第一〇話(最終話)『ドキドキ靴飛ばし』

——戦いの後。


 舞央爽馬が駆る白馬の三本角トライコーンから放たれた白き閃光により、ヨンマル連邦チクプレ・キタイワ海洋軍は全滅した。ヤワラカ国に圧倒的優位の停戦協定が結ばれ、ヨンマル連邦の本土上陸は、阻止された。


 そして今、なぜか……


 舞央仁が、うちの庭にいる。


 しかもさっきからずっとわたしの震天冷嵐の靴シンデレラ・シューズ一足をで回しているのが相当キショいが、最後にそれを履いたのはアンタの親父さんだってことを承知しているのかしら?


「東雲さん。君には、二十四時を過ぎると、国防のために震天冷嵐シンデレラに変身しなければならないという魔法がかけられている! 僕はその魔法を解きたいんだ! ダメかな?」

 さっきから、同じ質問を飽きずに何度も何度も浴びせてくる。そろそろウザい。

「だから言ってるでしょう? 次の震天冷嵐シンデレラに靴を継承するまでは、わたしはこの使命からは逃れられないの!」

 いっそテメーが継承するか? まぁ貧弱男には無理だろうがよぉ!! あ、つい。

「わかったぞ! なら、あれをしよう! せっかく靴があるんだし!」

「あれ、って何?」

「『明日天気になあれ』だよ。子供の時に、よくやらなかったかい? 靴をコインに見立てて飛ばして、明日の天気を占うんだ。表なら晴れ、裏なら雨ってやつ」

「まぁ、それは知ってるけど、わたしの震天冷嵐シンデレラの使命と、どう関連づけたいわけ?」

「表なら、東雲さん、君の好きにするといいさ。震天冷嵐シンデレラを続ければ、親父は喜ぶだろう。でも裏が出たら、君は一人でこの国の国防を担うことをやめる。そして……」

「何、続きがあるの?」

 ちょっと、嫌な予感がする。

「もちろん。そして、僕と一緒になる!」

 ちょっ、おまっ……

「はあっ!? どういう意味よ、それ!!」

「問答無用、いくぞっ! あーした天気になーれ!!」


 靴が宙を舞う。


 投げられたのは、左足の、馬の臀部の革コードバンの方だ。


 表ならそのまま震天冷嵐シンデレラを続ける。

 裏なら、裏なら…………


 靴が、地を跳ねる。


 結果は……


 横倒し。


 裏じゃ、なかった。


「横倒し……そうか、そのパターンもあるのを忘れてたよ。どうする? 右の靴で、もう一回やる?」


 もう一回。ひょっとすると、裏が出て、一緒になれるかもしれない。でももう一回やって、表が出たら、嫌。それなら……


 わたしは、両手をグーにして、舞央仁の目の前に突き出す。


「ねぇ。右と左、どっちがいい?」

 

 そう尋ねるのだが、もちろん、中に何か入っているわけではない。


 さぁ、どっち?


「なになに? とにかく選べって感じ? うーん、じゃあ、左かな」


 左、か。そんな気がしてた。


「あなたの足のサイズ、二十六センチだったわよね?」


「そうだけど……どういうことかな?」


「これ、あげるわ」


 わたしは、左の靴、馬の臀部の革コードバンを拾い上げ、差し出す。


「ええっ? ひょっとしてこれを……僕が、履くのかい??」


「そうよ。これから東雲ゆららと舞央仁は、二人三脚で国防を担うのよ……」


 やっと素直になれた。


 わたしは彼に、そっと身を寄せる。


 彼の腕が、わたしを、背中から、そっと包む。


 今まで、冷たくしてごめんなさい。


 でも、全部、あなたへの気持ちの裏返しだった。


 白馬の王子あなたはいつも、わたしの水晶のように純粋な心臓ハートを、ドキドキと拍動パルスさせる。

 

 このドキドキは、クォーツ時計のように、一度動き出したら……止まらないのよ。


  〈完〉

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震天冷嵐の靴〜シンデレラ・シューズ〜 加賀倉 創作【書く精】 @sousakukagakura

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