「話は簡単だ。強みである英語と強気な女をこの文体で書いたらいいんだ」
「それ――本気で言っているの?」
「もちろん本気だよ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
「あなたがそう言ってくれて私嬉しいの。本当よ。でもそれはできないのよ」
「どうして?」
「それはいけないことだからよ。それは―――正しくないことだからよ」
「どんな風に正しくないんだろう?」
「だって、誰かの文体を永遠に真似し続けるなんて、そんなこと不可能だからよ。ねえ、もしよ、もし私がハルキ文体で良い作品が書けたとするわよね。二作目はどの作品を参考にしようかと考えてしまうわ。私は死ぬまでハルキにくっついてまわってるの? ねえ、そんなの対等じゃないじゃない。それでは私の抱えている向上心を満たしたりはしないわ」
「これが一生続くわけじゃないんだ。いつか終わる。終わったところでもう一度考え直せばいい。これからどうしようかってね。僕らはハルキの本を睨んで生きてるわけじゃない。どうしてそんなに固く物事を考えるんだよ? ねえ、もっと肩の力を抜きなよ」
「どうしてそんなことを言うの?」
「……とても面白かったんだ。普段と違う、俯瞰したシーンの書き方。暴力的な比喩。異国人の吐息が入り混じった濁った空気。体温の低い主人公。何もかもが僕が見てきた君の作品とは違った。いつもの日本の湿った距離感じゃなく、熱く乾いた砂漠の砂を感じたよ。君はもしかしたら、そういう作品も書いてみたいんじゃないのかい?」
僕はそう思った。