第3話 京都歴史研究部 略して京研(みやこけん) 1
前回のあらすじ:鴨川を訪れたわたしは鴨川の中で座禅を組んでいる女性と出会う。女性から鴨川についてとても多くのことを聞いたわたしは感動しながらも重要なことをわすれかけていた。
女性のジャージのポケットから、からんと石の上に何かが落ちた。
それは、筆ペンと筆ペンで鳥の絵が描かれた短冊だった。
「そうです! 結局、ここで何をしていたんですか?」
あまりの話の長さに忘れかけていたことに気づく。
「何って? チュウサギを描いていたんだよ。部活のために、最初は歌でも詠もうかと思ってインスピレーションをわかすために、川で座禅を組みながら考えていたんだけど一向に思いつかなくてな。そのとき、チュウサギがきたからよし描こうってなったんだ。いや~、筆ペンで描くのは難しかったけど輪郭がきれいに出来てると思わないか?」
そうしてその短冊をグイグイとこちらに向けてくる。
「えっと、つまり、川のくだり要らなかったって言うことですよね。あんなに『まあ、待て』みたいな感じだったのに。というか、チュウサギって、普通鴨川なんだからカモを描くべきなのでは?なんか詐欺に遭った気分です」
目の前の女性はやれやれ、といった表情で手を上げる
「分かってないな、君。チュウサギは春になってから渡ってくる鳥なんだ。そしてカモは春になると日本を去ってしまう種が多い。そのため、春の今、暗唱するならチュウサギなんだよ。にしても鴨川でカモ、チュウサギで詐欺とは、フフ」
女性は口元に手を当てツボにはまったように笑う。
「そこは笑わないでください。恥ずかしくなってきました。あと、茶化さないで答えてくださいよ!鳥のことはとりあえず納得したことにします。でも川のくだりはいらなかったんじゃないですか?」
女性はツボにはまっている状態から急に真面目な表情になった。
「そうだな。いらなかったかもしれんな。でも、それだけではわたしがなぜここでそれをしていたのかという意味が分からないんだ。誰かと共有したかったんだ。ここから見える景色は努力のたまものであることを。そしてそれを知っているか、知らないかで風景がまるで違う意味を持つということを。回りくどく話して時間を無駄にさせてしまったな、すまない」
そしてわたしに向けて頭を下げる。
女性の行動に一瞬驚きながら、そこまでさせてしまったことにこちらが申し訳なく感じる。
「そのっ、そこまで怒ってるわけではないんです。頭を上げてください。話はとても面白かったです。こちらこそ、きつく当たってすみません」
「そうか、そういってもらえると助かる。」
女性はそうやって右手を出してきた。きっと仲直りの握手なんだろう。ほんの少しのことだったのに、変なひとだなぁと思いながら、手を握った。でも手を握っているとなんだかおかしくなって笑みがこぼれていた。
「そういえば、名前を聞いてませんでした。わたしは
わたしがそう聞くと、相手は自分の名前をいっていたつもりだったのか一瞬、目を丸くした後、さわやかな笑顔になって
「わたしは
「はいっ、すず先輩! これから、よろしくお願いします!」
「ああ、よろしく。ではいこう! 君と話しているのが楽しくて思っていた以上に時間がかかってしまった。走って行かないと入学式に遅れてしまうぞ!」
そういって女性、いや、すず先輩は飛び石を軽々と渡って、あっという間に対岸へ到着する。
それからすず先輩に追いついて学校のことについて聞いているとあっという間に学校に着いていた。そしてすず先輩とはそこで別れ、入学式が開かれる体育館へと向かう。
高校生活初日の朝から、こんな出会いがあるなんて思っても無かった。
ちょっと、というよりも大分変わった先輩だったけれど、話していてとても面白かった。また会えたら良いなぁ。そしてこれからの高校生活、どんな人達に出会うんだろう。すごく楽しみだ!
***
「よし。新入部員一人、ゲットだ!」
視線の先にいる少女はまだ狙われ始めたことに気づいていなかった。
京研(京都歴史研究部) 夢見 @syouyumemiru
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