Phase. Reina 1話 新しい朝!

 私はワクワクしていた。

 今日は4月6日。

 待ちに待った高校の入学式!

(まだ5時か……)

 温かい布団の中で、裸足の足を絡ませて遊ばせながらそう思った。

 昨日の夜、高校も同じところに通うことになった、幼稚園からずっと親友の真紀ちゃんに

 「明日が楽しみすぎて寝られないよ〜!」

 と散々言ったけれど、通話が終わって数分後には爆睡したこと、真紀ちゃんには黙っとこっと。

 そんなことを思っているうちに、また眠気が襲ってきた。

 (私よ、、新年度早々に二度寝をするの、、?

 いや、絶対に負けない!今日、は起、き……)

 心の中の私の勇者。もっと頑張ってよ。

 剣を片手にエイエイと頑張っていたミニ玲那は、

「きゅう、、、」といって倒れ込んだ。

 二度寝した。


 ――――――――――――――――――――


「れいなー!朝ごはんできてるわよー!」

 お母さんの声で私は目を覚ました。

 時計を見る。

 7時半。

「やっばあぁぁ!!!」

 跳ね起きた。

 私の家から学校までなんと僅か15分。

 8時30分までに学校に着けば良いから、

 小1時間はあるわけだ。

 こんなとき、

 男子諸君なら大丈夫、余裕とか思うんだろうなあ!?

 女の子は朝の支度に時間がかかるの。

「顔洗って髪やって、ええと、ええと、、、」

 さっき起きたのに!

 そう思いながらもふもふした寝巻きの上下とナイトブラをしゅパッと脱ぎ、素早く畳んでベッドの上に置いておく。

 よし次は顔を洗おう!

 私の部屋は、多分8畳くらいある。

 広いだろ??

 そして朝日が目一杯入る大きな東窓があってその手前に私のベッドがある。

 ベッドの反対側の白い壁の辺りには

 私の勉強机があって、

 窓のちょうど隣のところ、

 勉強机の反対側でもあるんだけど、

 そこに廊下へと繋がるドアがある。

 因みに一軒家の2階建て。その2階に部屋があるのだ!

 自室のドアを開けて廊下を挟んで正面にある洗面所に入る。

 洗面所は、、、

 特に目立った特徴はないから自慢しません。

 蛇口を捻って水を出す。

 勢いよく出てきた水に手を差し出して濡らした。

 ああ、ひんやりしてて気持ち良い。

 そして両手で窪みを作ってその透き通った冷たい水を溜めた。

 思いっきり息を吸って止め、手に溜めた水を顔に勢いよくぶつけた。

 バシャッ――――。

 さっきまで私の掌の上で集まっていた水滴たちが、

 待ってましたと言わんばかりに飛び散った。

 この、朝起きて直ぐの洗顔はどうしてこんなに気持ち良いのか。

 訳がわからないよ。

 それを何回かして、タオルで顔を拭く。

 ゴシゴシしない。

 そう、ゴシゴシしないで水を取るのだ。

 この前動画サイトの「ゆーつーぶ」でみた。

 顔を拭いて、ふと正面の鏡を見た。

「あ、、、」

 (まっ、真っ裸じゃん、、、!!!)

 鏡に映った上半身があられのない姿になっていた。

 いつもなら朝起きて寝巻きを脱ぐ前に顔を洗っていたことを思い出した。

 洗面所のドアをゆっくり開けて、お父さんやお母さんがいないか確認。

 そーっと自室にもどる。

「ふぅ。変態扱いされるところだった。」

 勉強机横にある引き出しから今日の下着と靴下を拝借してっと。

 そして同じく勉強机の横の壁にかかっている新しい制服に手を伸ばす。

 新しい制服。

 こんなに可愛い服があって良いのか。

 膝まである黒のプリーツスカートに足を通し、これでもかと可愛い花の刺繍が入った白いセーラー服に袖を通す。

 学校は、セーラー服でもブレザーでもどっちでも選択できたのだけれど、真紀もセーラー服って言ってたし、取り敢えずセーラー服を選んでしまった。

 だって可愛いし。

 赤い胸元のリボンも大きな決め手。

 制服をしっかり着てもう一度洗面所に戻る。

 髪の毛やんなきゃ。

 髪。

 髪は女の子にとって生命線だ。

 そうだな、男の子にもわかるように言えば……

 男の子の……

 うん。言わないけど、あれぐらい大事だよ。

 ヘアアイロンに電源を入れる。

 アイロンが温まるまで、自分の、肩まである黒い髪をまじまじと見る。

「うん、なんか今日は良い感じだ。」

 何の根拠もなくそう思う。

 これが長年女の子をやってきた鋭い勘ってやつ?

