第5話 イレギュラー

俺はフィールドへと足を踏み入れた。ボスの部屋の真ん中に堂々と佇まうその姿は、まるで王のような勇ましさ、そして神のような美しさがあった。体つきも筋肉質で、意外と細身だ。しかも顔立ちもいい、ハイスペックイケメンだ、畜生。俺は棒を片手に刀を持つ鬼の神と対決するらしい。

「強そうな刀だよな、、」

そうつぶやくと、鬼はハッと振り返り、戦闘態勢に入った。

「うげ、黙ってればよかった」

後悔しても遅い。俺もすぐさま戦闘態勢に入り、上からの切り付けの攻撃を防御した。筋力が上がったせいか、防御も容易い。腹部には俺の刺した剣の刃が刺さったままだった。

「い、痛くっ、ねぇんかよっ、、」

若干押され始めていた俺は、攻撃を下へ受け流し、頭への攻撃を狙う。軽く躱され、カウンターを避けるために距離をとる。鬼はむくっと体を起こし、構えをつくった。俺は頭への攻撃を狙い、隙が見えた時、腹部の剣に攻撃を叩き込むつもりだ。

フゥーッ、フゥーッ

息を整え、俺は飛びかかり頭へ攻撃を叩き込む。

〖加護発動〗

という音声とともに、俺は腕への違和感を感じた。

ムキッ、モリモリッ、ピキッ

「んぇ」

両腕がパンパンに膨れ上がり、ポディビルダーでも作れないような歪な腕が出来上がっていた。そのままの勢いで鬼に攻撃を叩き込み、鬼は刀で防御をした。

ピキッピキッ、バキャッ

鬼の刀は力技の攻撃に耐えられず、折れてしまった。そのまま勢い衰えず、鬼の頭を撫でるように叩きつけた。案の定鬼の頭はものすごい勢いで地面に叩きつけられ、そのままめり込んでしまった。

「え」

何が何だか分からない俺は、モリモリの腕を見て自分でも引いてしまった。そしてこのゲームの本質を忘れてしまっていた。ここはほとんど現実の自分を動かすゲーム、違和感しかない腕には現実の感覚はなく、化け物と化していた。唖然としていると、鬼はむくっと起き上がり、血まみれの頭を抑えながらフラフラしている。、、もっかい叩いとくか。

〖加護発動時間が終了しました。加護が消滅します。〗

今、加護が消滅って言ったか、、?

「こ、殺す、お前だけは絶対に、、!!妹のが元の姿に戻れるまで、、私は生き続ける、、!!」

おおっと?同情を買おうとしてるな?まあ、俺にはその同情が効いちゃって、鬼から角の生えた頭突きを凄い勢いで鼻にもろに食らった。すげぇ痛ぇし、まともに立ってられなかった。その怯みに鬼はまた飛び込んできた。

スルッ

暴走してた方が受け流しやすかった。鬼が壁に突進して行った。しばらくして意識もはっきりしてきた。また壁から襲いかかってきたので、前に出ている腕を上に弾き上げ、伸び上がった鬼の腹部にある剣の刃に棒を振り切った。

サンッ

加護がなくても勢いを使って叩きつけたことによって軽く腹部が切れ、体が半分になった。

「おい、お前、妹はどうしたんだ」

興味本位で聞いてみた。

「ここ、にいる。」

「ここって、どこだよ」

〖鬼神:魔羅 は許可を求めています。受理しますか?〗

なんの許可だ?

〖『はい』『いいえ』〗

わからんが、はいだ。

〖鬼神:魔羅 妹『橋姫』の魂があなたに帰属します〗

すうっと現れた黒髪の浴衣姿の可愛らしい女性は鬼の前ですすり泣いている。

「はし、お前はこの男について行け。きっとお前を救ってくれるはずだ。」

『はし』って呼んでるのか。可愛いな。

「嫌よ!兄者を殺したやつなんて!」

まあそりゃそうだよな。てかなんて言ってた?俺について行け?そういや、魂が帰属したって言ってたな、その許可だったのか。普通に嫌なんだけど、どうしてくれんの。

「おい鬼、何してくれてんねん」

「頼んだぞ、暗黒騎士。」

「な、なんでこのアカウントのニックネーム知ってんだよクソ!」

このゲーム、1度決めたニックネームはずっと変えられない。フレンド登録しないと名前の表示はされないはずだったのに。俺の厨二病時代の黒歴史の一つだ。

「やだ、そんな、そんな、、!」

鬼の体はデータとして分解されて消えていく。妹に悲しい顔を見せまいと、笑顔を取り繕ったまま。

〖業績:神を打ち倒し者〗

〖業績:霊魂との調和〗

「な、なぁ、橋姫、さん?お兄さんのことは残念だったが、悪かったよ、俺も殺されそ、、」「黙れ。今更謝ったって遅い。私はあんたについて行く以外に道は無い。」

「は、はぁ、」

色々あったものの、ボスを倒すことが出来たので俺はゲートをくぐり、ダンジョンを抜けた。

それから俺は今回の動画を投稿してみることにした。ボスの部屋の変化、鬼の加護、3つの業績、霊魂の帰属など、気になることはたくさんあるが、1番気になることは、ボスからシステムウィンドウが提示されたことだ。社長は見逃さないとは思っていたが、社長から連絡が来た。ボスと鬼の加護は完全に想定外のバグだったそう。NPCがシステムに関与することもあるらしいが、霊魂を帰属させるなどは初めての事象らしい。霊魂の帰属は本物の遺体から魂を抜き取る必要があった。だが、NPC、プレイヤー共に死ぬと肉体が消失するから抜き取る時間なんて無いに等しい。だが既存の霊魂を引き継ぐとなれば、NPCから引き取る以外に方法は無い。それも上位の存在から。完全にイレギュラーなボスから、完全なイレギュラーのバグ、そして霊魂の引き継ぎまで、全てがイレギュラー。そんな状態で生きて戻ってこれたのも、適応力のおかげだとか。俺はこれからどうなるだろうか。


〖ダンジョン攻略 ダンジョン形質変化(バグ) 謎の空間(バグ) 加護(バグ) ボス(バグ) ボス討伐(鬼神:魔羅)〗

<運営に守られたやつが投稿してるぞー>

<ほんとだwwwコメ欄荒らしてやろうぜwww>

<おいこれ、なんだよこれ>

<これがチートじゃないとか嘘だろ>

<どうせバグだろ>

<タイトルに(バグ)って書いてあるだろちゃんと読めよ>

<それにしても、加護無しで剣刺したんだろ?>

<鬼の神に一撃食らわせただけでこいつも相当バケモンだろ>

<魔羅、って、あの日本神話の、>

<なんだよ、最後まで言えよ>

<しかも橋姫って霊魂も受け継いだんだろ?>

<すげぇルーキーが現れたな>

<どうせバグがないと何も出来ないんだろww気にすんなwww>

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