徒花の夏
藍治 ゆき
「一緒に死んであげようか」
私は瞠目した。
隘路に迷い込んだ真夏。同じ丈のスカート。揺れる胸のリボン。後ろには、入道雲。
彼女とは十年近い付き合いで、昵懇の間柄だ。だから、もう相手が何を考えているのか、分かるのだろう。
「私は、あんたに死んでほしくない」
そう言うと、彼女は蒼穹に向かって笑った。
「私もだよ」
徒花のように、彼女の口からそう言葉が零れた。
「私は、あんたに看取られたい」
私は、本当は死にたくなどなかったのだと、気づいた。彼女に看取られながら、永訣の日を迎えたいのだ。
すぐ横には、小さな用水路。片足が、くるぶしまでつかりそうなくらいの、小さな用水路。
「ここで入水自殺でもする?」
そう言うと、彼女は、けらけら、と笑った。
「死にきれないよ」
こんな小さな用水路に顔を突っ込んでも、頭が入りきらない。
「そうだね」
空虚だ。でも、この刹那が好きだ。
「明日も、一緒に帰ってくれる?」
彼女の背中に向かって言った。彼女は快活に振り向いた。
「もちろん!」
彼女は笑っていた。遠くで雷の音がする。
彼女とこうしてられるうちは、生きられると感じた。
徒花の夏 藍治 ゆき @yuki_aiji
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