井波浜区心霊屋敷事件―後編
私の目の前にあるのは普通の
私は事前に受け取っていた
「おじゃましまーす」
誰もいないことがわかっているのに、どうしてつぶやいてしまうのだろうか。ちなみに、返事の代わりに返ってきたのは、ほこり
玄関正面は壁。右手に
私は
同時に、
「ついてきちゃったの?」
「
光の柱さんだ。何があるかわからないから、
「
まだあきらめてなかった。
「危ないよ?」
「
何かしらの
しょうがないなぁ、何の
私は頭を切り替えて、リビングに続く扉をそっと開けた。
ほこりが積もっていたり、扉の右手にある、庭に続く窓ガラスが割れていたりすることを
一歩踏み込んでみると、入ってきた扉の
だけど、光の柱さんを遠ざけるために、私はことさら
「……二階から、そこまで
「えっ」
「ここでひか……あなたに霊視のやり方を伝授します」
「
「ふむふむ」
「現世と幽世は
「現世というレイヤーに幽世というレイヤーが重なっている感じですか。そして、僕たちは
理解が早い!
「そうそう。なので、普通に幽世を見ようと思うと」
「幽霊になるしかないと」
先読みされた!
「すると、まず単純に思いつくのは、自分の目が所属するレイヤーを変えること、ですか?」
怖いよ! やっている人もいるけど!
「そ、そうだねぇ」
「あ、でも目はあくまでも
そうだね。
「それは
あ、なんか霊力の
こういう質の霊力は、
ああ、説明の途中だった。私は
「すごい簡単に言うと、霊力を用いて幽世と視界を繋げることで、現世にいながら
「難しそうですね。できるかなぁ」
「脳を幽世に適応させたり、目だけ幽世に移したりするよりは、
そういう事ができるやつはとんでもない
でも、光の柱さんなら……? と思わせてくるから
「まず、遠くを
「はい」
「で、お腹の下、
他の霊能力者たちがこのやり方をしているかは知らないけど、私はこれでできるようになりました。いや、できている状態から逆算したらこういう方法取っているな、ってなっただけだけどさぁ。
さあて。どうかなどうかな、光の柱さんはどうかな。
「……」
何も返ってこない所を見ると、できてないな?
ああよかった。これでリビング全体にうっすらと
でも、霊視はあくまでも技術。
なにせ私の友達は、霊感ゼロ霊力たったの十で霊視はできるようになったからね。
あ、一般的な霊能力者は霊力百万とかあるよ。
ととと、目的を忘れるところであった。早く
「まあ、リビングには何もいないから、二階に上がって同じことを試してみてね」
表情は確認できないが、
……え、うそ。霊力って
つまり、あれ天井も突き破ってたのか。地面はどうなんだろう。ブラジル辺りに行ってみればわかるんだろうか。
そんなことを考えながら、私はテーブルの上にろうそくを置き、部屋の四隅に盛り塩をする。
うわ、凄まじい勢いで真っ黒になった。
続いてお札をぺたぺたり。三枚くらい弾かれた。今回の相手は思ったより強そうだぁ、光の柱さんを二階に行かせておいてよかった。
まあ最悪
ボストンバッグを床に置いた
私はそこから伸びてきた
全身が
あー、ごく普通の寝室。私の右手側にベッド、
あだだだだ、関節がおかしい方向に曲がってきた。この怨霊、ここで私を殺す気だな。とりあえず
「ぐえっ!」
折れた! 右腕が、逆方向に曲がってる! 痛い痛い痛い!
これはまずすぎる。私の頭は右腕から全身に走る、神経に
ぐげげげげ、折れた骨が
次は足。
そして、
ああ、このまま首をねじ切られて死ぬのか。光の柱さん、無事にこの家を出られるといいな。
そんなことを考えていた時である。階段を下りてくる足音が聞こえたのは。
「き、ちゃ」
動けないこの状況でも見える。光の柱さんがこっちに近づいてくる。声を出してみたものの、それはあまりにもか
ああ、怨霊が姿を現した。
そして怨霊は扉の方に首を向けた。そこには光の柱がそびえ立っている。
「そこに、幽霊がいるんですね!?」
なーんでこの
折れてんだぞ、腕。見えてんだぞ、骨。なめとんのか、ワレェ!
……ん?
「どこですか、この
光の柱さんがあっちに行ったりこっちに行ったり。その度に、怨霊がなんか
怨霊がちらりとこちらを見た。
「いえ、あなたが壁に貼り付けになっている以上、いるのはここのはずです」
光の柱が怨霊に近づいてくる。怨霊は身をよじりながら私に近づいてくる。私は壁に固定されてる。
別に臭いはしないんだけど、なんとなく
じりじりと怨霊の逃げ場がなくなっていく。
そしてとうとう、私と怨霊の距離はほぼゼロになった。次は怨霊と光の柱との距離がゼロになる番だ。
五、四、三、二、一.
光の柱に触れて消える瞬間、怨霊が私に
私は壁から
色々とツッコミたいところはあるだろうが、とりあえず、除霊は成功したのだった。
♦
ここからは
あの子供、
そりゃあの状況でも私の救出より幽霊を
でも、お姉さんとしては
怨霊についてだけど、なんであの家にあんな強力な怨霊が
あ、もしかするとこの家から、もっと言うとこの部屋から出ることをできなくした代わりに莫大な呪力を得たんじゃなかろうか。他には行けないけど、寝室だけは最強とか。ベッドヤクザか? それでも南方ちゃんの霊力に
だとしても、始まりはなんだったんだろうね。南方ちゃんの調べでは家の下に死体が埋まっていることもなかったし。
それと南方ちゃん。
霊視もできるようになりました。幽世という
これであの子も霊能力者の
でもとっても忙しいみたいだから、ご一緒できるのははるか先の未来になるかも。ボディガードとしては世界最強クラスなんだよねぇ。いや、霊能力者としてもトップクラスかもしれないけど。
世界トップの霊能力者の
まあでも何事も経験値が重要だから。それだけは勝ってるから!
で、最後に
あの後、Aさんに会いに行ったんだけど、住んでいるはずの住所は
でも、お金はきっちり振り込まれてた。
まあ、こういう事はよくあることなので、今日も今日とて、私は怪しげな除霊依頼を引き受けるのだった。
次は
――了
滝塚市の与太話 ことのき @kotonoki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。滝塚市の与太話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます