2.篠崎先輩

第3話

「はよっす」

「おはようよっちゃん」


 翌朝、初音は幼馴染の田倉たくらようと地元の駅前で落ち合った。

 結局昨日は、昇降口まで先輩らしき彼に連れて行ってもらい、その後ひとりで瑶と合流、迷子迷子と馬鹿にされながらふたりで帰った。


 瑶と並んで満員の電車に乗り込む。初音と瑶は小学生から同じ学校で、高校も偶然同じ、家も近所でほとんど毎日一緒にいた。初音にとって瑶は唯一無二の親友だった。


「初日から迷子の人」

「よっちゃんいい加減うるさいな」

「でもなんかイケメンの先輩に会えたんだろ?」

「そう!そうなの!」

「いや初音の方がうるせえよ」


 各停で五つ先の駅で降りる。ふたりで小競り合いをしながら同じ制服の波に乗って改札へと向かう。初音は瑶のすぐ後に続こうと改札機に真新しいICカードをかざす。しかしその途端、ピンポンと不穏な音がして初音の目の前でバーが進路を塞いだ。

 うわ、ひっかかった。

 阻まれた歩み。突き進むつもり満々だった初音はバランスを崩し、体の軸が嫌な方向に傾いでいくのを瞬時に察した。

 まずい、倒れる。


「う、わ、危ないって」

「あ、すみません!」

「……え、また君なの」


 尻餅寸前、真後ろにいた人が初音の肩を受け止め、どうにか派手な転び方は避けられた。迷惑そうな声が背中から聞こえて、慌てて振り向いた初音の瞳に映ったのは。


「ええ!また先輩ですか!」

「はぁ、声でっか」


 昨日迷子を助けてくれた、あのモデルのような先輩だった。

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先輩、恋してください。 汐野ちより @treasurestories

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