42.明日
その後、クリスタルのモヤは全て消えた。そして、誰も避難しなくてよいままクリスタルは壊された。
アスは、殆どの悪意を封印していた。男が代わりに封印したのは、少しだけ。それでも男の体は耐えられなかったそうだが、本来であればアスの体も耐えられなかったはずだった。
ギリギリの所で、アスの器は耐えられるレベルに成長した。その理由はなんとなくわかるけれども、恥ずかしくて言えなかった。
新しく魔物が生まれなくなった世界で、アスの作った柵で国を守りながら、騎士団を中心に少しずつ魔物を殲滅している。アスはそれを手伝いながら、忙しくも穏やかな日々が続いていた。
そして、今は城ではなく、ダンの家に戻っていた。17年暮らしてきた家は、なんだかんだ安心する。
「城じゃなくていいのかよ。向こうじゃ豪勢な飯に、周りが何でもしてくれんだろ?」
「俺には向いてないよ。それに、ここの方が安心するし」
アスがそう言えばダンは、そうかと小さく呟いて、自分の仕事へと戻っていった。それがダンの照れ隠しなのだと、ようやく理解できるようになってきた。それを周りに言えば、アスはダンに似たのかと言われ、少々不服だったけれども。
「アスー!!」
自分の部屋のベッドで横になっていると、空間が裂け、リア達がやってくる。
「一緒に飯でも食わないか?」
「騎士団のやつらにうめえ店教えてもらったんだ!」
一気に部屋は賑やかになり、休むどころではなくなっていた。アスがダンの所に行くと、アスはヒラヒラと手を降った。
「楽しんで行ってこい」
「まだ何も……」
「あんなに騒いでたら聞こえとるわ」
そう言いながらもこっちを向こうとしないダンを見て、アスはフッと笑う。
「本当に行ってもいいの?」
「どういう意味だ」
「いや、一人でご飯はダンが寂しいと思ってさ」
そうアスが言えば、ダンは笑いながらこっちを向く。
「バカ言え! それに、おまえはどうせここに帰ってくるだろ!」
「そうだね! 絶対に帰ってくるよ」
昔は、早く独り立ちしたくて仕方がなかった。ダンに早く迷惑かけない人間になりたかった。
でも、今はダンの言葉に、心から頷くことができる。きっとダンも、それは伝わっているだろう。
アスはダンに手を振って、皆のところにかけていった。
「それにしても、だいぶ魔物は減ったよな」
「ああ! 俺の村も被害が減って皆安心してるぜ!」
「ストの村とこの国を繋げようって話も出てるんだよね! 川に沿って森を切り開いて、そこを開発していくって!」
「ああ! チルアもこの国の菓子が気軽に食べれるようになったらいいなって楽しみにしてたぜ!」
「あはは。またお菓子沢山お土産に持っていこうね」
四人が集まっても、いつもの、いや、前より幸せな会話で溢れていた。
「ちなみに、俺、村とこの国を繋げようって話で、なんだっけ? とにかく重要な役割のやつにならないかって言われたんだぜ! この国で使える金も沢山貰えるんだってさ!」
「おお、ストにピッタリじゃないか」
「何より、村を良くしていけるってのが楽しみだぜ!」
ストが、目をキラキラさせながら言った。
「私も、今回のおかげで騎士団の副団長にならないかと打診されているんだ」
「いいじゃん。ロイ、教えるの上手かったもんね」
「アスにそう言ってもらえると嬉しいな。色んな人達の個性を活かした騎士団を作っていきたいと思ってるんだ」
ロイも、希望で溢れた笑顔で笑った。
「私もね! 今ミレちゃんと神の国に行って、色々と教えてもらってるんだ! お父様とも一緒に、これからの神の国との関わり方を考えてるの!」
「元は同じ人間だもんな! 仲良く暮らしたいぜ」
「うん! それに、この世界には私達の国みたいは感じで、国がいくつかあるんだって! そこ含めて、これからのこと考えていければいいなって! って、アイデアは全然無いんだけどね!」
そう言いながらも、リアは楽しそうにこれからの事を話していた。そうして、皆の視線はアスの方を向く。
「アスは? アスは何かやりたいことないの?」
「いや、俺は特に……」
リアからの真っ直ぐな質問に、アスはいつものように適当に誤魔化そうとして、そしてハッとする。
「そうか……。俺、もう未来のこと考えてもいいんだ」
「考えたことなかったのか?」
「うん。だって、悲しくなるだけじゃん」
アスの言葉に、リアも頷く。
「わかるよ。私も他の人の未来の話聞くたびに悲しくなってた。まあ、それでも20歳までにやりたい事沢山あったから、それが膨らんだだけなんだけどね!」
「あはは。リアは凄いなあ。皆みたいに、何か目標でも持てたらいいんだけど」
その言葉に、ストはアスの背中をバンと叩いた。
「それなら、アスのやりたい事は、やりたい事を探す事だな!」
「やりたい事を探す事が、俺のやりたい事……。そうだね。そうかもしれない」
そう言いながらも、目標がふわふわとしすぎていて、何をすれば良いのかわからなかった。
「うーん。具体的には何すればいいんだろ」
「色んな人と会ったり、色んなところを見てもいいのではないか? 何かヒントになるかもしれんしな」
「それなら、私と一緒に来ない!? 今度ミレちゃんと、色んな国に実際に行ってみようってなってるんだ!」
「えっ、いいの!?」
「多分! 明日ミレちゃんに聞いてみるね!」
「あはは。楽しみだな」
自分が何をしたいのかはわからない。10年後、20年後、何をしているのか想像もつかない。
けれどもこんなにも、明日にワクワクしたのは初めてだ。そんな今日が、どうしようもなく幸せだ。
命を代償に世界を救えと最強の力を与えられた少年は、死ぬなんてなんてことないと笑顔で嘘を付く 夢見戸イル @yumemito_iru
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