魔女は病院で子どもを睨みつけない
マジックポケットから取り出したポーションを受付に渡し、精算をお願いする。
「どうぞ、25万8千円です。いつも納品ありがとうね」
「いえいえこちらこそ。いつも依頼ありがとうございます。今後とも宜しくお願いしますね」
「ところで…そちらの方は、お弟子さん?」
受付の方は後輩に指を差す。
「師弟関係というよりは友人に近いですかね。力はあるんですけど、遠くから来た子で。こっちのことは勉強中なんです」
「まあ、そうなんですね。なんていうか…お人形さんみたいで可愛らしい方ですね」
まあ確かに見てくれは良いだろうな見てくれは。肌も髪も綺麗な白で、キラキラとした宝石のようなルビーの瞳。いくら着ている服が私のお下がりの魔女のローブと帽子でも、見てくれだけは良い。
だがこいつが来てから私の家では日用品や魔術道具を何回も壊しているのだ。
そのおかげで今月は出費が嵩んでいる。
「汐音、あれはなに?」
「エアコン」
「エアコン?」
「空気を涼しくする機械。うちには置く余裕ないから諦めなさい」
「あはは…相変わらずあんまり稼げてないのね。大丈夫?」
「この病院が私のポーション買わなくなったら流石に廃業せざるを得ませんかね…」
苦笑いをしながら、どこかに行こうとする後輩の手を強く握って静止する。
「次は何?」
「汐音、汐音。パンを買おう。あんぱんが食べたい」
「はいは──うわっ!?」
「やーい! 魔女ー!」
クソガキというのはどんなところにもいる。昔も今も変わらない。
まあ私は魔女ですから。心に余裕のある魔女ですから。別になんとも──
「悔しかったらここまでおい──ひっ…!」
「…………」
私はなんともなかったが、後輩は駄目だったみたい。
基本的に無表情なことが多い後輩が全力でクソガキを睨みつけている。
「やめろ」
「でも」
「だめ」
「力は使ってない」
「夜ご飯抜き」
「ごめんなさい」
しょぼんとした顔になる後輩を連れて、恐怖で震えるクソガキを放っておいて逃げるように病院を抜け出した。
私の経験上、昔と違って今のクソガキの親はモンペが多いのだ。さっさと逃げねば。
小話:後輩は食べ物戦争を理解しない
「ルーラン、お前はこしあんとつぶあん、どっちが好きだ?」
「どっちも美味しい店は美味しいし、美味しくない店は美味しくないよ」
「じゃあチョコ菓子はどれが好きだ?」
「どれも美味しい」
「こいつでもか」
「……チョコレート硬貨は苦いからいや」
私の後輩が言うことをきかない EnieLa @wawawo
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