私の後輩が言うことをきかない

EnieLa

魔女はザリガニなんか飼わない

「これ、あげる」


 そういった後輩の手にあるのはザリガニ。

 直ぐ近くにある川で拾ったんだろうそれは、後輩の強い力で左右から挟まれており、ちょっとぐったりしている。


 これが小学生同士だったなら、「わーうれしいー!」とか、「お母さんに飼ってもいいかきく!」みたいな会話があったんだろうが。


 私達……否、私は魔女である。

 そして後輩も曲りなりには(認めたくないが)魔女を名乗っている。

 私─というより魔女はザリガニを飼わないし、錬金術的な生贄としての価値も低い。


「いらないよ」


「そう……」


 ちょっとしょぼんとした顔で、ザリガニをぽいっと捨てる後輩。そんな顔してもいらんものはいらん。

 因みにザリガニはもはや動いていなかった。


「あ、ちょうちょ」


「こら待て」


 顔を上げ、今度は蝶を追いかけ始める。

 こいつ私達が何しに来たのか忘れてんのか。


 私達は普段住んでいる森から離れ、お金を稼ぐために街に来ている。

 森に住む魔女…いかにも魔女らしいが、それでも仕事はしなきゃ金は手に入らないし、お金がなければ飯が食えない。


 魔法を使える人間が減り、昔の魔女に比べて近年の魔女の魔法はあまり強くない。

 そのため、魔法を捨てて科学に進んだ現代では大昔と違って、「魔法でないと出来ないこと」が少ない。すなわち、魔法の価値はあまり高くない…が、完全にないわけでもない。


 今回街に来たのはポーションの納品のため。

 ポーションは確かに瞬時に飲用した者を回復させるが、代わりに寿命を減らすという代償がある。そのため現代の進んだ医学でも救えない症状や、それこそ呪いの類にしか基本的に使われない。

 けれどポーションは材料が貴重なのでその分、いつもやってるちまちまとした仕事より実入りが良いのだ。


 因みに後輩を連れてきたのは家に放置しておくと何をしでかすかわからないためである。


「わー」


「さっさと行くよ」


 後輩の首根っこを掴んで私は依頼主の元へ向かった。


 †††


汐音しおね。あれはなに?」


「犬。リード持ってる女の人のペットだから触っちゃだめだよ」


「じゃああれは?」


「パン屋さん。欲しいなら帰りに買ってあげるよ」


「私達が見られてるのはなんで?」


「魔女が珍しいんでしょ」


 科学が進んだ現代じゃ、魔法みたいな金以外での代償付きの恩恵は非常時でもなかったら喜ばれないから、魔女は儲からない。だから魔女は少ない。

 実際、幼馴染の魔女は既に立派な会社員になって私より稼いでいる。


「ママみてー! おててつないでる!」


「あらあら、仲良しさんね」


「汐音、仲良し。えへへ…」


 喜んでるなら何より。

 と、そうこうしている間に病院についた。


「良いか、ルーラン。病院の中では絶対に騒ぎを起こすなよ」


「うん」


「絶対だ。まず他の人にお前の力は見せるな」


「それはどうして?」


「魔法を使うには非常事態を除いて許可がいるんだ。そもそもお前の力は魔法じゃないが、魔力がわからない常人にとっては魔法と一緒…つまり、お前が此処でそれを使ったら、警察に捕まる」


「捕まるとどうなるの?」


「私と離れ離れになる」


「それは嫌だ」


「だからお前の力は使っちゃいけない。わかったな?」


「うん。わかった」


 後輩はどういうわけか私に懐いている。厳しく言い聞かせておけば、そのことは守ってくれる。

 ……覚えている限りは。


 ちょっと不安に思いながらも、私たちは病院の中に入った。

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