よりもずっと精力的にクラウディオを補佐している。

 ただ、筋肉ゴリラな容姿についてはいまだに拒否反応が出るらしく、クラウディオの前に立つときは半目か白目になっている。


 クラウディオとの和解に尽力する姿を見てか、同じ推しを推す者同士だからか。エリノアともそこそこ仲良くやっている。

 ただ、見解の相違により時々……いや、そこそこの頻度で舌戦を繰り広げてはいるが。


 ラウラは心に秘めていた恋を成就させ、ミカルの婚約者の座に就いた。

 クラウディオとエリノアの悲願である近隣諸国との和平が来年の春には結ばれる。交渉とは名ばかりの各国代表者一名による拳と拳の話し合いだったが、最後にはガッツリ握手をして和平が結ばれる運びとなったのだから万事問題なしだ。

 和平が結ばれて落ち着いたら次はミカルとラウラの結婚式が執り行われることだろう。


 そして、クラウディオとエリノアはと言えば――。


「……!?」


 上の階から漏れ聞こえる歌声に新人メイドは自身の肩を抱いてぶるりと震えた。真上にあるのは昨年の春にフリーリア国の王と王妃になったクラウディオとエリノアの部屋だ。


「あなた、今日が初めてだったかしら。これが噂の……アレよ」


「な、なるほど。これが噂の……」


 言葉をにごす教育係の目配せに新人メイドは深々とうなずいて理解している旨を示した。王城に勤めようという者でエリノアの歌声があれでどれでそれなことを知らない者はいない。


「陛下が部屋にお戻りになったら陛下と王妃様の寝室がある階には上がらないようになさい。王妃様は機嫌が良いと鼻歌を歌うのだけれど、陛下といっしょにいる時の王妃様は大抵、ものすごーーーく機嫌が良いから」


 漏れ聞こえてくるだけでも背筋がぞわぞわするほどにあれでどれでそれな音痴だけれど、実に幸せそうな歌声に天井をもう一度、見上げた後、教育係と新人のメイドは顔を見合わせた。


「夫が帰ってきて機嫌がいいのなんて新婚のうちだけよ。一年もすれば聞こえなくなるわ」


「そういう夢のないことを言わないでくださいよぉ」


 苦笑いでそんなことを言う教育係の予想を裏切り、王は末永く筋肉ゴリラで、王妃は末永く、末永ーーーくとんでも音痴だけれど上機嫌な鼻歌を披露し続けたのだった。

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音痴を理由に婚約破棄されました。~ところで、あなたと婚約した記憶がないのですが?~ 夕藤さわな @sawana

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