 私も大人の階段駆け上がってるなあ、と、ちょっと笑みが溢れた。

 そうしている間に、アイロンが温まった。

 私の髪は、黒と言っても、なにか、少し青みがかっているような、そんな色合いをしている。

 私的にはチャームポイントかな。

 この髪の毛が醸し出してくれる雰囲気が私は好きだ。

 大人っぽくて良い!

 そんなことを思いながら前髪を伸ばしていく。

 そして左耳側の方の髪だけ耳の後ろにかけた。

 「よしっ」

 準備が整ったので、学校カバンを取りに一旦自室に戻る。

 「カバンカバン」

 モンスターの鳴き声にありそうだな、と思った。

 新しい学校カバンの横についている可愛らしいリスのストラップは、去年の誕生日に真紀からもらったもの。

 とても、とーっても気に入っている。

 どんぐり頬張ってて可愛いんだよね…………

 ふと、

 自室にある、たて鏡に写った自分を見て足が止まる。

「おお……」

 (制服、私結構イケてるじゃん!)

 さっき来た時は急いでいたのでちゃんと見てなかったのだけど、鏡にはしっかり者のお姉さんといっても過言ではない麗しい女性。

 え?私のことだよ。

 が写っていた。

「玲那ー!ご飯冷めるんだけどー!」

 1階のリビングから叫んでいるお母さんの声を聞いて、はっとする。

「はあい!今いきまーす!」

 私はカバンを持って自室を出て、1階のリビングに向かった。

「おはようお父さん!」

 階段を下っている時に1階の廊下で見えた浴衣を着たお父さんに声をかける。

「うん、おはよう」

 そうそう、朝のお父さんはいつもこんなだ。

 これ以上省けるところが無いくらい、

 少ない会話だけが唯一の特……

「制服、結構似合ってるじゃないか」

 (な、なんだって〜!?)

 予想外の追撃に私のモノローグはすってんころりん。

「本当!?ありがとう!」

 そう言ってルンルンでリビングへと向かう。

 リビングでは食卓に美味しそうなトーストとベーコンエッグがあった。

「やった!トーストだ!」

 そうそう、私は食パンのトーストが好きだ。

 ふんわりとしたあの食感だけじゃない。

 あのカリッとしたきつね色の表面。

 そして香ばしい麦の香り。

 噛めば噛むほど出てくる柔らかい甘みとあの食感。

美味しそうなトーストを大事に両手でとって、かどっこからかじりつく。

「んー!!!」

 うま。

「玲那、いただきますした?」

 あっ、してない。

「いただいてます!」

 もう、というように母が私を見る。

「玲那、制服よく似合ってるじゃない」

 母が食パンに食らいついている私を見て言う。

「さっき、お父さんにも言って貰っちゃった!」

「あらそう。今日は雪が降るのかしら」

 お父さん、言われてんぞ。

「楽しくなると良いわね」

 ん?

 ああ、学校のことか。

 私の周りでこれから起こるであろう、

 様々なアオハルを思い浮かべて口元がニヤけた。

「うん!」

 元気いっぱいに返す。

「そういえば貴方、時間大丈夫なの?」

 お母さんに言われて冷や汗がでた。

 あ。

 何時だろう今。

 8時10分だ。8時30分までだから、ギリ間に合うかな。

 その時だった。

 お母さんが恐怖の呪文を唱えた。

「確か今日は初日だから、8時15分までに登校しなきゃ行けないんじゃなかった?」

 え?

 あ。

 やっべ。

「うわあ!そうだった!!」

 新年度そうそう遅刻はやばいぞ柏木玲那!

「い、い、行かなきゃ!!!」

 ベーコンエッグを口に放り込み、足早に玄関へと向かう。

「それじゃあ行ってきます!」

 玄関のドアを勢いよく開けた。

「カバン忘れた!」

 玄関まで見送りに来ていた母の横を抜けてリビングへカバンを取りに行く。

「今度こそ行ってきます!」

「行ってらっしゃい、気をつけるのよ!」

 後ろからお母さんの声が聞こえる。

「全く、やっぱりまだまだ子供ね。」

 お母さん。聞こえてるよ。私は地獄耳なんだ。

 鏡の中では大人だったんだけどな。

 時計は8時13分を指している。

 家から学校まで15分。

 ああ。終わった。

 私の心の中の勇者ミニ玲那は不貞寝しようとしていた。

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〜ブルーアイシリーズ〜 柏木玲那は「めいど」に未練はない。 @Ritsu20

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