第23話 月が恋をする話
「どうして、そう思うんです?」
「さあね。私が暗い女だからかな」
そう言うと、彼は何を愉快に思ったのか
喉を慣らして笑った。
「ちょっと笑わないでよ」
「いや、ごめんなさいね。
アナタがちょっと鈍感なものですから」
「えー? 意味わかんない」
「ハハ。だからね。言ったでしょう。
アナタがいるから僕は夜空を照らしているんです……」
おじょうさん、と彼は続けた。
私も思わず笑ってしまった。
「――なにそれ。変なひと」
彼は嬉しそうに言った。
「ありえないと、そうお思いですか。
だったら、あれをご覧なさい」
彼は空に指を差した。
相変わらず、月はどこにもない。
ただいつもより星が輝いて見える。
そんな夜の隙間を、西から東へ
一筋の星が流れていく。
願いごとも聞き届けぬ間に、スーッと流れて行った。
まるで、私の願いをもう知っているかのように。
私は、彼方へ去っていった星に語りかけた。
「ようやく素敵な物語を書けたのね」
その星が流れたあとに、空の向こうから
藍色とオレンジ色のまじった光がやってきた。
月は恋をする 八柳 心傍 @yatsunagikoyori
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